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93歳のおじいちゃんに、一生のお願いをされました。

介護職2年目に入り、私は経管栄養の寝たきりの方々が生活しているフロアーから、軽い認知症の症状は有しているが、自分で車椅子で何とか移動ができる方々が暮らしているフロアーに移動になりました。

ある日の出来事

ある部屋には、90代の夫婦が暮らしていました。
もともと心臓に病気を抱えていたおばあちゃんは、ある時具合が悪くなり始めていました。

その様子を、夫であるおじいちゃんは横でずっとみていました。

そして、そのおじいちゃんはある時私を呼びこう言いました。

「ぶんちゃん(私の名前とひとつも関係ないのですが、私はずっとそう呼ばれていました。)、君に一生のお願いがある!おばあさんを連れて、僕を家に返して欲しい。」

当時、93歳のおじいちゃんに20歳そこそこの私は真剣に頭を下げられ、男の一生のお願いをされました。

そのおじいちゃんの真剣さをみて、私は当時の上司におじいちゃんの一生のお願いを報告しました。

当時の私の上司は、そのおじいちゃんの息子さんご夫婦に、おじいちゃんの一生のお願いについて伝えた上で、今後の話を息子さんご夫婦とされていました。

息子さんご夫婦は、おじいちゃんが希望していた一生のお願いについては、想いを汲んでいらしたと思います。

しかし、その後おばあちゃんは自宅へ帰ることはなく病院に入院することになりました。

おじいちゃんは、愛するおばあちゃんを自宅で看取りたかったのだと思います。

息子さんご夫婦も当時は60代後半。もともと、息子さんご夫婦は在宅でおじいちゃんとおばあちゃんの介護をしていて、腰を悪くした経過がありました。

息子さんご夫婦は、自分達の身体に余力があれば一時的にでもおじいちゃんとおばあちゃんを自宅に連れて帰れるかどうか検討していました。

しかし、特別養護老人ホームから自宅に帰る選択は高齢の利用者並びに家族にとってハードルが高いのです。

この93歳のおじいちゃんの一生のお願いは叶いませんでしたが、私はこのお願いを忘れたことはありません。

そして、叶わなかったおじいちゃんの一生の願いをどうしたら叶えることができたのか、今も私の宿題になっています。

その後、私は施設から在宅介護の現場に移り、医療の道に進んだ今も在宅支援の仕事を選んでいるのは、このおじいちゃんとのエピソードがあるからです。

追伸
最近、介護人材向けビジネススクール KAIGO LAB SCHOOL の後輩が卒論で、特別養護老人ホームに入所していながらも、介護保険外サービスを導入し、在宅への一時帰宅サービスの可能性について取り上げていました。

是非、実現してほしいです。

私がおじいちゃんに頼まれた一生のお願いは、きっと他の多くのおじいちゃん、おばあちゃん、またはその家族の望みなのではないかと思っています。


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