第2話 ”寄り添い”の落とし穴の正体

はじめに

前回は、ゴールなき”寄り添い”を続けると落とし穴にはまってしまい、結果として本人も会社も苦しんでしまうということをお話ししました。

なぜ寄り添っただけでは事態が解決しないばかりか悪化するのか?

今回のそのメカニズム=落とし穴の正体を説明します。

そのメカニズムは大きく3つに分けることができます。

1つずつ解説していきます。


1.メンタル不調の長期化によるダメージの蓄積


メンタル不調の代表格「うつ病」は認知機能=頭の働きを低下させてしまいます。

うつ病のさなかではもちろん、治った後も尾を引いてしまうといわれています。(※1)またうつ病を繰り返したり長引かせたりしまうことでも認知機能が下がる可能性があるといわれています。(※2)

前回登場したAさんのように、うつ病がしっかり治らない状態で仕事に復帰し、その後も同じ状態が続くと、ダメージが蓄積し、パフォーマンスを低下させてしまう可能性が高いのです。

ほかにも躁うつ病や統合失調症など様々なメンタル疾患では、症状が長引けば長引くほど難治になり認知機能が低下するということが知られています。

(各疾患の特徴などについてはシリーズの後半部分で詳しく説明する予定です。)

2.実質的な長期間職務離脱による経験・スキル不足

うつ病のAさん、発達障害のBさんいずれのケースでも、キャリアやスキルのアップにつながる仕事が長く任されなかった経緯がありました。

不調やメンタル疾患への「配慮」のもと、責任のある仕事から長く遠ざかっているうち、積めるはずの経験などが積めなくなり、スキルも不足してきます。そうなると、ますます年齢、年次に見合った仕事につけなくなるという悪循環が起こります。いわば、キャリアやスキルの「塩漬け」が起きてしまうのです。

3.配慮の長期化による心理の変化

不調への配慮が長期化すると配慮の状態が「当たり前」になってしまい、本人が変化を受け入れにくくなる傾向があります。

本人もこの状態への自覚はあります。でも、同僚がやっているような仕事は自分はできない。であれば現状を堅持したいと考えるようになります。

下手をすると疾病利得と呼ばれる、病気によって逆に恩恵を得てしまう状態にもなってしまいます。

一方で配慮を急にやめたり難しい仕事を任せられたりすると、突然熱湯を浴びせられたようなショックを受け、不安もふくらむので、強く反応してしまうことにもなります。

本人たちからしてみると「いままではOKだったのに何でいきなり意地悪するの?」と考えてしまうことさえあります。


まとめ

2つのケースでは、会社は先を見通した具体策を講じず、場当たり的な対応を続けていました。

Aさんは不調が長引いた上、経験やスキルも積めませんでした。そのうえ、周りの同僚の負担も増やしてしまいまいた。何も解決しないばかりか、かえって事態が悪化してしまいました。

発達障害のBさんの場合も本人への適切な注意や指導は行われず、ハレモノのようになった結果、本人も辛くなっていきました。

こうした事例は、うつ病や発達障害に限りません。ほかのメンタル不調(適応障害、パニック症、社交不安症、統合失調症、アルコール依存症等)への対応でも言えることです。

”寄り添い”の落とし穴は一度はまってしまうと抜け出すことが非常に困難です。
企業としては落とし穴にはまらないために先手をうっていく必要があります。

特に「配慮の長期化による心理の変化」は企業に大きな責任があります。

長期間にわたる配慮をしたり、積極的な指導や注意を避けたりすることは、本人に対して「そのままでも良いんだよ」というメッセージを送っていることに他なりません。

それなのに会社の都合で急に不利益な変更、特に解雇などをしようとすることは社会通念上認められないケースもあります。

では企業はどう手を打つべきだったのか?次回以降詳しく説明していきます。



参考文献リンク

※1※2

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