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「過剰診断」は現代医学の最大課題

今年8月にコペンハーゲンでおこなわれた,The 2023 International Preventing Overdiagnosis Conference (PODC) という学会に参加し,いろいろな新しいことを学んできました.残念ながら産婦人科領域の話題はすくなかったのですが,世界的な流れとして,これからの医療では"overdiagnosis"がキーワードのひとつになりそうです.

欧州ではこのPODCの活動が主流ですが,北米では「Choosing Wisely」という,医療者と医療消費者が共同でとりくんでいる運動があります.欧米のいずれも「overdiagnosis」が中心テーマとなっています.北米のChoosing Wiselyでは医療費削減といった政治的な問題にはまりふれない方針をとっていますが,PODCのほうでは,SDGsとか医療の持続性といったテーマにも正面から積極的に取り組んでいるといった傾向のちがいはあります. 

日本にも「Choosing Wisely Japan」という団体があることはあるのですが,アカデミズムや臨床組織からは徹底して無視されている状況です.考えてみるに,おそらく過剰診断や過剰医療をいいだすと,医療側の収益に大きな影響がでてくるおそれがあると考えられているからではないでしょうか.

たとえば産科領域で,エビデンスにもとづいて「過剰診断」をみなおすことをはじめれば,妊婦健診の中身は過剰診断のかたまりみたいなところがあります.妊婦健診の初期検査にふくまれるB型肝炎,梅毒以外の感染症,細胞診,血糖値などにはスクリーニングとしてのエビデンスがありませんし,そもそも超音波検査はもちろん,妊婦健診の間隔や回数などはあきらかな過剰診断,過剰医療になっています.

産婦人科医はこれまで妊婦健診の必要性を訴え,その結果公費助成を獲得し,拡大してきたわけで,それを見直すことは一種のタブーにもなっています.わたし自身はそういった見直しを,いつのタイミングで,どれをターゲットとし,どのような形で問題提起しようかとずっと考えてきました.「産科診療Pros&Cons」の本に流れる問題意識はそこにあります.

いずれにしろ「過剰診断」の問題は非常に重要です.しかしこれは一種の「パンドラの箱」でもあり,批判をはじめるわれわれのほうにも十分な戦略が必要ではないかと考えています.

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