令和6年司法試験 経済法 再現答案
令和6年司法試験 選択科目(経済法) 再現答案
作成日 2024年7月26日
設問1 構成30分 作成65分
設問2 構成25分 作成60分
分量8枚フル(4枚フル+4枚フル)
設問1
第1 メーカー9社、Y社及び販売業者9社の行為は独占禁止法(以下法名省略)2条5項に該当し、3条後段に反しないか。
1(1)「事業者」(2条1項)とは、何らかの経済的利益に対し反対給付を頒布継続して行う者をいう。販売業者9社は甲を販売する者であり、指名資格もあるので「事業者」である。一方メーカー9社及びY社はいずれも指名資格がない。このような者も違反行為の主体である事業者に当たるのか。果たした役割の重要性や利益の帰属等を考慮して判断する。
(2)たしかにメーカー9社は指名資格がなく、甲の入札競争に参加することができず、違反の主体とならないと思える。しかし、メーカー9社は各自の甲を専門に販売する販売業者9社に指示して入札に参加させていた。販売業者9社は従来から甲の販売について特に営業をしておらず、各メーカーの指示に従った価格で甲製品を顧客に販売し、その売上額から一定率のマージンを受け取っていた。このようなことから、両者に資本関係はないとしても、事実上販売業者9社はメーカー9社の手足となって甲の販売を行っていたといえ、本件取決めもその一環であるといえる。また、本件取り決めにおいてメーカー9社はYと調整して落札者と落札価格を決定し、そのとおりになるよう販売9社を操るという重要な役割を果たしている。そして、販売業者9社の落札が増えるほどそれを製造する自らも利益を得る。これらのことから、メーカー9社は違反行為の主体たる「事業者」に当たる。
Yも卸業者であって、甲入札の指名資格はない。しかし、甲製品の入札の各入札結果につき、発注数量、落札業者、落札金額等の情報を記載した入札一覧表を独自に作成するなど、甲製品の入札の各入札結果に詳しい。Yは一覧表を基に、本件取決めにおいてYが中心となって落札予定者、落札価格を調整していた。このことから、Yもまた本件取決めにおいて中核的な役割を持ったといえる。本件取決めに基づき販売業者9社が落札すれば必ずYが卸売業者として間に入るとされているから、Yは本件取り決めにより利益を得る。よって、Yも違反の主体である「事業者」に当たる。
2(1)「他の事業者」とは、互いに実質的に競争関係にある事業者をいう。
(2)販売業者9社はいずれも指名資格を有し、入札を争う関係にあるので互いに「他の事業者」である。メーカー9社も、指名資格はないが前記の通り販売業者9社は実質的に各メーカーの手足であり、どの販売業者が入札するかで自己の利益が変わるので競争関係にあり、「他の事業者」である。
物流上の必要から、メーカーと販売業者の間に卸売業者が入ることは従来からあったのであり、卸売業者は指名資格がなくとも入札後の納品に際しての物流業務について競争関係にある。ゆえに、Yも「他の事業者」に当たる。
3(1)「共同して」とは人為性の表れであって、意思連絡のあることをいう。意思連絡とは、互いに一定の行為をすることを認識・認容し、これと歩調を合わせる意思があることをいう。本件のような入札談合の場合、基本合意の有無によって判断する。
(2)令和3年4月ごろにされた本件取決めは、メーカー9社が入札一覧表を参考にYに受注希望の有無を伝え(2)、それを受けてYが落札予定者を決定し(3)、Yはその者が落札できるよう販売9社各自の入札価格を定めて、メーカー9社を介して販売9社に伝え(4)、それを販売9社が実行するという仕組みであり、落札予定者と落札価格を決めるものだから基本合意である。本件取決めにおいてメーカー9社間では一切直接交渉しない(5)とされていることから、メーカー9社間の意思連絡はないとも思えるが、第三者Yを通して意思連絡をしているといえるので、この点は結論を左右しない。販売業者9社は、メーカー9社の手足にすぎないから、メーカー9社間及びYとの間で意思連絡が認められる以上、販売9社間にも認められる。
(3)よって、令和3年4月頃において基本合意が成立し、「共同して」といえる。
4(1)「相互に…拘束」とは、拘束内容の共通性と拘束の相互性をいう。拘束内容が完全に一致していなくても、目的が共通であれば拘束内容の共通性は認められる。また高速の程度としては事実上の者で足りる。
(2)メーカー9社、販売業者9社、Yはそれぞれ本件取決めにおける役割が異なり、拘束内容一致していないが、受注機会均等と落札価格低落防止により利益を図るという目的を共有する。本来自由に決めるはずの落札価格を取決めに委ねているので、事実上の拘束性がある。
