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Chocolate in the Noisy Summer


※この文章はフィクションであり、実在する人物、団体等とは一切関係ありません。


もう一度言います。

※この文章はフィクションであり、実在する人物、団体等とは一切関係ありません。


 「はい、そこまで。答案回収しまーす。」
 教授の声で今季最後の期末試験が終わった。いやオワタ。正直散々なものだ。解答用紙は半分も埋まっていない上に、最後の30分はささくれをテーマにした俳句を書き添えることと、今日の昼飯のラーメンをどの店で食べるかを考えることしかしていなかった。だがこの男、東大生(あずまたいせい)にとってはもはや終わった試験のことなどどうでもよかった。視界には愛と夢と希望、すなわち夏休みしか見えていなかったのだ。みんみん鳴き出したセミもまるで夏休みに入った自分を祝福しているかのようにしか聞こえなかった。
 しかし雲ひとつないと思われていた青空にも暗雲が立ち込めていた。いや、わざと暗雲の方を見ないようにしていただけなのであろう。
 期末レポート・・・・東はその見ただけで吐き気を催す6文字のことを今日だけは考えないことにした。

 『うおおおおおおおおおお期末テストお疲れ様でしたああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!』

 「イカ東」のつぶやきにポツリポツリといいねがつき、通知がくる。イカにもイキのいいイカのアイコンが特徴的なそのSNSアカウントは東が東大合格をきっかけに作ったものである。だが今の名前になったのは東が大学で初めてできた友人の一言がきっかけであった。

「東大生で『あずまたいせい』って読むのかwwwイカにも『東大生』じゃんwww」

 イカにも東大生、略して「イカ東」。ついでにアイコンもイカにしてみた。こんな小学生でも思いつく寒いダジャレのようなアカウントで2年以上SNSを続けているだけあって、彼は常人なら恥ずかしくてお嫁に行けなくなってしまうようなつぶやきを眉の位置ひとつ変えずに投稿することができるようになった。

 ふと、青いトカゲのアイコンのつぶやきが目についた。

『期末試験終了!レポートも頑張るぞ💪😇』

「ゲッ・・・ハイリザのやつ余計なことを・・・」

 ハイリザと呼ばれる彼のつぶやきでようやく東は目を背けていた辛く、苦しい現実を思い出した。つぶやきの下のハートマークが赤くなる。
そういえばDMが来ていたらしい。やはりハイリザからだった。
「お疲れ、とりあえず正門前集合するか」

 グッドマークのリアクションをした後、スマホをポケットに突っ込もうとした。

「あ」

 チョコレートを入れっぱなしにしていたことに気づく。「糖分を持たざる者に勉強などできない」と豪語する東にとって試験期間中にチョコレートを常備するのは当然の習慣だった。試験前に食べようと思ってたのに結局忘れてたな。今から昼飯ということもあり、後で食べることにした。

 正門に着いた。少し早く着きすぎたかもしれない。暇になった時は他人のつぶやきを漁るに限る。

 『何はともあれ期末試験お疲れ様でした・・・!なおレポート()』
 ハチのアイコンが可愛らしい「Hachinominashigo」だ。いわゆる東が所属する学科のボスみたいな人である。数ヶ月前の東なら、こういう人でも試験やレポートには苦戦するんだろうなぁ、くらいにしか思わなかったであろう。
 しかし今の東は、この人が「全然勉強する気が起こらない・・・・」などと言っておいてしれっと優上という最高ランクの成績をとってしまったり、レポートがヤバそうなフリをしていながら実はその大部分はテスト前に終わらせてしまったりしているような人であることを知っていた。まあこういう謹厳実直・博学才穎・完全無欠な人間はもとより自分とは正反対の人種であることは東にもわかっていた。

 すぐ上で「ツカレッシュ」がつぶやく。

 『もう疲れたよツカレッシュ・・・・』

 こいついつも疲れてんな。ツカレッシュは東が立ち上げたオンライン上のサークル、「頭あほあほサークル」の幹部の一人である。サークルと言っても全く大した組織などではなく、自らの頭の悪さに対して劣等感を抱く学生たちが
   #東大頭あほあほサークル
などというタグをつけて仲良く互いの傷を慰め合うだけのサークルである。ちなみに略称は「アホサー」。だがこいつ、ツカレッシュは典型的な頭あほあほ詐欺師である。東たちと仲良く
 「あた~まあ~ほあ~ほあぁ^~ほ~あほぉ^~」
などというつぶやきをしたかと思えば数秒後には学部3年生ながら大学院レベルの専門書を脇において博士論文の執筆を進めているようなやつだ。だが生来の疲れやすい体質のためか、休日の午前中はしょっちゅう消えるロングスリーパーだし、試験勉強は基本直前にしかやらない。レポートも締め切り直前に焦ってちょちょいと書いて出すことがほとんどだ。それでも軽く単位を取ってくるどころか、優上のことも少なくない。ツカレッシュが連投したようだ。

