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our town our foods our store {北大路}

 僕が育った石川県には、大きな地下のバスターミナルとちょっとしたモールが一体化している駅なんてひとつもなかった。大きな街の駅でも、電車を降りてから買い物や映画を観れるような場所にいくには、バスに乗ったり、大きな国道沿いをてくてくと歩かなくてはいけなかった。だからこそ、北大路ビブレというモールとバスターミナルと駅がひとつになった北大路駅に僕は異様にワクワクしてしまう。4階建ての建物にはスーパーはもちろん、たいやきやアイスが買えるスペースや家電屋さんに本屋、ファストファッションに家具屋、ロイヤルホストにバーミヤン。そしてなによりちょっとした景色が觀られる屋外のスペースが好きだ。町へと帰る人を乗せたバスが地下から上がってくるのを眺めているのが好きだったのだ。この地下から地上へとバスが飛び出していく大きな出入り口にはなんだか宇宙センター感、エヴァでいうとNERV本部感があって、はじめて観たときはかなりぐっときた。出発、というよりかは発進、という雰囲気がある。
 僕が京都離れあと、2022年にビブレは名前を変えてイオンモール北大路になった。僕が大学生の頃はどことなく寂れているモールという印象だった館内も、2015年頃に一度リニューアルされて、2階から上の階の内装もきれいになった。当時京都駅から北の地域で唯一の店舗だったバーミヤン(今は五条のイオンモールに店舗があるらしい)も閉店してしまったし、ロイホも街のデパートのゲームセンター感がグッとくるキッズプラネットもなくなってしまって、なんだかさみしく思っていたのだけど、それでもまだ階段の踊り場や店舗の隅の埃っぽい場所からなんともいえない懐かしさやそこに染み付いた生活の匂いがこっそり忍び寄ってくるようで、平日の夕方、何の用事があるわけでもなくたまに自転車を漕いでいき、1階から順番にふらふらと店内を歩くのが僕の暮らしのなかの、名前のつかない時間だった。たまにニトリでゴミ箱やカラーボックスを買って、チャリのハンドルにぶら下げて帰ったりした。

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