販売業者9社は単にメーカー9社の指示に一方的に従っているだけで、他の者を拘束していないから拘束の相互性は否定されるとも思える。しかし、販売業者9社も本件取り決めに従って落札すれば、一定率のマージンを得ることができるのであり、かかる利益への期待がある以上、相互拘束性は否定されない。
(3)各自において「相互に…拘束」しているといえる。
5(1)「一定の取引分野」とは競争が行われる場、すなわち市場をいう。入札談合のようなハードコアカルテルでは、行為の対象となった取引がそのまま市場となる。
(2)本件取決めの対象となったのは、令和3年4月以降に行われる予定の55団体が発注する甲製品の指名競争入札の方式による入札分野である。
(3)よって、「令和3年4月以降の55団体による指名競争入札方式による甲製品の入札分野」が一定の取引分野である。
6(1)「競争を実質的に制限」とは、基本合意の当事者らがその意思によってある程度自由に落札者や落札価格を左右することができる状態をもたらすことをいう。
(2)メーカー9社は甲の売り上げベースのシェアにおいて9割という圧倒的なシェアを占める。そのような巨大なシェアを有する者が本件取り決めにより落札予定者と落札価格を調整すれば、その通りに決まる可能性が高く、その分本来なされるべきであった入札価格競争が行われないこととなる。特に調整役Yは各入札結果に詳しく、入札一覧表という具体的かつ詳細な情報に基づいてなされているので、取決め通りにいく可能性が高い。
そして、実際に令和3年4月頃から令和6年6月28日までに実施された甲製品の入札200件のうち、本件取決めで決められた通りの落札者と落札予定者となったのが180件であり、9割以上も思い通りにできたのであるから、当事者らによりある程度自由に落札者・落札価格を左右できていたといえる。
なお、残り20件はYがアウトサイダーの入札価格を見誤ったことで失敗に終わっているが、基本語彙の時点ですでに既遂に至っているのであり、後の失敗は違反の有無を左右しない。
(3)以上より、「競争を実質的に制限」したといえる。
7 本件では「公共の利益に反し」ないといえる事情はない。よって、メーカー9社、Y社及び販売業者9社による行為は2条5項に当たり、3条後段に反する。
8(1)X2社は令和5年10月13日の入札で取り決めに従わず、12月7日に自社以外のメーカーとY社の各担当者に対し、以後独自の価格で応札していく旨を口頭で明確に表明している。X2社は離脱したと言えないか。離脱したといえるには、少なくとも他の参加者が離脱者の行動等から離脱の事実をうかがい知るに足りる十分な事情の存在が必要と解する。
(2)10月13日の時点では、X2は単に事前取決めに従わなかっただけで、その旨を他の参加者に表明していないので、他の参加者はX2の離脱の意思を知ることはできない。一方12月7日は上記の通り以後独自に応札する旨明確に表明しており、これと10月13日にX2が取決めに違反して落札したことを考えれば、他の参加者はX2の離脱の事実を十分うかがい知れるといえる。そして以後X2社は本件取決めに基づく行動を取っていない。
(3)よって、X2社は令和5年12月7日時点で基本合意から離脱し、それ以後は3条後段に反しない。
9(1)令和6年6月28日、公取が立ち入り検査を行って以降Y社は本件取決めに基づく行為を行っていないから、この時点で違反行為が終了したのではないか。この点違反の終了時期は、各事業者が合意の相互拘束から解放されて自由にその意思に基づいて事業活動をするようになった時点で認められる。
(2)Yは6月28日をもって本件取決めに係る行為を行っていない。Yは前述のとおり調整役として本件談合の中心的な役割を果たしており、メーカー9社らはYを通してのみ意思連絡をしなかったのだから、Yが行為しなくなった時点でメーカー9社ひいては販売9社も相互拘束から解放され自由に活動できるようになったといえる。
(3)よって、令和6年6月28日時点で違反行為は終了したといえる。
10 以上より、メーカー9社、Y社及び販売業者9社の行為は令和3年4月から令和6年6月28日まで、2条5項に当たり3条に反していたといえる。なお、うちX2社については令和5年12月7日までが違反期間である。
第2 Yの課徴金について
Yも違反の主体なので課徴金の対象となる。違反期間におけるYの売上は10億円なのでそれが課徴金の算定基礎となる(7条の2第1項3号)。よって加算前の課徴金額はその10%の1億円である(1項柱書)。
