非心臓手術における周術期心筋障害のhs-TnTのcutoff値は？：Br J Anaesth. 2022 Jan;128(1):26-36.

Identification of myocardial injury using perioperative troponin surveillance in major noncardiac surgery and net benefit over the Revised Cardiac Risk Index

Michelle S Chew, et al.

Br J Anaesth. 2022 Jan;128(1):26-36.

要旨

この研究は、スウェーデンの7つの病院において、非心臓の待機的大手術を受けた50歳以上の患者に焦点を当てた、前向き観察コホート研究の結果を発表したものである。この研究の目的は、術前および周術期の高感度心筋トロポニンT（hs-cTnT）値の変化が、術後30日以内の主要有害心血管・脳血管イベント（MACCE）および死亡を予測する予後的価値を有するかどうかを明らかにすることであった。この研究では、周術期のhs-cTnT値が術前値より14ng L^-1以上上昇することが、これらの転帰の最も高いリスクと関連し、統計的に最適なモデル性能を示すことがわかった。この知見は外部検証によって確認され、RCRI（Revised Cardiac Risk Index）よりも正味の有益性が示されたことから、RCRIにhs-cTnT測定を加えることで、高リスク患者をよりよく同定できる可能性が示唆された。

この研究は、非心臓手術を受ける患者の周術期管理におけるギャップを解決することで、この分野に貢献するものである。これまでの研究では、RCRI、ASA身体状態、および周術期転帰不良の他の既知の危険因子などの因子が包括的に説明されていなかった。本研究では、これらの変数を組み入れ、RCRIのような従来のリスク指標よりもhs-cTnT測定の方が正味の有益性が高いことを示したことで、周術期の心筋傷害、死亡、MACCEのリスクが高い患者を同定する上で大きな進歩がもたらされた。

Abstract

背景
周術期に心筋損傷をきたした患者は、死亡や主要な有害心血管・脳血管イベント（MACCE）のリスクがある。本研究の第一の目的は、MACCEと死亡を予測するための高感度心筋トロポニンT（hs-cTnT）の術前および周術期の変化の最適な閾値を決定することである。

方法
スウェーデンの7病院で非心臓の待機的大手術を受けた50歳以上の患者を対象とした前向き観察コホート研究。曝露は術前および術後0～3日目に測定されたhs-cTnTであった。以前に発表された2つの心筋傷害の閾値と、受信者動作特性分析を用いて同定された2つの閾値が、多変量ロジスティック回帰モデルを用いて評価され、外部により検証された。改訂心臓リスク指標（RCRI）と比較した場合のhs-cTnT閾値の付加価値を決定するために、加重比較純益法を適用した。主要アウトカムは30日全死亡とMACCEの複合とした。

結果
2017年4月から2020年12月までに1291例の患者を対象とした。主要転帰は124例（9.6％）で発生した。周術期にhs-cTnTが術前値より14ng L-1以上増加したことは、統計学的に最適なモデル性能を提供し、主要転帰の最高リスクと関連していた（調整オッズ比2.9、95％信頼区間1.8-4.7）。独立した外部コホートでの検証により、これらの所見が確認された。RCRIに対する正味の有益性は、臨床的閾値の範囲にわたって示された。

結論
周術期にhsTnTがベースライン値より14ng L-1以上上昇することにより、周術期の急性心筋障害が同定され、死亡やMACCEのリスクが高い患者の同定にRCRIを追加することで予後予測に正味のベネフィットがもたらされる。

主要関連論文

• Devereaux PJ et al., "Perioperative cardiac events in patients undergoing noncardiac surgery: a review of the magnitude of the problem, the pathophysiology of the events and methods to estimate and communicate risk." This paper offers a foundational overview of the risks of perioperative cardiac events in noncardiac surgeries.

• Thygesen K et al., "Fourth Universal Definition of Myocardial Infarction (2018)", which provides crucial definitions and clinical criteria for myocardial infarction, relevant to interpreting changes in troponin levels.

• Vascular Events In Noncardiac Surgery Patients Cohort Evaluation (VISION) Study Investigators, "Association between postoperative troponin levels and 30-day mortality among patients undergoing noncardiac surgery." This study establishes the relationship between postoperative troponin levels and mortality, underlining the importance of troponin monitoring.

• The Management of Perioperative Myocardial Injury in Noncardiac Surgery (MANAGE) trial, which explores the management strategies for perioperative myocardial injury, including the use of dabigatran to reduce the risk of major vascular complications.