令和6年司法試験 民事訴訟法 再現答案

令和6年司法試験民事系第3問(民事訴訟法) 再現答案
作成日 2024年7月25日
構成35分 作成80分(5分余り)
分量 6.5枚

設問1
第1 課題1について
1 任意的訴訟担当とは、本来互いに当事者適格を有する複数の者が特定の者を訴訟担当として訴訟追行を委ね、かつ民事訴訟法(以下法名省略)第115条2号によりその判決の効力が自己に及ぶのを承認することを内容とする合意をいう。これを認める明文はない。
2(1)民事訴訟法は多数の紛争を公平かつ迅速に処理するために定められたものであり、手続き安定性が重視されるので、当事者の合意によって明文のない事項を定めるのを認めるのは妥当でない。本件のような任意的訴訟担当は、三百代言による訴訟の円滑な進行や他の当事者の権利の阻害の防止という、弁護士代理の原則や訴訟信託禁止(信託法10条)の趣旨に反するおそれがある。
 以上のことから、明文のない任意的訴訟担当は認められないのが原則である。
(2)もっとも、任意的訴訟担当を認めた方が紛争の実効的解決に資する場合もあり得るところであり、上記の趣旨に反しない場合には認める余地もある。そこで、①弁護士代理原則等の趣旨を潜脱する恐れがなく、②訴訟担当を認める合理的必要性がある場合は、明文なき任意的訴訟担当も認められると解する(昭和45年最高裁判決に同旨)。
第2 課題2について
1(1)昭和45年最判では、担当者とされたのは、共同事業体の代表者である組合員であるところ、当該組合員は代表者として事業体の業務執行に責任を持つ以上真摯な訴訟追行が期待でき、三百代言等のおそれはなく、弁護士代理原則等の趣旨を潜脱しない(①充足)。また、代表者であるから共同事業体による業務内容や当該事件についての知識を持っていると考えられ、その者を担当者とすることで審理が円滑になるし、また共同事業体を構成する複数の組合それぞれを当事者とするとかえって審理が複雑化することから訴訟担当を認める合理的必要がある(②充足)。以上が上記判例で任意的訴訟担当が認められた主な理由である。
(2)一方、本件ではX1、X2,X3は法人ではなく単なる一個人にすぎない点で上記判例と異なる。組織体の代表者と異なり単なる一個人に真摯な訴訟追行が期待できるかは定かではなく、①要件を満たさないとも思える。しかし、本件建物については、Xらがそれぞれ3分の1の持分で共有すること、本件契約については、Xら全員が賃貸人となることとする一方で、本件契約の更新、賃料の徴収及び受領、本件建物の明渡しに関する訴訟上あるいは訴訟外の業務についてはX1が自己の名で行うことが取り決められている。これは、対等な三者の中でX1を事実上の代表者として、本件契約の更新や訴訟対応等の重要な業務を任せるものである。X1もまた賃貸人の一人として賃料収入を得る立場であることも考えると、上記判例の場合と同様、Xらの代表者として真摯な訴訟追行を期待し得る立場にあるといえる。よって、弁護士代理の原則等の趣旨を潜脱する恐れはない(①充足)。
 本件ではX1~X3の3名が原告適格を有するが、X2及びX3は、Yに対して本件建物の明渡しを求めるとのX1の意向には賛成したが、自らが当事者となることは時間的・経済的負担が大きいことを理由に、X1単独で訴訟を提起してほしいと述べている。であればX2、3に訴訟への関与を強制するのは、無用な手続き負担を負わせることになる。またXら3名を当事者とすると、X1単独の場合と比べて訴訟が複雑化してしまう。さらに、上記のとおりX1は実質上Xらの代表者であり、明渡についての訴訟業務が委任されているし、本件での争点はYが賃料支払いを怠ったか否かになりそうなところ、賃料収受権限のあるX1が最も事情に詳しいと考えられることからすれば、X1に訴訟を追行させることで訴訟の円滑化に資するといえる。これらの点で上記判例と本件は類似しており、②要件を満たす。
2 本件においてX1による訴訟担当は明文なきに荷的訴訟担当として認められる。
設問2
1(1)裁判上の自白(179条)とは、相手方の主張と一致する自己に不利益な事実に関する陳述をいう。不利益な事実とは、相手方に主張立証責任があるような事実をいう。
(2)ア 自白が成立すると不要証効(179条)と裁判所拘束力(弁論主義第2テーゼ)が生じ、その結果自己責任と相手方の期待の保護を根拠として撤回制限効が生じることとなる。そして、自白が成立する「事実」とは、自由心証主義の過度な制約とならないよう、間接事実は含まず主要事実に限られるというべきである。では、本件陳述は主要事実であるか。
イ Xは本件陳述を居住目的という本件建物の用法順守義務に違反すると主張している。用法順守義務自体は過失等と同様の抽象的な規範的要件であり、当事者の攻撃防御方法はその具体的な事実にこそ集中することから、用法順守義務違反を構成する具体的な事実が主要事実となる。
 本件契約での用法は居住目的である一方、本件陳述はYの妻が本件建物で料理教室を開いたというものであり、用法と異なる使い方についての具体的な事実の陳述である。
ウ よって、本件陳述は主要事実に関する陳述である。
(3)よって、本件陳述に裁判上の自白が成立するようにも思える。
2(1)もっとも、本件陳述は弁論準備手続きにおいてなされている。弁論準備手続きでなされた陳述も自白は成立するか。
(2)弁論準備手続きは争点及び証拠の整理を行うことで、審理を計画的かつ円滑化し、もって審理を充実させることを趣旨とする(168条参照)。あくまで争点と証拠の整理を行うことを目的としており、本件陳述は弁論それ自体ではない。また、審理の充実を図るには当事者が自由に議論し、主張の整理を行っていく必要があるところ、自白の成立を認めてしまうと、撤回制限効という強力な不利益が当事者に生じ、当事者にとって不意打ちであるし、また自由な議論を委縮させてしまう。
