本杉純生句集『有心(うしん)』
冠省
このたびは玉句集『有心(うしん)』をご恵送賜りありがとうございました。
『跋』に橋本榮治氏が「大人の風貌」と題して寄稿しているように、深い教養に支えられた格調の高い作風の句集に感じました。
秀句揃いの句集の中から、特にわたしが好きになった句を以下に揚げて、御礼とさせていただきます。
水を発ち水を離れず冬かもめ
青蛙おのれの色の草に跳ぶ
ひと色の雨ひと色の夏野かな
滅びたる記紀のたれかれ冬銀河
日輪へ深き一礼潮かぐら
田蛙の闇なまぐさき生家かな
刈伏せの草に息ある草泊り
曼荼羅のやうに案山子を配しけり
秋桜揺れ合うて彩にごらざる
われからや内侍の恋のあはあはと
しつらひは庭の秋果を絵のやうに
乳ぐもる空へ投げ入れ鮎の竿
山祇へ一礼深く穂懸かな
牛車引き来よ大原は秋の風
生国はさねさし相模大根干す
発心の熊野ふるみち螻蛄のこゑ
機織虫かはたれ星の高々と
階の一歩に一語露けしや
鬼の子の鳴いて古京の大寺跡
(悼 木内彰志先生)の前書のある句
狐火を詠み狐火になられしよ
仏からほとけへ歩む村時雨
飛ぶ源氏湧き出る平家螢かな
打つ心空となるまで胡麻を打つ
かりがねや水に艶ある奥秩父
み首級(しるし)のやうに白菜かかへけり
風除けの木々の色濃き田植花
青梅を叩いて父祖の家を出でず
小春日を煙のやうに歩きけり
安達太良の秀先を雁の名残かな
海月ひらひら人の滅びしその後も
鱧ざくざく車軸の雨の東山
幽霊飴買ひ損ねたる空也の忌
手放して知る風船の重さかな
蟷螂の悟り開いてゐるところ
羅生門蔓(かずら)のことは言はでおく
家持の海広々とかひやぐら
いくたびも同じ波来る開戦日
どの句もその背後に優雅な和旋律の調べを感じる、格調高い句ですね。
一句一句の下手な鑑賞文を書くと、その調べを乱すような危惧を感じますので、鑑賞文なしの選句紹介とさせていただきました。
本杉様のますますのご健吟と、ご健康をお祈り申し上げます。
草々
武良竜彦
本杉純生 様
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