『レポートマジで終わる気しない・・・頭あ〜ほあほ〜〜』

『ホモは嘘つき』

 いつもならそんなリプライをしたかもしれない。だが今はそういう気になれなかった。基本悪い奴ではないしつぶやきも面白いのだが、自覚なくこういうことをやってしまう。最もドス黒い悪とは自分を悪と気づいていない悪だと誰かが言っていた。二日酔いの朝に特盛のカツ丼を食べた時のような胃のむかつきを感じた。次のつぶやきを見ようとスクロールした。


 キカザールX・・・その名前と耳を塞いだ猿のアイコンを見た瞬間にスクロール速度を速めた。この人も名前だけはふざけているが優秀さではHachinominashigoやツカレッシュに勝るとも劣らない。今はもう誰も信じられなかった。ただ一人、信じられる奴がいるとすれば・・・

 「うい〜〜お待たせ〜〜〜」


  ハイリザのご到着だ。スマホをさっとポケットにしまう。ついでにチョコレートをチラっと見た。ちょっと溶けかかってるじゃねぇか。いやでも食べるとしても今じゃない。後で必ず食べよう。


 「この辺にぃ、うまいラーメン屋の屋台、来てるらしいんすよ」


 またラーメンか笑、などと言いながら嬉々として歩き出す二人。お互いに本名は把握しているが、ほとんど「イカ東」、「ハイリザ」とアカウント名で呼び合ってしまっている。どこへ向かうともなく歩ていくと、結局いつものラーメン屋に入っていった。食券を買って適当な席に腰掛ける。

「いや〜やっと終わったな試験〜〜」

「でもこれからレポートやらないといけないと思うと・・・やめたくなりますよ〜〜大学ぅ」

「レポートどんなもんよ?」

「白紙!手つかず!ウェディングドレスもたじろぐほどの純白・・・!w」

「お、おう」

 手つかずか。東ですら一応手はつけている。まあ出すべきレポート全部の仕事量を100とすると20もやっていないが。たいていの人間は上ではなく下を見て歩いていく生き物なのだ。

「そんでさすがにヤバいからさ、まず俺さぁ・・・今からレポート倒そうの会やろうと思ってんだけど・・・やってかない?」

「あぁ^〜いいっすね〜〜じゃけんラーメン食った後行きましょうね〜〜」

「おっ、そうだな」

 そんなことを話しているうちに国民的完全栄養食が2人の前に舞い降りたようだ。人は何かをやり切った後と何かをやろうとする前には美味い物を食うもんだと昔から相場は決まっている。今回はその両方だ。

「期末試験お疲れ様&レポートがんばろうの一撃〜〜」

 ハイリザが先にすすった。東も負けじとすする。2人は今日一番の集中力でもって一心不乱に麺と向き合い、瞬く間にスープまで平らげた。

「いや〜〜うまかったっすね〜〜今日も〜〜」

「うし、出るか」

 少し重たくなった体を持ち上げ、大学へ戻る。2人でレポートを進めるのにいい感じの自習室があったようだ。自習室は2人以外にほとんど人はおらず静かだが、セミの声だけは恐ろしくよく響いていた。

「ただ今時刻13:04、810番自習室にて対期末レポート作戦会議を決行する!」

「おかのした!」

「おかのした」とは2人の合言葉で「わかりました」「了解」という意味である。PCを置いてレポートの準備を始めた。

 1人で作業をしようとすると東のような怠惰な人間は大抵サボってしまうのだが、横にもう1人作業をしている人がいればなんとなく監視されているような気がして多少なりとも気が引き締まるというものだ。

 しかしその集中力が保ったのも最初の30分、いや20分程度であった。何度問題を読んでも理解もできなければ方針も立つはずもなく、雲を殴るかのような手応えのなさに呆然としていた。正面に対してできることがなくなってきたので隣に意識が向いた。

