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新・オーディオ入門53 パワーアンプ編 真空管パワーアンプのメリット、デメリット

『オーディオはよくわからないけど良い音で音楽を聴きたい』、『オーディオ歴は長いけどこれは知らなかった!』というお話を聴くことがあります。 新オーディオ入門はオーディオの基礎についてエンジニアの視点から初心者の方にも判りやすく解説していくものです。 タイトルは私が10代の時に愛読した『オーディオ入門』から拝借しました。 私がオーディオに携わることになったきっかけの本です。 とても判りやすく説明されていて、手元に置いて辞書のように使っていました。 『新・オーディオ入門』はその現代版となれるよう書き進めたいと思います。

ここでは音楽信号を増幅するための素子として真空管だけを使用したものを真空管パワーアンプと考えます。 真空管と半導体のハイブリッドアンプは含まれません。 真空管パワーアンプの一般的な特徴は以下の通りです。

● 電源の消費電力は大きいが、出力が小さい
真空管は50年以上前に設計された増幅素子。当時大出力アンプはそれほど必要とされていなかったため小出力で、電源に対する出力の効率も悪いです。

● 周波数特性が悪い
真空管パワーアンプは出力トランスを使用するのが一般的。 周波数特性の悪さは出力トランスがボトルネックとなっています。特性の良い高価な出力トランスを使用すれば良いのですが、出力トランスは真空管パワーアンプの中でもとびぬけて高価なパーツです。 これがさらに高価なものになることは現実的でありません。 また、出力トランスを使用しないOTL(アウトプット・トランス・レス)という方式もありますが、故障が多いためほとんど使用されません。

● ノイズや歪が多い
真空管アンプにはカソードを温めるヒーター回路が必要です。 そのため真空管を覗いてみるとかすかに光っているのですが、ここからノイズが侵入します。俗に言う『ハム』というノイズでブーンという音が常に出ている状態になります。 また、真空管パワーアンプは出力が小さいため、無理に出力を増大させようと工夫し、これが歪を増やす原因になります。

● 微小信号の増幅に長けている
真空管パワーアンプの唯一のメリットは微小信号を増幅することに長けているという点です。 この場合の微小信号というのは小さな音というだけではありません。例えば、バイオリンの倍音成分のような大きな信号に隠れてしまうような信号も含まれます。 これがいわゆる『響き』です。真空管パワーアンプは多くのデメリットを抱えながらも『響き」でオーディオファンを魅了するパワーアンプと言えます。