むさしの学生小説コンクール 審査結果発表!

第二次審査の結果、以下の作品が入賞作品として選ばれました。
入賞された皆様、おめでとうございました。

なお、昨今の状況を鑑み、面接を含む最終選考は行わず、第二次審査を通過した9作品をすべて入賞とし、新潮社図書制作部から書籍として刊行いたします。

入賞作品

■「青白い画面のなかの世界で」 藤

審査員からのコメント
文章も内容もいい。「青白い画面のなかの世界で」繰り広げられるようになってからの「私」の言葉が切ない。「一番仲のいい子」の「表情」や「空気感」を感じていたときの記憶が想起される時間が描かれると、その切なさにさらに深みが出るのではないか、と思った。

■「群青の雪」 中川朝子

審査員からのコメント
なにより身体性を失わない文章が素晴らしい。スピード感、緊迫感があり、テンポも良い。無駄がなく、描写は的確である。対象を捉える力、フレーミングが優れている。書き手の問題意識の拡がりと深まりが、今後の小説に結実していくことを多いに期待したい。

■「白ク進ム」 横山晴

審査員からのコメント
デジタルな時代におけるアナログな言葉のやりとりに無理なく光が当てられ、自己とは何かという古くて新しい観点から慎重な言葉選びが追求されている。いかにも生きづらい現代においてもなお懸命に前を向いて歩こうとする姿が描かれており、読む者の胸を打つ。

■「潜水」 大石智

審査員からのコメント
夢と記憶と現実の境界が融解する、けれど、生々しい現実感がある。「いま」(物理的にも心理的にも閉じ込められた空間/社会)を生きる若者の実感を的確に捉えた、この作品を成立させているのは、文章だ。全身で思考し感覚された表現。怠らず、才能を開花させて欲しい。

■「ちょっと変なだけ!」 水野はるか

審査員からのコメント
知的でユーモラスで、しかも文章が溌剌としている。「ちょっと変なだけ」という普遍的なテーマの「ちょっと」の積み重ねが小気味よく描かれ、マスクとオンライン授業の時代と格闘している主人公の姿が実に楽しい。読者に共感の和が広がりそうな説得力があった。

■「逃げ場」 嶋田優里

審査員からのコメント
芥川龍之介の作品にも内包されていた「親ガチャ」認識が妙な形で流行する今、その先を見据えた設定が興味深い。出鱈目であるがその出鱈目さに独自のムードがあり、読まされる。逃げ場であり出発点でもある学校の可能性を改めて追求している点にも惹かれた。

■「二〇二一年の教室」 桃澤うみ

審査員からのコメント
文章が素直で(妙な「文学風」装飾もなく)、制御され安定している。抑圧された状況の中でも成長する若者の姿がよく捉えられている。いわゆる「大人」を、たとえば、戯画化するなりして、もう少し陰影をつけて描けば、作品としての奥行きが出るように思う。

■「ぴかぴかの零」 日下雪

審査員からのコメント
言葉選びに工夫があり、夢として展開される授業の描き方も魅力的だ。ファンタジックな雰囲気の向こう側に確かな現実も見える。結末部は、たとえば冒頭との呼応関係を意識して結末部を掘り下げて描くなどすると、より作品が輝き、完成度が増すように思われた。

■「リョウサン型女子の命日」 花南みより

審査員からのコメント
描かれている出来事のリアルということもあるのだが、それよりもむしろ、内的リアリズムを感じた。現代日本の女性同士の心理的な駆け引き(とその労苦)の一端がここに力強く言語化されている。今後も書き続けていくことで、「今」を知るテキストの書き手にもなり得ると思った。

(作品名 五十音順)

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受賞作品のどこに特徴があり、どこに長所があるのかという観点を中心に、コメントをいただきました。受賞者の皆さんは、自身の作品のどこが評価されたのか、最初の読者である審査員にどのように読まれたのかを知ることで、自身の才能や特質を自覚し、それらをどのように伸ばしていけばいいのかを考えるきっかけを掴んでもらえたらと思います。(事務局)

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