「今どんな感じ?」

「ああ、今これの(1)をやってるんだけど問題の意味すらよくわかんなくてさ」

「あ〜これは多分ガウス記号を折り曲げていい感じに組み立てたら鉄人28号ができるから・・・」

「あ〜〜ね〜〜それで1回やってみるわ、あざす」

 この範囲はたまたまやっていたので東にも対応できた。かなり拙い説明のように思われたが、ハイリザの黄金の理解力に助けられたようだ。ふと、つぶやきを確認してしまう。

『あた~まあ~ほあ~ほあぁ^~ほ~あほぉ^~  #東大頭あほあほサークル

 隣をチラッと見て思わずニヤけてしまう。そう、ハイリザもアホサーの一員、それも主要メンバーである。とりあえずいいね押しとくか。他の学科同期のつぶやきが目に入る。

『アホサー大体頭いいやつばっかで許せん。これもう詐欺グループだろ』

 5分前のつぶやきなのにもう2桁いいねがついている。たしかにこれは東自身も懸念していたことだ。アホサーに入ろうとする輩に限って成績優秀、頭脳明晰な学生が非常に多いのだ。しかし少なくとも東自身は自分こそ真の頭あほあほたる自負があった。そしてあわよくばハイリザだけでも自らの領域へと引きずり込もうとしていた。


 時刻は15時を回った頃だ。東のレポートは踊りもしないし進まない。イモムシでもあと3cmくらいは進んでいるだろう。セミの鳴き声だけが響く自習室が悲壮感に拍車をかける。もう自分に都合よく適当に問題設定してさっさと逃げてしまうか。エビ天はエビフライと仮定していいし、目玉焼きにソースをかける場合のことなんて考えなくていいだろ。今やっている問題は適当に終わらせて次に進むことにした。答えを書き終えると少し催してきた。

「ちょっとヒマワリ摘みに行ってくる」

「ヒマワリか、大変そうだな。いってら〜〜」

「あ、ところで今どんな感じ?」

「う〜んそうだな〜問3なんだけど好感度関数が微分可能な人は朝食に納豆を食べないことを証明したいんだけど正直よくわかんなくね?好感度関数なんてなめらかプリン食っとけば全部なめらかになるもんだと思ってたけど。っていうか好感度関数ってなんなんだよ。」

 ハイリザがもう問3まで進んでいることに驚いた。ややリードしていたはずの東はあまりにあっさりと追い越されてしまったのだ。っていうかほんとになんなんだよ好感度関数って。正直何一つわからない。

「え、あー、おほー、あはーん、うふーん、えーっと、多分あれだよな。好感度なんて受け取る側の問題だからさ、結局その人が納豆好きかどうかじゃないかな?」

「どうしたセクシーボイス出して・・・・やっぱそうだよな〜〜むずいわ〜〜ちょっとイカ東のも見ていい?」

「お、いいけど・・・」

「ありがとう・・・あ、イカ東もしかしてエビ天をエビフライと近似した?それはさすがに教授に怒られる気が・・・」

「え、マジ?」

「エビフライはパン粉を使ってるからパンに合う調味料と相性がいいんだよな。あとパン粉に油を多く吸われる分味の濃い調味料が求められる。だからエビフライにはソースとかタルタルみたいなマヨネーズ系の調味料をよくかけたりする。でもエビ天はパン粉使ってないからエビフライほど濃い調味料を求められないし、パンとの親和性も特に必要ない。だから天つゆみたいないかにも日本的な調味料をかける人が多いんだ。ここの違いを無視すると主に名古屋人が黙ってないって教授が確か言ってた。」

「な、なるほど・・・」

「あと、目玉焼きにソースかける人の話もっと手厚く書いた方がいいと思うな。この大問のテーマって多分『なんでもかんでもソースをかける関西人に対する警鐘』だと思うんだ。調べると目玉焼きに合う調味料って1位が塩、2位が醤油でソースは3位以下であることが科学的に証明されているらしいんだ。また、なんでもソースをかけて味の濃いものばかり食べてしまうと味を感じる力が衰えてしまってさらに味の濃い食べ物ばかり欲してしまうらしい。前の問題のエビ天にソースをかける人と同じように、ここでもそんなソースばっかりかけて大丈夫か?って話をさせたいのかなって思った。まあ結局はそれも多様性だから尊重するしかないよな。俺は目玉焼きには絶対ケチャップだけど。」

