見出し画像

窓越しの挨拶

こちらも他所で投稿した記録用

15年程前。今の仕事を始める前に2年間、近所にあった24時間営業のレンタル&新品中古ゲーム販売店で深夜から早朝のバイトを週3日やっていた

深夜26時から朝の7時まで。通常の接客と最後に朝の清掃をして帰る。当時は子供も小さかったので子供が寝てる間に仕事をして、小学校に行く長女を見送り次女を幼稚園に送ってから寝る。若いから出来た仕事だ

そんなレンタル店時代とその後の不思議な出来事を書いてみる

レンタル店の仕事は主にレンタル貸出返却と中古ゲームの販売買取のレジ作業、返却ソフトのチェック(ディスクの傷等)、返却品店戻し、本社に売上報告のPC作業。間に1時間の休憩があって最後にトイレと駐車場の掃除をして終了

この駐車場清掃は朝の5〜6時頃で季節によって冬は真っ暗、夏は昼と同じくらい明るい。冬は店舗の照明が届かない駐車場隅のゴミは見えないし寒いので適当に、反対に明るい季節は駐車場の隅までゴミ拾いをしていた。お客様の車もほぼ無い駐車場でゴミ拾いをしていると嫌でも隣接するお宅が目に入る
そんな駐車場の隣。北側のフェンスで隔てられた隣家の小さい窓からショートカットの女性がこちらを見ている事に気が付いたのも駐車場のゴミ拾いが苦にならない季節だった

朝の5〜6時と言えば早起きの奥様なら家事を始めているだろう。私はその人が見えた時はお辞儀をして挨拶していた。相手もペコリと頭を下げてくれていた。毎回とは言わないがかなり頻繁にこの挨拶を交わしていたと思う

とても説明が難しいが。彼女がこちらを見ている窓は二階建ての外壁のほぼ中央にあって。とても不自然な位置にポツンとある窓が気になり、だからこそ彼女にも気が付いた
窓の大きさは女性の肩あたりからパーマ?のふんわりしたショートカットの頭まで見えるサイズだった
1階の窓はあったであろう場所が不自然に塞がれていて、その位置と比べてもちょっと高すぎる位置。2階はベランダと、1階の塞がれた窓の上に普通の窓があったと思う

彼女はお辞儀を返してくれるがいつも無表情だった。こちらはなるべく笑顔でお辞儀しているのに…そのうち笑顔になるのかな?と

そんな週に3日のバイトも下の子が幼稚園卒園を目前に私は現在の会社に転職して辞めた。その後、レンタル店を経営していた会社が倒産してお店も閉店して今はカー用品店になっている

■■

今の職場で働くようになってすぐの頃、私は肩こりが酷くネットで近所の鍼灸院を探していた。ここで初めてあの家が鍼灸院だと知る。あちらは知らないだろうが勝手な親近感でその鍼灸院に予約を入れた

一方的に見知ったお宅の裏側(私が見ていた方が本来の裏側だが)にある入口から予約の旨を伝えて中に入った。なるほどこういう作りになっていたのか。と失礼ながらキョロキョロ見回して椅子に座り問診票を書いた

1階はワンフロアになっていて鍼灸院の為に普通の住宅をリフォームされたのだろう。外観より綺麗で治療するベッドは天井からカーテンで仕切られ、入口すぐに待合室的な椅子と先生の机がある広いスペース

カーテンで仕切られていた奥(区切られたスペースの南側)に用意してある患者衣に着替えてベッドにうつ伏せに寝て下さい。と、流暢な日本語で先生から言われてスリッパを脱ぎベッドに上がる

中から見ると1階南側の壁には窓が無い。窓が塞がれていたのは外から治療してる様子が見えないためだったのか。鍼は背中の開いた患者衣なのでなるほどな、と納得しそのままドーナツ枕に顔を埋めた

治療も終わり先生から次の予約はどうしますか?と聞かれ壁に貼ってあるカレンダーを見ながら考えていると、小窓が目の端に入った。天井ギリギリの窓は換気か採光の為にあるのか…

待てよ…

あの位置は挨拶して貰った窓だろう。しかし先生の椅子に登ってもあそこから顔を出すのは無理だし窓の下には大きい観葉植物がある。高い脚立を使ってやっと届く高さの窓から頻繁に挨拶してたのか?いや、もしかしたら窓掃除してた奥様か?とか

想像と現実の違和感になんとか理由をつけながら、先生に言われるまま次の予約を入れた

■■■

残念な事に私の肩こりに鍼は効果が無かった。だからなのか先生が気功整体?をプラスする事を勧めてくれたのだが鍼だけでも保険外治療だ。プラス分考えたら通うのは無理です。と申し訳なく言う

そうですよねーと、先生も苦笑いで今日で最後だしお茶でもどうですか?と言って内線なのか電話でお茶を出して欲しいと伝えていた。暫くすると2階から先生の奥様が中国茶を持ち降りてきた。先生よりぎこちない日本語だがとてもフレンドリーで元気な笑顔の方だった

先生と奥様と3人でお茶を頂きながら少し話をした。多分奥様はいつもこうなのだろう。一人息子が東京の大学にいってるのヨー。だからうちはこの人(先生)と二人で寂しいヨー。お子さんいるノ?何歳?何人?と矢継ぎ早に聞かれる。背中まで伸びた艶のある真っ直ぐで一本縛りした奥様の髪から目が離せなかった

私は早くこの場から立ち去りたい思いで早々に話を切り上げて逃げるように鍼灸院を後にした。奥様は最後は駐車場まで見送り笑顔で手を振ってくれた
バックミラー越しに奥様の長い髪が風に吹かれてサラサラとなびいていた

その後鍼灸院はご夫婦で母国に帰られたと人伝に聞いた。今は空き家になっている

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?