かもめちゃん

本屋で見かけた時から気になっていた、小川糸さんの『ライオンのおやつ』。クリスマスに息子がプレゼントしてくれたので、年末に早速一気読みした。

瀬戸内の海と柑橘に囲まれたホスピス、ライオンの家。
若くしてそこに入ることを一人で決めてきた、主人公。
週に一度のおやつの時間は、誰かがリクエストした人生の最後に食べたいおやつを、再現してくれる。

読み進める中で、音楽セラピーをするかもめちゃんという人が出てきた。音楽療法士、という単語が物語に出てきたとき、ハッとして、涙ぐんでいた。

私も、音楽療法士だった。新卒から14年ほど、音楽療法士として沢山の人に出会ってきた。
あまり名前も知られていなくて、手探りで仕事をしたり、学んだりしていた。
音楽っていいよね、癒されるよね、と言われるけれど、数字に表せる効果は?自然によくなったんじゃないの?他のリハビリの効果じゃないの?と、なかなか『ふんわりとした良さそうなもの』から抜け出せずにいた。
それでも、音楽を通して、介して、相手の方の人生の音楽に触れさせてもらうこと、今一緒にできることを探すこと、楽しかったり心地よくなる時間をつくること、そんな場面を周りの人も一緒に共有することは、とてもありがたい時間だった。

そんな、音楽療法士が、物語の中に、一職種として描かれている。
本当に本当に嬉しかった。

そして、何より、本の中でかもめちゃんの音楽セラピーを受けた主人公が、心がちゃぽちゃぽすると言ってくれたことが。
いつも、私の自己満足じゃないかと迷っていた気持ちが、少し晴れた。もちろん、私が関わったみんながみんな、そう思ったわけじゃないだろうけれど、音楽療法という形が物語の中で肯定されたことは、私の気持ちを軽くしてくれた。

今、わたしは音楽療法士としてではなく、支援員として、福祉の分野にいる。
音楽とは離れている。

もう一度、音楽の道に戻りたいような気もするし、違う分野で進んでみたい気もする。

どんな形であっても、誰かを照らせるようにありたい。
作中にでてきた『よく生きる』。大切にしたいことは、これまでも、これからも、変わらない。

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