Yは、販売9社が落札した甲について、メーカーから販売業者まで運搬する役割を果たしていたこと、また本件取決めで中核の役割を担ったことから、「違反行為を容易にすべき重要なものをした」(7条の3第2項3号)といえる。落札者や価格を指定しているので、同号ロの場合に当たる。よって、課徴金額は1.5倍となる(2項柱書)。
以上から、Yの課徴金は10億×0.1×1.5=1.5億円である。
以上
設問2
第1 X社の(a)行為が、拘束条件付き取引(独占禁止法(以下法名省略)2条9項6号ニ・一般指定12項)に該当し、19条に反しないか。
1 X社はαを含む多数の放射性医薬品を製造販売する「事業者」(2条1項)である。
2(1)「拘束する条件」といえるには、契約上の義務となっていることを要せず、何らかの人為性ある手段によって実効性が確保されていれば足りる。
(2)αは、特別な放射線医療装置βを検査に利用するのに必要不可欠な放射性医薬品である。βとαを用いたβ検査は、悪性腫瘍を始めとするいくつかの疾病の発見について非常に高い精度を示し、それ以外の検査では発見できないものを高い確度で見付け出す例が多い。他の検査と比べてβ検査は有用であって、αは医療機関やひいては人々の健康にとって重要な製品であるといえる。Z社は、自らの公益法人としての役割を重視しているところ、αの有用性からして、αを安定して供給することこそ人々の健康という公益に資することになる。特にX社は従来安定製造困難であったαを初めて安定製造できる事業者であって、既に全国の医療機関でX製αが使われている。ZへのX製αの販売が停止されれば、全国の医療機関へのαの供給が滞ることとなり、結果公益に反することになってしまう。公益を重視するZとしては、それは回避したいと思うはずである。Zへの販売停止は実効性ある制裁として機能することとなる。現に行為(a)によってZは、定評のあるX社製αの供給を受けることで、従来の顧客である医療機関に対して、必要な量のαを供給できなくなることを懸念し、Y社製αの取扱いをちゅうちょするに至っている。
(3)以上から、Xは「拘束する条件」をつけて「相手方」であるZ社と「取引」したといえる。
3(1)「不当に」とは自由競争減殺があることをいう。拘束条件付取引は、能率性等の競争を促進する面があるので、原則適法である。もっとも、行為により価格維持におそれがある場合には回避型の自由競争減殺が認められる。
(2)検討の前提として、市場を画定する。市場は、商品範囲と地理的範囲の観点から、需要の代替性を中心に必要に応じて供給の代替性を加味して、行為による影響を受ける範囲について画定する。
αはβに用いられ、βを利用してβ検査をするにはαが必要不可欠であり、他では代替できないことから、αとそれ以外では需要代替性は認められない。またαは、従前αを製造する特殊な装置と能力を持つ高度医療機関のみが製造できたことから、供給の代替性もない。ゆえに商品市場はαである。
Xはαを全国へ販売しており、需要者は全国の医療機関なので地理的葉には全国とも思える。しかし、αは製造後に利用できる時間が短く、一つの製造拠点から、その時間内に配送可能な範囲には限界があることから、αを全国的に販売する場合は、全国をいくつかの地域に分割して各地域内製造販売する体制をとる必要があり、現にXは、全国を12の地域ブロックに分けてブロックごとに製造販売していた。そうであれば医療機関は異なる地域ブロックのからαを入手することは困難であるし、また供給側も異なる地域ブロックの病院へは供給できない。ゆえに地域ブロック間で需要と供給の代替性はなく、地域ブロックごとに市場を分けるべきである。そしてXの行為は両地域でのY者の活動への対応だから、地理的範囲は両地域とすべきである。
以上から、両地域におけるαの製造販売分野が市場となる(行為b、cも同じ)。
(3)Z社はその公益法人としての性格から、一定の手数料を取るだけで、メーカー等が指定する価格で販売することを原則とし、αも同様であった。行為(a)によりZ社は両地域において、Yが指定した他地域より安い価格で販売することができなくなっている。その結果Yは安い価格を諦めて他地域と同じ価格でZを通して販売するか、自ら安い価格で売るかの2択を強いられる。前者を選べばその分価格競争がなくなるのは明らかである。後者であっても自ら販売する以上、Zを介するよりも販売費用が掛かり、その分だけ販売価格に転嫁されるから、Zを介して安価で売るよりも販売価格は高くなる。ゆえに、その分だけ価格競争がなくなったといえる。