 醤油に決まってんだろ。と言いかけて口をつぐんだ。いくら東でも目に見える地雷を全力で踏み抜くようなことはしない。

「そ、そうか。じゃあやり直してみるか。ありがとな」

「オッスオッス。あ、そういやヒマワリ摘みはいいのか?」

「え、あーやっぱりラフレシアかも」

「マジか、早く行ってこい」

「おう」

 東は逃げるように部屋を出た。ハイリザがこの短時間でここまで問題の理解を深めているとは思わなかった。ウサギとカメに例えるのも見当違いだ。勤勉な人間がたまたま少し前方にいた怠惰な人間を追い抜いた。ただそれだけのことなのだ。


 東は恥じた。ハイリザが自分と同類、あるいはそれ以下であると一瞬でも錯覚していたことを。いや違う。本当はそうではないことくらいとっくに気づいていたのだ。中間試験の勉強会をした時だって、演習を2人で受講した時だって、最後にリードしていたのはあいつだったじゃないか。


 最寄りのトイレに一目散に走る。トイレの鏡に映る自分の顔が目に入った。刹那、猛烈な吐き気を催す。引き寄せられるように便器に顔を近づけた。しかし、今日のラーメンだけは便器の餌にするわけにはいかない。その一心でなんとか踏み止まった。


 かなり気分が落ち着ち付いてきた頃、ふと時間を確認した。

15:36

 実に30分ほどは格闘していたことになる。さすがにここらで戻っとかないとハイリザにも心配というか、不審に思われるかもしれない。幸いまだ連絡は来ていないようだ。習慣とは恐ろしいものでこんな時にもつぶやきを見てしまうものだ。タイムラインには主にアホサーメンバーたちの「阿鼻叫喚」の声が聞こえる。

『レポート全然進まない・・・あた~まあ~ほあ~ほあぁ^~ほ~あほぉ^~  #東大頭あほあほサークル

『この1時間で半分しか進んでないってマジ?あた~まあ~ほあ~ほあぁ^~ほ~あほぉ^~  #東大頭あほあほサークル

『レポート1つ仕上げたらもう疲れたよツカレッシュ・・・あた~まあ~ほあ~ほあぁ^~ほ~あほぉ^~  #東大頭あほあほサークル

『授業キカザール。問題理解せザール。レポート進まザール。締切間に合わザール。あた~まあ~ほあ~ほあぁ^~ほ~あほぉ^~  #東大頭あほあほサークル

 しかしいずれも東にはまやかしの悲鳴にしか見えなかった。この連中は本当に自分のことを頭あほあほだなんて思っちゃいないんだ。それともこいつらは自分より出来の悪い存在がいることなど微塵も頭にないのか?

『イカ東が教えてくれなきゃ初手でつまづいてたゾ。ひとりじゃレポートも書けない人間の屑。あた~まあ~ほあ~ほあぁ^~ほ~あほぉ^~  #東大頭あほあほサークル

 違う、おい違うだろ。お前は俺の先を行ったんだ。助けられたのは俺の方だ。俺がたまたま進捗をきいたからそうなっただけで、そうでなかったとしても別にひとりで進められただろ。

 何がイカ東だ。イカにも東大生なんて勘違いも甚だしい。名前と見た目がそれっぽかったからそう呼ばれただけだ。周りより勉強ができたわけでも頭が良いわけでもなく、その上努力家でもない。例えそうだったとしても、それは高校生までの話だ。今の俺はせいぜい人間「以下」なんだ。

 それでも・・・やはり俺は、少なくとも俺は東だ。「東大生」なのだ。東大生としては失格であっても、「東大生」であることは譲りたくない。いや待て、こんなやつが「東大生」で本当にいいのか?俺の知ってる「東大生」は、少なくとも「これ」よりは優秀で、勤勉で、それでいて謙虚で・・・誰からも尊敬される存在だったはずだ!

「俺は・・・いったい誰なんだ・・・?」


『この問題に時間かけすぎじゃね?あた~まあ~ほあ~ほあぁ^~ほ~あほぉ^~  #東大頭あほあほサークル

『こんなのもできないなんて・・・東大生やめます。あた~まあ~ほあ~ほあぁ^~ほ~あほぉ^~  #東大頭あほあほサークル

『俺アホスギィ!!あた~まあ~ほあ~ほあぁ^~ほ~あほぉ^~  #東大頭あほあほサークル


「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」




「あた~まあ~ほあ~ほあぁ^~ほ~あほぉ^~」
アソォレ!

