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#33 Makoto Ozone and Park Street Kids『Park Street Kids』

鈴木さんへ
 NOFX、なつかしいですね。90年代にエピタフ・レコードが話題となるなかで、その名前を記憶したし、鈴木さん同様に連呼される”メロコア”という言葉に違和感を持ったのも覚えています。たしか当時、秋葉原が再開発中で、駅前に作られた期間限定の公園だったかな、そこに集まるスケボー少年たちがメロコアを大音量で掛けている、とプロモーションされたように思います。
 そこから考えると、年齢的にはきっと50代とかですよね。でも、声が10代のように若いのにビックリ。ティーン・スピリットを失っていない、というのがいいのかな。そこに驚いています。

Makoto Ozone and Park Street Kids『Park Street Kids』

 

 最高に楽しい!! アルバムは、『Mississippi Rag』から始まる。”Rag(ラグ)”とはジャズの前身にあたる音楽で、生まれ故郷はニューオリンズ。子供の頃、映画『スティング』のサントラでラグを知り、弾むような軽快なリズムになんて楽しい曲なんだろうと、心奪われたことを今でも鮮明に憶えているし、映画『ニューオリンズ』を観た時もこういう音楽を聴きたかったと思ったりした。
 そんなラグをたっぷり聴けるのがこのアルバム。パーク・ストリート・キズは、初耳の存在だったけれど、実は、ジャズピアニスト・小曽根真さんの発案によるもの。彼が執筆しているライナーノーツによれば、子供の頃にお父さんが弾く『Mississippi Rag』などを聴いて育ったとかで、彼にとっての想い出の曲が演奏されている。そんな小曽根さんがこのレコーディングでまず声を掛けたのが、クラリネット奏者の北村英治さんとトランペット奏者の中川喜弘さんだった。おふたりは、ともにジャズの中でも古いスタイル”デキシーランド・ジャズ”が日本でも大流行していた時代から演奏している大ベテランであり、第一人者。北村さんとの共演は、小曽根さんの念願だったという。
 その北村さんのソロ演奏が聴こえた瞬間、体の動きが止まってしまう。そして、甘いためいきと共に幸せな気持ちに包まれる。気品があって、粋であり、優しく、温かな音色から物語が伝わってくるのだ。さすが90歳を超えた今も現役で、生涯クラリネットと歩んでいる方の演奏だと、うなるしかない。他にトロンボーンの中川英二郎さん、ベースの中村健吾さん、ドラムの高橋信之介さんが参加している。

 多くの曲が古き良き時代のものだけれど、1曲『Life is Beautiful』だけは中川英二郎さんが作曲したオリジナル楽曲。心の苦しみを笑顔で乗り越えようとするようなせつなさが野太い音色のトロンボーンから感じられて、ブルースが生まれた時代の人々の顔が浮かんでくる。そして、そのあとに演奏されるヘンリー・マンシーニ作曲の『Sunflower』の小曽根さんのピアノに涙がこぼれてしかたない。当日急遽決まった曲だそうだが、なぜこの曲を演奏することになったのか。6人の思いに私も共感する。
 リリースが小曽根さんの所属レーベルではなく、インディーズからなので、もしかしたら情報が届いていない人がいるかもしれない。だからこそ、声を大にして言いたい。絶対に聴いて欲しい。楽器から歌が、会話が聴こえてくる歓びが詰まっているから……。
                            服部のり子


                           


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