令和5年予備試験 民事訴訟法 再現

令和5年予備試験 民事訴訟法 
 
設問1
1 Yは、Xによる訴えの変更は交換的変更であり、その法的性質が訴えの取下げ(民事訴訟法(以下芳名省略)261条1項)と訴えの変更(143条1項)の複合的形態であることを前提として、②訴訟は再訴禁止効(262条2項)に反し、却下すべきであると主張している。
2(1)ここで、Xによる訴えの交換的変更の法的性質が何かが問題となる。
 (2)この点、交換的変更を訴えの変更の独自の形態として解する見解がある。しかし、かかる見解をとると同意が不要となり、訴えの取下げとの均衡がとれないので採用しえない。 
 (3)そこで、Y主張のとおり、訴えの取下げと訴えの変更の複合体であると解するべきである。
3(1)①訴訟の第一審でX勝訴の本案判決がなされていることから、①訴訟の控訴審で訴えの取下げの要素を含む交換的変更をすることは、再訴禁止効に反しないか。
 (2)再訴禁止効は、本案判決に至るまでの当事者の努力や裁判運営を徒労に帰さしめたことへの制裁を趣旨とする規定である。
 そこで、取り下げた訴訟と新たな訴えが当事者及び訴訟物が同一であるのみならず、訴えの利益も同一である場合に、再訴禁止効が作用すると解する。
(3)②訴訟の当事者は原告がX、被告がYと、①訴訟と同一である。②訴訟の訴訟物は所有権に基づく土地明け渡し請求権であり、①訴訟と同一である。
では、訴えの利益は同一か。訴えの利益とは訴訟の必要性ないし実効性をいう。①訴訟の控訴審において、Yから乙建物はAら3名の増改築によってその形状が著しく変更され、乙建物はAら3名の所有に属するものとなっている胸の主張がされた。これを受け、Xは乙建物は増改築によって形状が著しく変更されており、増改築部分も含む乙建物はAら3名の所有に属し、Yは所有しておらず、Yとの間で乙建物を収去して甲土地を明け渡すことを求める訴えを維持することは不可能だと認識している。しかし、真実は増築部分も含めて乙建物の所有権はYに帰属していたのであって、Yの主張は虚偽であり、Xは誤認していた。控訴審で変更後の訴えについての判決確定後に、Yが増改築部分も含めて乙建物は自らの所有だと、上記主張と矛盾した主張をし始めるに至って初めて、Xは誤認したいたことに気付いたのである。建物収去土地明け渡し請求においては、収去義務を負うのは建物所有者であるから、Yが乙建物を所有していたか否かはXにとって重要な事実であった。Yが乙建物の所有者でないと誤認したXからすれば、これ以上Yへの訴えを維持しても無駄であると考え、取り下げるのも無理からぬことである。Yはあえて詐術を用いてXによる交換的変更を引き出しており、要保護性は低い。また、①訴訟は乙建物を収去することを目的とする訴訟であるところ、変更後の、Yの賃借権が存在しないことを確認する判決では、かかる目的が達成できず、Yの上記行為によるXへの不利益は大きいと言える。そうであれば、Xが上記誤認に気付いた後に、乙建物収去という目的を果たすため、②訴訟を改めて提起することの必要性・実効性は高いと言える。よって、②訴訟は独立で新たな訴えの利益があると言え、①訴訟と②訴訟で訴えの利益が同一であると言えない。
(4)よって、②訴訟には再訴禁止効は及ばない。
4 Yの主張は適当ではない。
設問2
1(1)Xは、本件和解を取消した上でYに対して所有権に基づく土地明け渡し訴訟を別訴提起することが考えられる。これは既判力(114条1項)に反し許されないのではないか。
 (2)和解は確定判決と同一の効力を有するとされている(267条)ことから、既判力を有すると言える。
 既判力とは、前訴の確定判決の判断内容に与えられる通用性ないし拘束力をいい、前訴の訴訟物に関する判断と矛盾する主張を許さないという効力を持つ。
 本件和解では条項(b)でYが甲土地について賃借権を有することが確認されているから、これと矛盾する上記主張は本件和解の既判力に反し、許されないのが原則である。
 もっとも、和解は当事者の合意によって成立し、裁判所がその合意に意思表示の瑕疵が無いことを確認しているわけではないから、確定判決の完全に同等の既判力を認めるべきではない。
 そこで、和解に意思表示の無効・取消事由がある場合には、既判力が生じない、と解する。
(3)和解交渉に際し、YはXに対して、乙建物を賃貸して生計を立てていたが、現在居住している丙建物が取り壊されることになり、今後は自ら乙建物を店舗兼居宅として利用したいので和解に応じてほしいとの虚偽の説明をし、YはXの説明を信じ、やむを得ないと考えて和解に応じることとした。しかし、和解成立後も丙建物が取り壊される予定はなく、Yが引き続き丙建物に居住し、乙建物はDが店舗兼居宅として利用していた。このような経緯からすれば、Yが丙建物を引き払い、以後乙建物を利用することはXにとって和解の前提となる重要な事実であったといえる。賃貸人にとって誰が土地上の建物を利用するかは重要な事実だからである。よってXは、詐欺(民法96条1項)または錯誤(民法95条1項2号)に基づく取消権を有する。
(4)よって、本件和解には意思表示の取消事由があり、既判力が生じないので、上記訴訟が既判力に反し許されない、とはえない。
2 以上より、Xは本件和解を取消した上でYに対して所有権に基づく土地明け渡し訴訟を別訴提起することができる。
以上
 
再現作成日 9月10日
解答時間 50分
文量 4枚半
 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?