令和5年予備試験 行政法 再現

令和5年予備試験 行政法
設問1
第1(1)について
1(1)原告適格は、「法律上の利益を有する者」(行政事件訴訟法(以下行訴法)9条1項)に認められる。「法律上の利益を有する者」とは、処分により自己の権利または法律上保護された利益が侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者をいう。当該処分を定めた行政法規が、不特定多数の具体的法益を専ら一般的公益に九州解消させるにとどめず、これが帰属する個々人の具体的法益としても保護する趣旨を含むと解される場合、そのような利益も法律上保護された利益に当たる。その判断に当たっては、行訴法9条2項の要素も考慮する。
(2)Cは、本件許可により、適正な許可制度の運用による営業上の利益が侵害された、と主張する。
 法は、生活環境の保全及び公衆衛生の向上を目的として規定しており(法1条)、営業上の利益については記載がないから、上記営業上の利益を法は一般的公益としてさえも保護の対象としていないとも思える。しかし、一般廃棄物処理業に関して、法は市町村に一般廃棄物処理計画を策定することを義務付けている(法6条1項、2項)。この計画は生活環境の保全及び公衆衛生の向上という公益的な目的のもと、環境省令に従い定められるものであるから、一般廃棄物処理業は公益性の高い事業といえる。また、法6条の2第1項によれば、一般廃棄物の収集・運搬・処分をすべきは市町村であるとしている。これらからすれば、一般廃棄物処理業は本来市町村の業務であり、その能力的な限界から民間事業者に委ねているにすぎないといえ、本質的に自由競争原理にゆだねるべき性質ではない。また、過当競争により一般廃棄物処理業者の経営が悪化すれば、廃棄物の収集・運搬・処理がずさんなものになり、生活環境の保全及び公衆衛生の向上という法の目的を達成することができなくなってしまう。以上からすれば、法は上記営業上の利益を一般的公益として保護しているといえる。
 許可制度は、その適切な運用によって過当競争にならないよう事業者数をコントロールすることで、生活環境の保全及び公衆衛生の向上という法の目的を達成しようとするものである。既存事業者の経営の安定があって初めて法の目的が達せられるのである。よって、既存事業者の上記営業上の利益を法は個別的法益としても保護する趣旨を含むといえる。
(3)Cは、法により一般版器物処理業の許可を受けている既存事業者に当たる。本件許可によりDが新たに参入することで、適正な許可制度運用による営業上の利益を必然的に侵害される恐れがあるといえる。
2 以上よりCの原告適格は認められる。
第2(2)について
1 たしかに本件許可の有効期限である令和4年3月31日が経過し、これにより本件許可処分の効力が消滅し、訴えの利益も消滅するとも思える。
2(1)そもそも訴えの利益とは、訴訟提起の必要性・実効性をいう。取消訴訟は、処分の取り消しによって一定の権利や法的地位を回復することを目的とするから、訴えの利益の有無は処分の取り消しによって回復すべき権利利益・法的地位の存否によって判断すべきである。
(2)法7条2項によると、許可は更新を受けないと、有効期間の経過で効力を失うとされている。本件では、4月1日付で更新がされており、同項により、本件許可の効力が消滅するわけではない。また、同条3項によると、更新の申請があった場合において、処分がされなければ、従前の許可は有効期間満了後も効力を有するとされている。そして同条4項によると、更新の許可がされたときは、有効期間満了の翌日から新たに有効期間を起算するとしている。これらからすると、「更新」とは元の許可の効力を、同一性を保ったままその有効期間を延長するというものに過ぎず、元の許可の効力を消滅させ、新たな許可をなすものではない。
(3)そうであれば、本件許可処分の効力は更新がされたことによっても消滅することはなく、Cの営業上の利益という本件許可処分という取消しによって回復すべき利益は残存していると言え、訴えの利益は認められる、
設問2
1 Cは、①一般廃棄物処理計画の内容についてA市長が裁量を有することを前提に、新計画は裁量権の逸脱・濫用(行訴法30条)に当たり違法であり、それに基づく本件許可は法7条2号に反する、②Dは単独で事業を遂行する能力がないので、7条3号に反する、と主張することが考えられる。以下詳述する。
2 ①について
(1) 一般廃棄物処理業は公益性が高く、専門的・技術的事項に及ぶ。また一般廃棄物
処理計画を定めた7条2項各号は抽象的な規定ぶりである。ゆえに、その策定については、市長の裁量が認められる。
 もっとも裁量といえども無制限ではなく、逸脱・濫用があれば違法となる(行訴法30条)。具体的には、新計画が重大な事実の基礎を欠き、またはその内容が社会通念上著しく合理性を欠く場合には裁量の逸脱・濫用が認められ、違法になる。
(2)新計画の「発生量及び処理量の見込み」において、浄化槽の設置件数の増加に伴い、浄化槽汚泥について、処理量の大幅な増加が見込まれる旨記載されている。たしかに、旧計画時点で、A市では便所の汲み取り式から水洗式への改修が進んでいるため、浄化槽の設置世帯数微増推していた。しかし、将来の人口及び総世帯数は減少が予想されており、旧計画での「発生量及び処理量の見込み」では浄化槽汚泥について、今後は発生量及び処理量が減少する旨記載されていたことから、長期的に見て浄化槽の需要は減少していくものと考えられる。そして、旧計画の前提となった上記将来人口及び総世帯数の減少予測は、新計画においても維持されていた。にもかかわらず、浄化槽汚泥に発生量及び処理量の増加という正反対のことを記載しているので、新計画は重大な事実の基礎を欠いているといえる。
 またA市長は競争原理を導入する必要性を主張して、新計画において新規の許可を検討する旨記載している。しかし、設問1で記載の通り、一般廃棄物処理業は本来自由競争にゆだねられるべき性質のものではない。また、従来、BCの2社が事実上の区割りを行って業務を行うという体制の下、A市内で発生する汚泥の寮に対しておよそ2倍の収集運搬能力が確保され、適切な収集運搬体制が維持されていた。そうであれば、わざわざこの安定状態を崩す必要はない。むしろ競争原理を導入することで過当競争による経営悪化により、住民の健康と生活環境に被害が生じる恐れすらある。よって、競争原理に基づき新規許可を認める新計画は社会通念上合理性を欠く。
(3)以上より、新計画は裁量を逸脱・濫用し、違法である。そのような違法な計画に基づいてなされた本件許可は、7条5項2号に反し、違法である。
3 ②について
(1)「事業を的確に、かつ、継続して行うに足りるもの」といえるには、単独での事業遂行能力が認められる必要があると解する。そのような能力がないと、生活環境の保全及び公衆衛生の向上という目的を達成できないからである。
(2)Dの代表者はBの代表の弟であり、従来、一般廃棄物運搬業に従事した経験はなかった。Dの代表所在地は、Bの営業所在地と同一の場所になっており、D単独の社屋等は存在せず、Dの代表者はBの営業所内で執務を行っていた。さらにBとDは業務提携契約を締結し、その中でBが雇用する人員がDに出向すること、Bが保有している運搬車をDも使用しうることが定められていた。このような事実からすれば、Dは事実上Bと一体であると評価でき、またその業務の大半をBに依存している。もし兄弟げんか等でBとDが反目することになった場合、DはBの援助を受けられず、一般廃棄物処理業を継続することが困難になる可能性が高い。そうであれば、D単独での事業遂行能力は認められない。
(3)よって、Dは「事業を的確に、かつ、継続して行うに足りるもの」とはいえず、本件許可は7条5項3号に反し、違法である。
以上
再現作成日 9月14日
解答時間 80分
分量 4枚フル

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