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SWEET DREAMS

はなたばのかわりに。

 シャムキャッツが解散してしまった。そういう発表があることは先に聞いていたし、もっというと去年の秋に『CONFUSED!』というサヌキさんと僕で作った漫画の発売イベントで2マンをしたときには、2020年は少し休もうと思う、という話を聞いていた。寂しいなーっていう思いもあって最近はワンマンぐらいでしかやらなくなった「I WANT YOU BACK」という曲をその日の最後に演奏した。思えばシャムキャッツとはじめて一緒にツアーしたのは『I WANT YOU BACK EP』が出たときのことで僕は大学を卒業する間近だった。シャムはそのときちょうど『AFTER HOURS』をリリースしたタイミングで、それまでのぐしゃっとしたかっこいい!というライブから少し変わって、踊れるし泣けるし、とにかくめちゃくちゃグッとくるライブを毎回していた。僕たちと一緒に着いてきていたHi,how are you?のハラダくんが福岡のライブ後に打ち上げで行ったカラオケで最高のショーを披露して、その次のツアーはシャムと僕たちとハイハワユのスリーマンで回った。あれから何年か経って、Hi,how are you?はTERTA RECORDSからアルバムを出した。あのツアーがなかったら起こらなかった出来事がたくさんある。
 あの日の「I WANT YOU BACK」はまたすぐにもどってきてね、という気持ちを込めて演奏したけど、そのことをメンバーに話したわけじゃないし、もちろん目の前のお客さんに伝えるわけにもいかなかったから、僕のなかだけで完結した、”ちょっと特別なこと”だった。本当に最後になるなんて考えもしなかったから。誰も気づかないようなロマンチックなこと、ぐらいの気持ちだった。ちょっと休むってしか言ってなかったから。ライブが終わった後菅原さんが「懐かしい曲やってたね」と声をかけてくれたけど、なんだか急に恥ずかしくなって適当にごにょごにょ言ってごまかしてしまった。それでなにかが変わったわけじゃないけど、あの時ちゃんと伝えたらよかったなと今になって思う。しばらく観られないのか、と思いながらo-nestのステージ袖から観たシャムキャッツは最高だったけど、外からは分からないところでどこかの噛み合わせが悪くなっていたのかな、とかそんなことを思ってしまう。壊れた時計やアナログのカメラみたいに。

 多分、というか自信をもってそうだといえるけど、シャムキャッツと1番多く2マンライブをしたのはHomecomingsだ。お互いのツアーに誘い合ったり、リリースとか関係なく一緒に遠征したり、地方のイベンターの方から一緒にきてほしい!と呼んでもらったりもした。愛媛や広島や福岡や仙台に岡山なんかは毎年のように二組でライブをしにいった。行くたびに友達が増えてたのしかった。いろんなもの一緒に食べた。ラーメンとかお好み焼きとか、仙台のスイジューローペンとか。最後に一緒になったあの日、来年一緒に台湾行こうよ!という話になって、またひとつ思い出が増えることが嬉しくて楽しみにしていた。台湾の共通の友達、DSPSと海豚警察のみんなと火鍋食べたり夜市をぶらぶらしたり、朝ごはんを食べに適当なお店に入ってあの揚げパンみたいなやつを食べたりするのはとても楽しそうだった。叶いそうで叶わなかった夢のひとつだ。
 シャムとはイベントやフェスで一緒になることも多かった。ラインナップのなかにシャムがいると嬉しかった。野外で観るシャムキャッツはいつも気持ちがよかった。PAのナンシーさんやスタッフのともきくんに、山口さん、撮影の佐藤くんというクルーも含めて、東京にいる親戚という感じがした。東京と京都、という距離感も心地いいものだった。
 サヌキさんが描いた『MODELS』のジャケットを見たときは、やられたーと思った。サヌキさんのことはジオラマという漫画雑誌で知って、とても良い漫画を描く人だなと思っていたけど、まさかここまで自分のなかの理想のジャケットを作る人とは知らなくて、そのあとも『TAKE CARE』まで続く連作のようなアートワークは僕が思う、こんなことができたらなぁ、が詰まっていた。最後のベスト盤のジャケットも良かった。サヌキさんとはじめて話したのはシャムが主催していた『EASY』というイベントのときだった。シャムがつなげてくれた縁はたくさんあるし、そのどれもとても大切なものだ。