 一方、弁論準備手続きでは準備書面の提出が認められている(170条1項)。口頭弁論は準備書面で行うとされている(161条)ことから、準備書面については弁論であるといえる。また、準備書面という書面であれば口頭での発言と異なり、各自が慎重に何を書くべきか吟味するので、上述のような不意打ちが起こる恐れは低い。
 以上より、弁論準備手続きにおいて準備書面によってなされた陳述であれば裁判上の自白が成立し、それ以外の陳述であれば自白は成立しない、と解する。
(3)本件陳述は口頭でなされていることから、裁判上の自白は成立しない。
本件でも、第1回弁論準備手続期日においては、賃料不払による無催告解除の可否に関して当事者間の信頼関係の破壊を基礎付ける事実関係の存否につき、当事者双方が口頭で自由に議論するよう裁判官が示唆し、Yは自由な発言の一環として、信頼関係不破壊の一要素として本件陳述を行ったのである。本件陳述に自白を認め、自白の上記効果を生じさせてしまうと、Yにとって不意打ちであり、自由な議論による審理充実という弁論準備手続きの趣旨を没却する。また、本件訴訟の争点は、無催告解除が認められるに足りる信頼関係の破壊の事実の有無であるところ、本件陳述はX1夫婦がY妻による料理教室に通ったことがあり、その際に賃料の話がされなかったことから、XY間の信頼関係の不破壊には至っていない、という意味を持つ主張である。信頼関係不破壊と用法順守違反の両方の要素を併せ持つ陳述であって、自白を認めてしまうともはやYとしては信頼関係不破壊の事実を主張できなくなるに等しい。
 このような本件の実質的な観点からしても、裁判上の自白を成立させるべきではない。
設問3
1(1)既判力(114条)とは、前訴の確定判決に与えられる通用性ないし拘束力をいう。「主文に包含するもの」(同条1項)訴訟物たる権利義務の存否に関する判断に生じ、後訴が前訴との関係で同一・先決・矛盾関係のいずれかにある場合に作用し、前訴の確定判決での判断内容と矛盾する主張を許さないという効力をもつ。
 既判力は、手続き保障の充足による自己責任を根拠として、紛争の蒸し返しの防止を図ることを趣旨とする。そして、口頭弁論終結時まで当事者は主張を追加し得るのだから、その時点で主張しなかった事項については、当事者の自己責任を問いうる。すなわち、既判力の基準時は前訴の口頭弁論終結時であり、その根拠は当事者の自己責任にある。
 よって、手続き保障の充足を前提とする自己責任を根拠として、前訴口頭弁論終結時より前の事由の主張は既判力により遮断される。
(2)しかし、基準時より前の事由であっても主張することが期待できない可能性があり得る。そのような事実については、それを主張するための手続き保障が十分とはいえず、主張しなくても自己責任を問えない。
そうであれば、前訴口頭弁論終結時までに主張する期待可能性が認められない場合には、例外的に当該事由を後訴で主張することを認めるべきである。期待可能性の程度としては、当該事由を主張する現実的可能性があるかないかによって判断し、抽象的に主張することができたに過ぎない場合は遮断効は生じないとすべきである。
この点、期待可能性による既判力の縮減を認めることは既判力による法律関係の画一化という要請に反することになること、既判力の例外を安易に認めるべきではないこと、期待可能性という主観的事情によって既判力の作用を左右すべきでないことを根拠として、期待可能性を理由とする既判力の縮減を認めない見解もあり得る。しかし、手続き保障の充足を前提とする当事者の自己責任という既判力の根拠からして、主張の期待可能性にまで既判力により遮断させることは当事者にあまりに酷だし、上記根拠に沿わない。民訴法は相殺に例外的に既判力の発生を認めたり(114条2項)、当事者以外にも既判力の拡張を認めたり(115条2~4号)など、例外を自ら認めているのだから画一化の要請も絶対ではなくある程度例外も認めているものと思われる。加えて、期待可能性自体は主観のみならず当該事由に関する客観的情況も考慮して判断するから、完全なる主観的事情とはいえず、上記批判は当たらない。
よって、基準自前の事由でも遮断効が生じないことはあり得る。上記規範に当てはまる場合は、既判力の遮断効は生じないと解する。
(3)本件建物は目的を居住用として貸し出したものである。賃借人には住居権があり、賃貸人は居住建物内でどのようなことが行われているかを外部から容易に知ることができない。特に本件セミナーは株式投資に関するセミナーであって、例えば本件建物でレストランを営業する場合と違って、建物の外観に変化は伴わない。また、回数も頻繁に行われているわけでもなく月1,2回に留まる。さらに有料のセミナーであって無料の場合と比べて参加者は少ないと考えられる。賃貸人は外部からその使用状態を判断せざるを得ないことも併せて考えると、Xが本件建物で本件セミナーが行われていたことを知るのは非常に困難であったといえる。仮に本件セミナーの参加者が本件建物に出入りしていたことを何らかで知ったとしても、外部から見れば単に家にお客さんを呼んだものと考えるのが自然であり、セミナーのようなイベントをやっているとは考えもしないだろう。月1,2回という頻度であるからなおさらである。
(4)以上より、Xが本件セミナーの存在を知ることができた現実的可能性はなかったといえ、前訴口頭弁論終結時までに当該事由を利用とする解除の主張をすることの期待可能性はなかったといえる。
2 Xの解除権行使の主張は、前訴既判力により遮断されず、許される。

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