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MOONRISE・KINGDOMによせて


 明日の生放送を最後にHomecomingsが2年間担当させてもらってきた『Moonrise Kingdom』というラジオ番組が終わってしまう。京都α-stationには一番最初にミニアルバムを出した、まだ大学生だった頃に僕たちの「Home」という曲をパワープレイに選んでくれたり、なにかあると番組にゲストで呼んでもらったりと本当にお世話になっていて、僕ら以外にもスカートやカクバリズム、くるりが番組をもっていたり、ジム・オルークやコーネリアスが選曲を担当する番組があったりと、めちゃくちゃ面白くて大好きなラジオ局だ。二年前、ラジオのレギュラー番組の話がきたときは正直バンドがこれからどうなるか分からない時期で、『SYMPHONY』という作品を出したあと、バンドの活動と普段の生活のバランスが上手くとれなくなっていた僕たちは一旦バンドを止める、という可能性について話し合うところまできていた頃だった。そんな感じでなんだか重苦しい雰囲気だった2017年の年末にチャットモンチーのトリビュート・アルバムのお誘い(レコーディングが終わるまでチャットモンチーが活動を終了することは聞かされていなかった)と京都新聞のCMキャラクターの話、そして京都アニメーションの主題歌の話とラジオのレギュラー番組の話が一気に舞い込んできた。正直気持ちの整理があまりつかなかったし(僕はもう来年からは文章に関わる仕事に就きたいなと割と具体的に考えていた)、戸惑いもしたけれど、自分たちがずっと暮らしてきた、大事にしてきた京都という場所にまつわるものが多かったこともあって、自分たちが今までやってきたことは無駄じゃなかったんだな、と思うことができたのはなんだかそっと優しく手を差し伸べられているような気がして嬉しかった。まだもう少しだけ、自分たちにしかできないことがあるんじゃないか、という気持ちになれたのもあったし、正直それまであまり自分たちが必要とされているような気持ちになったことがなかったから単純にめちゃくちゃ嬉しかった。それはHomecomingsがもう一度歩きはじめるとても大きな理由になった。
 ムーンライズ・キングダムでは毎週4人のうち2人が出演する。普段ライブのMCやインタビューなんかを主に担当する僕と彩加さんの回が特別多いということもなく、なるべく4人それぞれが同じぐらいの頻度で担当する。ほなちゃんとなるちゃんの回だってもちろんあるし、逆に僕と彩加さんの回もある。毎回好きな曲を3曲づつぐらい持ち寄って流して、どちらかが一本、映画や最近觀たドラマなんかを紹介する。基本的にはこの流れで進行して、その合間に月替りのテーマメールを呼んだり、最近あったことなんかを話す。色んな質問に答えたり、最近あったことやニュースのことも話す。なるちゃんの回だけ特別に料理のレシピを紹介するコーナーがあって、ちゃんと毎回小さなノートに細かくレシピを書いてきていてすごいなーと毎回思う。毎週毎週、お気に入りのレコードを持ち寄って知らなかった音楽に出会ったり、最近観た映画を教えあって、これ良いよなぁと話したりすることは僕たちにとってとても大事なことで、意外とこれまで抜けていたところなのかもしれなかった。そうやってバンドの中の風通しが良くなった結果できあがったのが『Whale Living』というアルバムだと思っていて、この番組がなければできなかったアルバムなんじゃないかと思う。
 この2年間、ぼくたちは自分たちで作った小さな王国に守られてきたような気がする。たくさんの思い出もあるし、京都を離れてしまった今、ラジオ局がある四条烏丸の景色ですら愛しくてたまらないものになった。収録前によくみんなで食べに行った英多郎のうどんや、京都シネマ、マクドナルドとその上の階の本屋さん、やまもとのかけ蕎麦。こうやって大事な街や景色はこれからも増えていくのだろう。水曜日の23時からの1時間。そこは僕たち4人の場所でもあったし、僕たちと自分の部屋や車の中で番組を聴いてくれているリスナーの人たちとの場所でもあった。僕たちが大事にしてきた小さな寂しさや小さな灯りのこと。悲しいニュースやうれしい出来事。差別や偏見と戦うこと。目には見えない友達との会話。明日は22時からの2時間。どんな曲をかけようか。寂しさとわくわくがちょうど混ざった気持ちで僕はレコードの棚の前から離れられないでいるのだ。

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