以上から、行為(a)によってXはYとの両地域での価格競争を回避しているといえ、自由競争減殺、すなわち「不当に」といえる。
4 行為(a)を正当化する事情はないので、Xの行為(a)は高速条件付き取引に該当し、19条に反する。
第2 行為(b)は排他条件付き取引(2条9項6号ニ・一般指定11項)に該当し、19条に反しないか。Xは、行為(b)を通してYを市場から締め出すのが最終目的だと考えられるから、差別的取扱い等ではなく、排他条件付き取引の問題として検討すべきである。
1 既にみたように、Xは「事業者」である。
2(1)「条件として」といえるには、契約上の義務となっていることを要せず、何らかの人為性ある手段によって実効性が確保されていれば足りる。
(2)既にみたように、β検査は悪性腫瘍等を高精度で見つけることができる重要な検査でライ。αはそれに不可欠な医薬品であり、医療機関にとってαの安定は重要である。Xから供給が止められるのは何としても避けたいはずであるから、Xからのαの供給を呈する旨の通知は高い実効性を持ち、Yとの取引をためらわせる効果を持つ。
(3)以上より、Xは「相手方」たる各医療機関と、「競争者」Yと取引しないことを「条件として」「取引」したといえる。
3 上記の通り需要者たる各医療機関はY製αの取扱いを辞めるだろうから、競争者Yの取引の機会を減少させる恐れがあるといえる。
4(1)「不当に」とは自由競争減殺をいう。排他条件付き取引は競争手段の一環だから原則適法だが、行為により新規参入が困難となり又は既存事業者の活動が困難になる場合、排除型の自由競争減殺が認められる。以上は(a)と同様である。
(2)需要者たる医療機関がYとの取引をためらうと、Yは代替的取引先を見つけるのが困難になる。Xは現時点で100%近いシェアがあり、そこからαを供給できなくなるのは回避すべきだから、医療機関がYとの取引を忌避する可能性は高い。結果、取引先のなくなったYは市場から撤退せざるを得なくなる。現にYからαを購入することを断念するものも多く、Y社によるそれらの販売は難しくなり、結果、両地域でのY社製αの売上が想定より伸びなかったのである。
(3)よって、行為(b)は新規参入を困難にするといえ、「不当に」といえる。
5 正当化事情はないから、行為(b)は排他条件付取引であって19条に反する。
第3 行為(c)は不当な取引妨害(2条9項6号へ・一般指定14項)に当たり、19条に反しないか。
1 Xは「事業者」であり、Yは「競争者」である。
2根拠なく「新型γではX社製αは利用できない。」と説明することで、Yが新型γを売り出すのを困難にしているので、「その取引の相手方」である医療機関との取引を「妨害」したといえる。
3(1)「不当に」とは自由競争減殺をいう。競争行為自由の点から原則適法だが、前述の排除型の自由競争減殺があれば違法である。また、能率競争を歪めるような競争手段の不公正に当たる場合も「不当に」といえる。
(2)γはαを検査に用いるのに必要不可欠である。Yは低価格で使いやすい新型γを開発し、これを普及すると同時に、新型γとともにY製αを売り込むことで、Y製αの販売を促進し、同時にYの市場における地位を高めようとしている。これが成功すれば、Yは市場においてXに対抗できる有力な事業者になり得た。しかし、Yは新型γに関して、検査等を行わず、明確な根拠もなく、「新型γではX社製αは利用できない。」と説明した。これにより、X製αを利用できなくなることを恐れた医療機関が、新型γの購入をちゅうちょすることになり、結果Y製αも控えることになる。Yは効果的にαのシェアを伸ばせず、その分XY間の本来起こるはずだった競争は低減する。現に医療機関の中には新型γの導入を取りやめる例が見られ、関連してY製αの販売水準も想定より下回った。
また、Xとしては、自己のγの有用性を打ち出したり、新型γのデメリットを根拠を持って指摘することが本来あるべき能率競争あるが、明確な根拠もなく新型γではX製αは使えないと言っており、これは能率競争を歪める競争方法である。ゆえに競争手段の不公正でもある。
(3)「不当に」といえるので、不当な取引妨害として19条違反である。
第4 Xの行為(a)(b)(c)はそれぞれ不公正な取引方法であって「排除」(2条5項)であり、元々市場シェア100%のXが、その支配的地位を維持させることになるので、Xの行為により市場支配力が維持されているといえるので、私的独占(2条5項)に当たり、3条前段に反する。
以上
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