『初恋の悪魔』感想(ネタバレなし・全話)

まとめ

☆4(先の読めないミステリー刑事ドラマとして最後まで飽きなかった。会話のテンポや空気の緩急、人物描写のセンスの良さがセンスいい)
https://www.ntv.co.jp/hatsukoinoakuma/

感想

なんか恋愛ものっぽいタイトルだし見てない人は全員そう思ってる気がするんだけど、ジャンルとしては捜査メインの刑事ドラマ。
単純にその要素だけでも犯罪トリックや読者へのミスリードがよく出来てた。
あと、会話やシーンの緊張・緩和のリズムと合間合間に挟まれるアピール控えめなギャグのセンスがよくて、いわゆる”ずっと見てられる”タイプの飽きなさも◯。
手塚治虫がヒョウタンツギを唐突に出すのと同じようなリズム感があった。

でもやっぱりこの作品の良さはキャラクターの設定とその描き方と、ストーリーを通じての変化にあったと思う。
どこか歪んだ登場人物たちが抱える過去と今の傷が、物語を通じてどう変化していくのか。それを見る我々読者が登場人物に対して抱く感想はどう変化していくのか。
登場人物たちの相関図が変わっていくたびに彼らの新たな一面が見えてきて、人物描写がどんどん深くなる。

そういう変化が二転三転あって、そしてそれがストーリーの中で自然と展開されるのがいい。
僕は「ああ、今回はこいつのこれについての話ね」みたいなことを露骨に感じると覚めちゃうんだけど、これは因果関係が逆の方が好きで、各話の終盤になって「え!?この話こいつのそういうところに絡むの?そんでこいつはそういうヤツだったの?!」ってなってくれると嬉しい。
初恋の悪魔はわりと終盤までずっとそういう構成だったと思う。

一話を見ると、「こんなやつ現実にいるかよ、また大袈裟なマンガみたいな誇張しやがって」とか思うんだけど、見ていくうちになんでそういう人間なのかしっかり描写されて納得がいくし、それがこのストーリーにどう影響し、またどう影響されていくのも丁寧に描写されていて話が面白かった。
割とそういう、登場人物に対する評価がだんだん変わっていく作品が好きなので・・・
白石晃士の『オカルト』とかね・・・

じゃあなんで☆5じゃなくて4なのって話なんだけど、最終エピソードが主人公4人たちの誰の物語でもなくて、なんかそこで僕のテンションに急ブレーキがかかって頭ぶっちゃったんだよなー
例えば『MIU404』の最終エピソードって主役二人のこれからの関係性や、今後どう生きていくのかに関わる事件になってると思うんだけど、初恋の悪魔の最終エピソードを動かしてるテーマって脇役である署長のものなんだよね・・・脇役といってもメイン脇役の中の一人ではあるけど・・・
物語序盤〜中盤にかけて提示された主人公たちのテーマは割と最終エピソード始まる頃には何かしらの山場はみんな超えていて、畳むフェーズに入っちゃってたように感じられた。
だから主人公たちのテーマなしで物語を動かすためにサスペンス要素を強くする必要があったのかな?みたいな感じもした。

これは僕が100万回繰り返してる話なんだけど、島本和彦が同人誌で言っていた、「外面的な起承転結と内面的な起承転結」の話とかそういうのに通じるやつで、仮面ライダーがキックする前にはもうなんでライダーが勝つのかの描写はとっくに終わってるべきだし、それはそうなんだけど。
僕の感じた急ブレーキの原因として、主人公たちそれぞれのテーマの畳まれる過程が、最終エピソードにあんまり絡んでなかったのかもしれないなあ。
エピローグで語られた内容が最終エピソードに組み込まれてたら最高だったのかも。

とはいえ一流のプロが手抜きなく作り込んだことがめちゃくちゃ伝わってくるいいドラマだった。


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