 はじめて一緒にツアーをしたあの年の春、僕は大学を卒業してCD屋さんで働きはじめた。もう学生じゃなくなったことや、これからの未来に対する不安な気持ちで頭がいっぱいで、新しい生活のワクワクした気持ちと混ざりあって、胸がずっとそわそわするような季節だった。そんな日々に『AFTER HOURS』はお守りのようだった。仕事のことで落ち込んだ帰り道に、遠回りしながら何回も繰り返して聴いた。家の近くに流れていた堀川という小さな川があって、レンガで造りになっているその川べりの道で「SWEET DREAMS」と「TSUBAME NOTE」を何回も繰り返して聴いた。それも帰り道のことだ。アフター・アワーズっていうのはどんな時間なのか。身体の中にあるだるい疲労感と上ずった開放感が僕に教えてくれた。僕にとってあのレコードはあの頃の僕のためにアルバムで、今でも、ジャケットを観ただけですぐにあのときの気持ちが取り出せる。大事だけど、ちょっと遠くに置いておく、みたいなレコードだ。
 あれから僕らも何枚かアルバムを出したし、シャムもすごいアルバムを2枚出した。『Friends Again』が出た頃はちょうど、僕たちがバンドとしてあまり上手くいっていない時期で、あのアルバムの風通しのよさやなによりそのタイトルにはっとさせられた。「花草」をはじめて聴いたとき、本当に感動した。このアルバムのツアーのパンフレットに寄せて書いたコラムは僕が文章の仕事をもらえるようになったきっかけのひとつでもあって、たまに思い出しては読み返している。ともだちについての小さな物語。そのあとに出た『virgin graffiti』は大好きな「カリフラワー」という曲が入っているし、ぐちゃっとしてたり妙にシンプルだったりして、でもそのとりとめのなさがとても好きだ。いなくなってしまった山口さんのことを歌ってるんだな、と思う曲がいくつかあって、ほんとうことが歌になってるなぁと感じるアルバム。『TAKE CARE』も『たからじま』も『GUM』も『はなたば』も、あと『サマー・ハイ』のシングルも『マイガール』に入ってる3曲も、「デボネア・ドライブ」も「魔法の絨毯」も「BALLADE NOT SUITED」も大好きだ。2012年のボロフェスタではじめて生で「渚」聴いた時泣いたなー。去年のボロフェスタはシャムキャッツのあとに僕たち、というタイムテーブルになっていて、ステージで楽器の準備をしながらみんなでシャムのライブを観た。夏目さんが「ホムカミも踊ってくれ!」ってMCで言って、そのあと本当に踊った。めちゃくちゃ良い日だった。

 シャムキャッツのライブを観ていると好きな人のこと、好きだった人のことを思い出す。そういえばあの子もシャム好きやったなーとか、一緒にワンマン行ったなーとか。狭い1Kの部屋に飾ってあった『TAKE CARE』のこととか。みんな夏目さんにメロメロでちょっと悔しかったなーとか。あの子元気かなーとか。そんなバンドはシャムキャッツだけだ。今日、このニュースをみて、みんなどんなふうに思ったんだろうか。あんまり落ち込んでなければいいな、と思う。
 花を飾るように暮らすこと、バスからの景色、だれかに触れること、だれかがいなくなること、そういうときにどんなふうに思うのかっていうこと、シャムキャッツのそんな歌が大好きだ。今度、晴れの日がきたら、何周でも何時間でも遠回りして帰ろうと思った。

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