『あた~まあ~ほあ~ほあぁ^~ほ~あほぉ^~』
ハァヨイショ!

『あた~まあ~ほあ~ほあぁ^~ほ~あほぉ^~』
もいっちょ

『あた~まあ~ほあ~ほあぁ^~ほ~あほぉ^~』
アソォレ!

『あた~まあ~ほあ~ほあぁ^~ほ~あほぉ^~』
ハァヨイショ!

『あた~まあ~ほあ~ほあぁ^~ほ~あほぉ^~』
もいっちょ

『あた~まあ~ほあ~ほあぁ^~ほ~あほぉ^~』

『あた~まあ~ほあ~ほあぁ^~ほ~あほぉ^~』

『あた~まあ~ほあ~ほあぁ^~ほ~あほぉ^~』

『あた~まあ~ほあ~ほあぁ^~ほ~あほぉ^~』

『あた~まあ~ほあ~ほあぁ^~ほ~あほぉ^~』

『あた~まあ~ほあ~ほあぁ^~ほ~あほぉ^~』

『あた~まあ~ほあ~ほあぁ^~ほ~あほぉ^~』

『あた~まあ~ほあ~ほあぁ^~ほ~あほぉ^~』

『あた~まあ~ほあ~ほあぁ^~ほ~あほぉ^~』

 あた~まあ~ほあ~ほあぁ^~ほ~あほぉ^~

 あた~まあ~ほあ~ほあぁ^~ほ~あほぉ^~

 あた~まあ~ほあ~ほあぁ^~ほ~あほぉ^~

 あた~まあ~ほあ~ほあぁ^~ほ~あほぉ^~

 あた~まあ~ほあ~ほあぁ^~ほ~あほぉ^~

 あた~まあ~ほあ~ほあぁ^~ほ~あほぉ^~

 あた~まあ~ほあ~ほあぁ^~ほ~あほぉ^~

 あた~まあ~ほあ~ほあぁ^~ほ~あほぉ^~

 あた~まあ~ほあ~ほあぁ^~ほ~あほぉ^~

 あた~まあ~ほあ~ほあぁ^~ほ~あほぉ^~

 あた~まあ~ほあ~ほあぁ^~ほ~あほぉ^~

 あた~まあ~ほあ~ほあぁ^~ほ~あほぉ^~

 あた~まあ~ほあ~ほあぁ^~ほ~あほぉ^~

 あた~まあ~ほあ~ほあぁ^~ほ~あほぉ^~

 あた~まあ~ほあ~ほあぁ^~ほ~あほぉ^~

 あた~まあ~ほあ~ほあぁ^~ほ~あほぉ^~

 あた~まあ~ほあ~ほあぁ^~ほ~あほぉ^~

 あた~まあ~ほあ~ほあぁ^~ほ~あほぉ^~

 あた~まあ~ほあ~ほあぁ^~ほ~あほぉ^~

 あた~まあ~ほあ~ほあぁ^~ほ~あほぉ^~

 あた~まあ~ほあ~ほあぁ^~ほ~あほぉ^~

 あた~まあ~ほあ~ほあぁ^~ほ~あほぉ^~

 あた~まあ~ほあ~ほあぁ^~ほ~あほぉ^~

 あた~まあ~ほあ~ほあぁ^~ほ~あほぉ^~

 あた~まあ~ほあ~ほあぁ^~ほ~あほぉ^~

 あた~まあ~ほあ~ほあぁ^~ほ~あほぉ^~

 あた~まあ~ほあ~ほあぁ^~ほ~あほぉ^~

 あた~まあ~ほあ~ほあぁ^~ほ~あほぉ^~

 あた~まあ~ほあ~ほあぁ^~ほ~あほぉ^~

 あた~まあ~ほあ~ほあぁ^~ほ~あほぉ^~

 あた~まあ~ほあ~ほあぁ^~ほ~あほぉ^~

 あた~まあ~ほあ~ほあぁ^~ほ~あほぉ^~

 あた~まあ~ほあ~ほあぁ^~ほ~あほぉ^~

 あた~まあ~ほあ~ほあぁ^~ほ~あほぉ^~

 あた~まあ~ほあ~ほあぁ^~ほ~あほぉ^~

 あた~まあ~ほあ~ほあぁ^~ほ~あほぉ^~

 あた~まあ~ほあ~ほあぁ^~ほ~あほぉ^~

 あた~まあ~ほあ~ほあぁ^~ほ~あほぉ^~

 あた~まあ~ほあ~ほあぁ^~ほ~あほぉ^~

 あた~まあ~ほあ~ほあぁ^~ほ~あほぉ^~

 あた~まあ~ほあ~ほあぁ^~ほ~あほぉ^~

 あた~まあ~ほあ~ほあぁ^~ほ~あほぉ^~

 あた~まあ~ほあ~ほあぁ^~ほ~あほぉ^~

 あた~まあ~ほあ~ほあぁ^~ほ~あほぉ^~

 あた~まあ~ほあ~ほあぁ^~ほ~あほぉ^~

 あた~まあ~ほあ~ほあぁ^~ほ~あほぉ^~

