令和5年予備試験 刑事訴訟法 再現

令和5年予備試験 刑事訴訟法
 
設問1
1(1)甲を本件住居侵入・強盗致傷の事実(事実②とする)と本件暴行の事実(事実①)で勾留することは、逮捕前置主義(刑事訴訟法(以下法名省略)203条~206条)に反し、許されないのではないか。
(2)逮捕前置主義とは、勾留をするためには、適法な逮捕を前置しなければならないと言う原則をいう。逮捕前置主義が如何なる範囲に及ぶかにつき、人を基準に判断すべきという見解がある。これによれば、本件では甲は事実②で既に逮捕されているので、事実①で逮捕されていないにもかかわらず、事実①を付加して勾留することは許されることになる。
 しかし、逮捕前置主義の趣旨は、勾留よりも身体拘束期間が短い逮捕(203条~205条、208条)を前置することで、被疑者の早期解放の途を開くことにある。上記見解をとると、一度逮捕してしまえば、無制限に他の犯罪事実についていきなり勾留できることになり、逮捕前置主義に反する。そこで、被疑事実の同一性を基準に、逮捕前置主義の及ぶ範囲を考えるべきである。
 本件では事実②は令和4年8月20日、V宅での皇統致傷事件であるのに対し、事実①は同年7月1日の飲食店での暴行事件であり、時間・場所・犯行態様の異なる犯罪事実である。また両者は併合罪の関係にある。そうであれば、事実②と事実①は同一の被疑事実とはいえず、事実②の逮捕の効力は事実①に及んでいない。
 よって、事実②に事実①を付加して勾留することは、逮捕前置主義に反し許されないのが原則である。
(3)もっとも、上記のとおり逮捕前置主義の趣旨は被疑者の早期解放にあるのだから、その趣旨に反しない場合は原則を貫く必要がない。異なる被疑事実を付加した勾留であっても、被疑者の早期解放という趣旨に反しない場合には、逮捕前置主義に反せず、許されると解する。
 本件では、もし付加を認めないと、事実②の逮捕・勾留が終わった後に改めて事実①について逮捕・勾留が成される恐れがあり、そうなると甲の早期解放という趣旨に反することとなる。また、事実②で勾留された時点で最大20日間という身体拘束期間(208条)はもともと決まっていたのであり、事実①が付加されたところでその期間に影響はないのだから、甲の早期解放に不利益ともいえない。
 よって、事実②に事実①を付加して勾留請求しても、逮捕前置主義の趣旨に反しない。
(4)以上より、事実②及び事実①で勾したとしても、逮捕前置主義に反しない。
2 裁判官は、甲を事実②及び事実①で勾留することができる。
設問2
1(1)下線部②は、再勾留禁止の原則に反し、許されないのではないか。
(2)逮捕・勾留に厳格な時間制限がされている(203条~208条)ことの趣旨を徹底するため、同一事件について複数回の逮捕・勾留はできない(逮捕・勾留一回性の原則)。同原則から、同一事件につき異なる時点において複数回の逮捕・勾留は許されないという、再逮捕・再勾留禁止の原則が導かれる。
 もっとも、再逮捕は明文をもって許容されている(199条3項)ことから、再勾留も許容される場合があると解するのが素直である。ただし、あくまで例外であって、許される場合は厳格に考えなければならない。
 そこで、新事情の出現等の再勾留の必要性や再勾留により生じる被疑者への不利益、不当な身体拘束の蒸し返しといえるか等を考慮し、やむを得ないと認められる場合に限り、再勾留が許されると解する。なお、勾留は逮捕よりも身体拘束が長い(203条~206条、208条)ので、上記判断に当たっては再逮捕におけるものより慎重に考得る必要がある。
(3)甲が事実②の勾留から釈放された後の10月6日、乙が別事件で逮捕され、その後の取り調べでPに対し、事実②について甲と犯行を相談したこと、乙が実行し、甲が換金する旨の役割分担をして犯行に及んだことを供述している。また、Pが乙を逮捕した際に押収した乙の携帯電話を解析したところ、甲との共謀を裏付けるメッセージが記録されていることが判明している。これらは、甲が事実②の犯行に共犯者として関わったことを裏付ける重大な証拠であり、甲の釈放後に明らかになった新事情である。事実②は強盗致傷という重大犯罪についての被疑事実である。同事件が発生した直後の時点で、甲が被害品たる腕時計を中古品買取店に売却した事実を捜査機関は把握しており、甲の関与について嫌疑を持っていたが、上記新事情により甲への嫌疑が更に高まっている状況にある。また、甲は事実①の際、所在不明となっているから、再勾留を認めず釈放してしまうと、逃亡し、再び所在不明になるおそれもある。以上からすれば、再勾留の必要性は高いといえる。
 一方、たしかに、甲は先行する事実②の逮捕・勾留に加えて、さらに最大20日間(208条)の身体拘束を加えられる恐れがあり、甲に生じる不利益は大きいとも思える。しかし、先立つ逮捕・勾留の最中、甲は一貫して黙秘していた。甲は実行犯でなく、かつその実行犯の足取りをその時点で掴めていなかったことからすれば甲に黙秘されてしまえば、甲が本当に事実②に関与していたのかどうか、立証することは困難になってしまう。また、捜査機関は先行逮捕・勾留中、甲の所持する携帯電話や甲方から押収したパソコンの解析、甲と交友関係にある者の取り調べ、V方周辺の防犯カメラに映っていた不審者に関する更なる聞き込みなど、考え得る限りの捜査手法を尽くしたのであり、にもかかわらず実行犯の氏名及び所在も腕時計が甲にわたった状況等も判明しなかったのである。そうであれば、捜査機関は甲の関与の立証のため十分に手を尽くしたが、ついにそれを立証するに至らず、甲を事実②で公訴請求するのは困難であると判断したのであり、捜査機関に怠慢はなく、不当な身体拘束の蒸し返しであるといえない。たしかに、甲には更なる身体拘束という不利益が生じてしまうが、これは受任すべきものであると考えるべきである。また、捜査機関は既に甲との共謀を裏付けるメッセージを、押収した乙の携帯電話から得ている以上、甲の事実②の関与を立証するにはこれで十分であり、わざわざ甲を再勾留するまでもないとも思える。しかし、それだけで事件の全貌が把握できるとは限らない。事件の全体像や詳細については、当事者たる甲を取り調べることが最も直截的かつ有効な手段である。そうであれば、乙の携帯を既に押収していることは、結論を左右しない。
 以上からすれば、再勾留の必要性は非常に高く、また身体拘束の不当な蒸し返しでもないので、再逮捕よりもさらに慎重に許容性を検討したとしても、再勾留を許して良いものと解される。
 よって、甲の再勾留はやむをえないといえる。
(4)甲を再勾留することは、例外的に許される。
2 裁判官は甲を勾留することができる。                   以上
 
 
再現作成日 9月13日
解答時間 65分
分量 4枚後半

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