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人物園(じんぶつえん)Ep-1

2011年3月

大都市中心から100キロ圏内の
日本全国でよく見かける地方都市
人口15万人の引田市

3月だというのに太陽は容赦なく照りつけ
この街にも地球温暖化の影響が表れ始めている

連日、テレビやマスコミで地球温暖化の影響が報道され
CO2を排出しない原子力発電の将来性に期待が高まり
コマーシャルには、有名人が多数起用されていた

市内で唯一 特急電車が停車する駅前

ブルーのポロシャツをビショビショに濡らし
海人かいとは必死に通行人に手を振る

「市議会議員に立候補予定の山下海人やましたかいとです!」

寂れた駅前ロータリーで海人は
拡声器を使って通行人に呼びかける

散歩中の老夫婦はびっくりした様子で振り返り

昼寝をしていたネコは逃げ出し
イヌはワンワン吠え出した

<学校帰りの子供を待つ車>
<乗車待ちの個人タクシー運転手>
<喫煙所で会話するビジネスマン>
さびれた駅前商店街を改装している作業員>
<この辺りで有名なホームレス>
<海人の前を横切る手を繋いだ幼い兄妹>

皆一瞬 海人に目線を送ったが

「なんだ また選挙か」すぐに目を逸らした

特急を降車した乗客とともに最初の聴衆は立ち去り

ロータリーに残るのは
工事現場の後片付けをする作業員と幼い兄妹だけだった

兄妹は誰かを待っているようだった

海人は 一緒にいた強面こわもての中年男性と目を合わせる

「ちょっと待っててください」

強面の男性は 海人が師匠と慕う「中居博なかいひろし
中居は小さくうなずいた

海人は幼い兄妹に駆け寄った

「どうしたの?」
「誰か待ってるの?」
「年はいくつ?」

海人は精一杯の作り笑顔で幼い兄妹に話しかけた

「僕は7歳」「妹は5歳」
「お母さんを待ってるんだ」

消えそうな声で答えた

中居は赤く目を腫らした妹に近寄り
ペットボトルのお茶を差し出した

妹は中居の顔を見て怖がっている

「こんにちわー!ノリノリまさのり」

中居は兄弟の機嫌きげんを取ろうと
ジェスチャー付きで錦鯉の長谷川ギャグを繰り出した

妹は大声で泣き出し兄にしがみついた

笑いがこみ上げる海人の脳裏に
幼いころの記憶が浮かんだ

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