名曲288 「TOWN」【吉田美奈子】

ーーこの気だるい雰囲気と夏がぴったりの最強スルメ曲ーー

【TOWN / 吉田美奈子】(ニコニコ動画)

 吉田美奈子は一度聴いたら忘れられない特徴的な歌声の持ち主だ。今回紹介するのは1982年に発売された「TOWN」。たまたま耳にしたこの曲、がっちりハートを掴まれた。

 最初は「おお、いい声だな」くらいに思っていたのだが、メロディーに心が溶けそうになった。いつまでも聞いていたいと思っていると本当に長々と演奏が続き、心を満たしていったのである。おいおい、ロックな感じなのにこんなに親切なのかよと、ハートフルな姿勢に胸を打たれた。

{夜へ継ぐ 時のベールを 突き抜けて 浮かぶ 光の街は たちまち集まる人々の群れで埋る 身動きできない騒がしい渦へ巻き込む}

 一語一句に魂を込めているような歌い方がいい。日本語を大事にしているかのような。上記の歌詞はまさしく『詞』。後に書いてみる。

{Town 鮮やかに Town 写し出された}

 半端ないセンスである。この2フレーズ。これでサビが終わる。主役はどちらかというとメロディーだ。ギター、ベース、トランペット(だろうか)がそれぞれ大騒ぎしているのだが、それをコンダクターである吉田美奈子がまとめているかのような構図。

{そびえるコンクリート 透間を縫うは 駆け足で過ぎる時のリズムに あたりは一面音の洪水で溢れる 途切れぬ騒ぎと時間の津波に揺られて}

 うーむ芸術。最近の歌詞は具体性を求めるのだが、これは見るものの想像性に任せる本来の詞である。小説ほど詳細なものではないので、その後のストーリーなども各々に委ねられる。

{Town 夜明けさえ Town 真昼の様な}

 ここで歌詞は終わるが、絶対に最後まで聴いてほしい。芸術を感じられる。現在の私の中では聴くたびに評価が上がっていく最強スルメ曲に属している。

 さて、蛇足になるが私なりのこの曲の世界観を想像してみたい。

 「舞台は歌舞伎町のような夜も賑やかな街。時刻は深夜3時。平日なのにもかかわらず、騒がしく人が行き交う。私はそれを白々しく見つめ、距離を置くようにして細い路地に入る。左右には中途半端な高さのビル。誰もいない道の中にも「人」の気配が残る跡。ここで襲われたら逃げ場のないような一本道に、先ほどの光景がフラッシュバックして駆け足になる。踏みしめる足音は、同じものではない。こんなところにも街は残っていた。」

 以上。アウトロが長いのは、その道の長さを示していたりなんて。

       【今日の名歌詞】

そびえるコンクリート 透間を縫うは 駆け足で過ぎる時のリズムに あたりは一面音の洪水で溢れる 途切れぬ騒ぎと時間の津波に揺られて



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?