 あた~まあ~ほあ~ほあぁ^~ほ~あほぉ^~

 あた~まあ~ほあ~ほあぁ^~ほ~あほぉ^~

 あた~まあ~ほあ~ほあぁ^~ほ~あほぉ^~




















あた~まあ~ほあ~ほあぁ^~ほ~あほぉ^~


















 ずいぶん時間がたったように思えた。時間を確認したら18時前。思ったよりは早いな。外もまださほど暗くはない。さすがは夏の午後といったところか。あれだけうるさかったセミの声はずいぶん小さくなり、代わりにコオロギやスズムシたちの鳴き声が聞こえてくる。

 どうやってトイレから自習室に戻ったのか、東はあまりよく覚えていない。万が一にもハイリザに迷惑をかけていないといいのだが。その真偽を確かめる勇気は出なかった。

 依然東のレポートの進捗は良好とは言い難いが、ハイリザの助言で最悪の状況は辛うじて免れているといった感じだ。

そろそろお開きといった流れになったので2人とも帰宅準備を始める。疲れからかその手つきはかなりゆっくりとしているように見える。

「今日はありがとな、ハイリザ、あと、悪かった・・・」

「おう・・・え、ごめんって何が?」

「いや、なんでもない・・・」

「こっちはイカ東のおかげで進捗を生めたんだからさ、謝ることなんてなんもないだろ。こっちこそありがとな」

 ハイリザ、お前はどこまで人間の鑑なんだ。ハイリザがいつになく真面目な顔をしながら続けて言う。

「まあ今日ははやく寝た方がいいかもな。いやレポートでそれどころじゃないって言うかもだけど、あんま無理しない方がいい気がする」

「・・・まあ死なない程度に頑張ろう。お互いに。」

「お、そうだな。終わり!閉廷!以上みんな解散!お疲れ様でした!!!」

「あ、おい、ハイリザ!」

ハイリザがじゃあなと右手をひょいと上げ始めるや否や、東が引き止める。

「やっぱ目玉焼きには醤油だよなーー!!!!!!!!!」

それだけ言うと東はハイリザに背を向け、そのまま手を振った。

「ケチャップっつってんだろバカ舌が」

ハイリザは静かに微笑んでいた。


 帰宅直後、東はどっと疲れが押し寄せてくるのを感じた。あれだけのことがあったのだから無理もない。レポートどころか、晩飯を作る気力すらあるかどうかわからない。適当に焼きそばとかでいいか。

「疲れた時は甘いもの」は東が制定した今年の人権標語である。それで思い出した。ポケットにしまったチョコレートをまだ食べていないことに。

 ポケットからチョコレートを取り出そうとする。ベタベタした感触がした。嫌な予感しかしない。予感通りもはや固形物の体をなしていないかつてチョコレートだったものが発掘された。あれからさらにそんなにも溶けてしまったのか。ほとんどの時間はそこそこ涼しい室内にあったはずなのだが・・・。こうなっちゃしょうがない。捨てちまうか。

 全く今日は散々な日だった。

『もう、ダメみたいですね(諦觀)。あた~まあ~ほあ~ほあぁ^~ほ~あほぉ^~』

 そうつぶやこうとした瞬間、青いトカゲのことが頭に浮かんで即、キャンセルを押した。それから数十秒ほど座っていただろうか。ドロドロに溶けきったチョコレートを持ちながら、おもむろに立ち上がった。


 東は冷蔵庫を開け、その一番奥にチョコレートをぶち込んでやった。


 もう二度と、元の形に戻ることはないそのチョコレートを。













 







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