令和5年予備試験 刑事実務基礎 再現

令和5年予備試験 刑事実務基礎
設問1
(1)下線部①の時点で、捜査機関はAが所持していたリュックサック、現金及びNKドラッグストア会員カード在中の財布を押収している。リュックサックや財布は、それぞれ被害品と同じ色であり、また財布の中に入っていた現金の総額及び札や硬貨の内訳が被害品と一致している。これらのことから、Aが被害品を所持しているといえそうである。しかし、被害品のリュックや財布の色(水色と茶色)は珍しいものではなく、Aの所持品と偶然一致したという可能性は低くないし、また現金の総額・内訳の一致についても、単なる偶然徒の可能性を捨てきれないので、会員カード以外の証拠では、Aが被害品を所持していたと断定することは出来ない。一方、NKドラッグストアの会員カードは、会員コード番号で個人が識別されている。会員コード番号から会員の氏名を割り出し、Vの名前がヒットすれば、AがVの会員カードを所持していることが分る。そして、会員カードは現金と一緒に財布の中に、その財布はリュックサックの中に入っていたのだから、会員カードを介して上記全品が被害品であることを推認させることができる。
 そこで、会員カードがV名義であることを明らかにするため、Pは①の指示を出したのである。
(2)1 犯行が起きたのが6月1日の午前8時であるのに対し、Aは遅くともKから職務質問を受けた同日午後1時20分時点で被害品を所持している。その間たったの約5時間半である。そのような短期間の間に犯人のもとから転々流通してAの元へたどり着いたとは考えにくい。Aが犯人であり、Vから奪ったまま所持し続けたと考えるのが自然である。ゆえに、Aが被害品を所持していた事実はAの犯人性を一定程度推認させるといえ、犯人性の認定に当たり重要であるとPは考えた。
2 一方、AはX駅前のバス乗り場のごみ箱に捨ててあった被害品を偶然拾ったと主張している。犯人が、犯行発覚を避けるため、奪取したものを遺棄することはありえる話である。また、Vは犯人の顔をよく覚えておらず、またQ公園等防犯カメラの映像から犯人がAであることを断定できない。ゆえに、Aが被害品を所持していたとしても、その犯人性を一定程度推認させるにとどまり、単体で犯人性を認定することまでは出来ない。
 X駅前のバス乗り場周辺が撮影されている画像に、Aや水色のリュックサックが撮影されていなかったこと、Vの目撃した犯人の要旨・服装がAと酷似していること、Aが男性としては珍しい赤色の自転車に載っており、それがQ公園の防犯カメラに映った犯人らしき男の自転車と一致していること、等の様々な間接事実と合わさって、初めてAの犯人性を認定しうるのである。
 以上を踏まえ、PはAが被害品を所持しているのみではAの犯人性の認定には不十分だと考えた。
設問2
(1)甲が提案した勾留理由開示(刑事訴訟法(以下法名省略)207条1項本文・82条1項)は、裁判官から勾留の理由が告げられる(84条1項)のみであって、Aの釈放につながる何らかの処分がされるわけではない。たしかに、勾留理由開示によってAやBが意見を述べることはできる(同条2項)、準抗告(429条1項2号)で争った方がより直截的である。また、準抗告が認められれば勾留理由開示の効力も消滅する。以上からすれば、Aの解放という目的に対する実効性が低いので、勾留理由開示をとらなかったのである。
 乙が提案した保釈は、そもそも被疑者に保釈は認められていない(207条1項但し書、88条~90条)。Aは下線部②の時点ではまだ被疑者だから、保釈請求が制度上できない。よって、乙の提案を採らなかったのである。
(2)準抗告(429条1項2号)によって、勾留が取り消されれば(87条参照)、勾留の効力が消滅し、Aは解放されるので、目的を達成することができる。既に被害品は押収されており、またAとVは面識がないのでAがVに働きかけることも考えにくいため、証拠隠滅の恐れはないことから勾留の理由が否定される可能性はあるし、Aに最大20日間の身体拘束という重大な不利益があることからすれば、勾留の必要性も否定される可能性がある。
 以上より、丙の提案した手続きを採用したのである。
設問3
1 強盗致傷罪(刑法240条前段)における「暴行」(2336条1項)は、社会通念上犯行を抑圧するに足りる程度であることを要する。
2 Vは全治10日間の左足首捻挫を負っている。また、VはAから殴られた際に目の前に火花が散ったような衝撃があったこと、胸を押してきた強さがAの細さから想像もつかない強さだったと述べている。これらから、Aは可なり強い有形力をVに行使したといえ、犯行を抑圧する程度の暴行であると言えるとも思える。
 しかし、左足首捻挫はそこまで生命に関わるほどのものではないし、全治10日と、完治までそこまでかかるわけではないし、事実Vの生活に支障は出ていないのだから、重大な結果が生じたとまでは言えない。Aは65歳、168㎝、55㎏と高齢かつ体格も良くなく、体力や力があるわけではないのに対し、Vは25歳、175㎝、75㎏とAと対格差が有、また週4回もジムでトレーニングをしているなど、体力・力に優れていると考えられ、両者の運動能力に大きな差がある。暴行の態様も、頬と鼻に右手が一回だけ当たる、胸を一介だけ両手で押すというもので、強度は高くない。また、Vの上記けがは、AがVを追いかけようとした際に転んだせいでできたのであって、Aの暴行殿関連性がない。また、顔やお尻はケガはなく、Aの暴行から生じたケガはない。
3 以上からすれば、Aの暴行が社会通念上犯行に抑圧するに足りる程度の者であったとはいえず、強盗における「暴行」には当たらないので、別紙記載の公訴事実の通りに公判請求したのである。
設問4 
(1)1 異議の理由は、当該証拠が伝聞証拠(320条1項)に当たるのでこれを証拠とするのは同項という「法令の違反」(309条1項、刑事訴訟規則(以下「規則」)205条1項)本文)があるというものである。 
2 伝聞証拠とは公判廷外の供述を内容とする証拠で、要証事実との関係で内容の真実性が問題となるものをいう。Vの検察官面前調書は公判廷外における供述を内容とするものであり、また被害状況という要証事実との関係で内容の真実性が問題となるので伝聞証拠である。ゆえに原則として証拠能力が認められないことになる。 
 そこで、Pは伝聞例外(321条1項2号)に当たると主張することが考えられるも、Vが供述不能という事情はなく、これは認められないだろう。 
 ゆえに、PはVの証人尋問を請求する(298条1項)ことが考えられる。なお、尋問でVが異なる供述をすれば上記の伝聞例外該当性が認められ、Vの検面調書を提出できる。 
(2)当該写真は証拠物にあたるところ、証拠物を請求する際は相手方に事前に閲覧機会を与えなければいけない(299条1項)。もっとも相手方の異議がなければ、見せる必要はない(同項但書)。Bの異議の法的性質はこの異議である。 
裁判所は、異議に対し遅滞なく決定をする必要がある(規則205条の3)。またそれに先立ち訴訟関係人たる検察官Pに意見を聞く必要がある(規則33条1項)。
以上
 
再現作成日 9月13日
解答時間 100分
分量 4枚フル

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