第5話 メンタル対応の判例 ~発達障害編~

はじめに

前回は、うつ病についてのメンタル対応に関する判例について解説しました。

改めて、内容をまとめると

企業には下記が求められると言えます。

➀メンタル不調は自分から言いだしずらいのだから、企業は積極的に確認すべきである。

➁不調時には、受診を勧めたり、業務を多少軽減したりするだけでは不十分である。

➂状態が安定するまで十分に業務を軽減したり、休ませたりすべきである。

さて、今回は発達障害に関する判例を紹介していきます。

昨今で発達障害は雑誌などの特集で扱われることも多く、企業での関心も高まっております。

なお、本編で出てくるアスペルガー症候群は現在、DSM-Ⅴでは自閉スペクトラム症に含まれる概念で発達障害の1つです。自閉スペクトラム症については、本シリーズの後半で詳しく解説します。

アスペルガー症候群についてとてもざっくりと説明すると

・空気を読んだりするのが苦手

・臨機応変に対応するのが苦手

・他者とのコミュニケーションで困ることが多い

特徴があります。

詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。

O公立大学法人事件

この事件の概要をざっくりと説明すると

困った行動が繰り返されるアスペルガー症候群の准教授(Xさん)を大学が解雇しようとした。しかし、裁判所は「いやいや、アスペルガー症候群なのだし、特性に配慮した対応を尽くさないと解雇なんてダメですよ」と解雇を無効にした事件です。

こちらの事件も非常に示唆に富み、いかに雇用主=企業側にやるべきことが多いかを教えてくれます。

もう少し詳しく説明しましょう

事件の概要


事件の概要をごく簡単に説明します。

・O大学に勤めていたX准教授はアスペルガー症候群と診断されていた
・O大学はその事実を知っていた
・X准教授はさまざまな問題行為を起こした
 (大学生協や学生とのトラブル、精神科病院の受付での自傷行為など)
・O大学はXがアスペルガー症候群であるため、「直接的な注意はかえって深刻な問題を生じさせるかもしれない」と基本的には見守りつつ配慮を続けていた。
・しかし、やがて見守りも限界となり、周囲との意思疎通さえ困難であり業務・大学の運営に支障を来すとしてO大学はX准教授を解雇した。

上記のポイントは

①X准教授は事実、問題行為を複数起こしていた
➁O大学はX准教授がアスペルガー症候群であることを知っていた
③O大学は直接的な注意を控えていた

部分です。

裁判所の考え

裁判所の考えをあえて意訳するとこうだと思います。

「確かに困った行動はあったかもしれない。けど空気や文脈を読むのが苦手なアスペルガー症候群なんだから一定は仕方ない。むしろ読めない前提で付き合うべきだ。」
「大学はアスペルガー症候群だと知っていたでしょ?アスペルガー症候群の特性も踏まえて、きちんと指導や注意をしなさいな。主治医や専門家の意見は聞いてないでしょ?やれることもやらずに解雇とは話にならない。」

わかりやすさを重視するためにかなり乱暴に意訳しましたが、私にはこう読めました。

もう少しポイントを深掘りします。


■一般的には問題行為と思われるものでもXには障害のためわからない。 いわゆる不文律を守るように求めるのは無理がある

■アスペルガー症候群であり、職場もその事実を知っていたことから、合理的配慮を行うべきだった。合理的配慮のためには主治医や専門家の意見を聞くべきであった。

■大学には、Xにわかるように指導などして改善の機会を与えるべきだった

アスペルガー症候群は、いわゆる空気を読む、不文律を理解するといった行動は苦手とされています。大学側が問題行為と捉えていたもののなかには不文律のようなものが含まれていました。裁判所は「見守るだけでなく、特性を踏まえてキチンと指導しなさい」と言っていたわけです。

会社がすべきことは?

本件、一見するとかなり高い要求をしているように見えますが、日本では、「障害者の雇用の促進等に関する法律(障碍者雇用促進法)」において、いわゆる合理的配慮が企業に求められています

企業にはこのくらいの義務が求められるということを知っておいてください。

ここからは大学(会社)がどうすべきだったかを解説します。

大学(会社)は下記が求められます。

・アスペルガー症候群の申告を受けた時点で
・プライバシーに配慮しながら、
・大学(会社)の問題意識を指摘して、
・本人の同意の上、
・主治医に意見を求めたり、ジョブコーチの支援を受けたりして、本人の支障がなくなるようにする。

わかりやすく言うと、大学(企業)はXさんに対して
「なるほど、アスペルガー症候群なのですね」
「じつは我々としては、Xさんのこんなところに困っています」
「これがアスペルガー症候群によるものとすれば、配慮していきたいと思います」
「Xさんが良ければ、主治医や専門家に意見を聞いて、今後のコミュニケーションや働き方について検討していきたい」
と切り出す必要があったでしょう。

ここで会社は
「会社としてはお互いの困りを解消すべく建設的に話を進める」姿勢を意識すべきです。
間違えても排除の方向で考えるべきではありません。

〇〇病や※※障害と聞くとつい身構えてしまったり、「刺激して悪化させたらどうしよう」という思いが出てしまいます。本件でも「直接的な注意はかえって深刻な問題を生じさせるかもしれない」と及び腰になっています。

しかし、結局は解雇→裁判というこれまた誰も幸せにならない結果になっています。

どうすればこの落とし穴を回避できたのか?

次回以降はいよいよ、こういった”病気や障害”と”職場での困り”をどのように考え落とし穴を回避していくか、実践的な内容をお伝えしていきます。

なお、本件は全体の流れも非常に大事なので、こちらもぜひ参照してください。

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