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smokers oracle

僕にとってとても大切な作家、ポール・オースターが先日亡くなった。少し体調を崩していることはなんとなく伝えられていたけれど、それはちょっとした不調であって命に関わるようなことだなんて考えもしなかった。まだ未訳の長編があとふたつほど残されていて、本国での出版からきっかり10年ほど遅れて邦訳が出るというこのペースのおかげでまだ「オースターの新刊を読む」というたのしみが残されているのは不思議だが今は少しうれしい。ポール・オースターの小説とスチュアート・ダイベックの短編は僕にとって海外文学というものにのめり込んでいくきっかけをくれた作品であり、そのどちらもが柴田元幸先生による訳によるものだったのもとても大きな出来事であったと思う。この出会いがなければ、『Sale Of Broken Dream』以降の僕の歌詞はない、とはっきりと断言してしまえるし、音楽を続けているかも、こうやって文章を書くことを続けているかもわからない。とにかく今は寂しい、という簡単なことを思うことしかできず、オースターのなかでも特別に好きな『スモーク』『ブルックリン・フォリーズ』『サンセット・パーク』というブルックリン三部作(と勝手に僕が呼んでいる)を順番に手にとっては腰を据えて読み返すでもなくぱらぱらと適当なページから適当なページまで読みつまんでいる。

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