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【AIR】観光庁施策「地方における高付加価値なインバウンド観光地づくりに向けたアクションプラン」を読む(1)

観光立国を掲げインバウンドの取り込みを日本も推進してきましたが、2020年からのコロナ禍でインバウンド需要が一気に消滅。約3年間、観光産業は厳しい状況に直面してきました。5月8日からようやく新型コロナウイルス感染症の5類移行が決定され、観光需要回復に向け観光業界からも大きな期待があがっており、今年はインバウンド再生元年になるとの見方も出ています。

今後のインバウンドの本格的再始動に向けて、2023年〜25年度の「観光立国推進基本計画」(以下「基本計画」)が先日閣議決定されました。基本計画では、2025年に訪日外国人の1人あたりの旅行消費額単価20万円への引き上げも含む消費額拡大、都市部に偏在する客足の地方への誘客、自然や文化等の観光資源の保全と観光の両立化による持続可能な観光、といった大きなテーマが盛り込まれました。

そこでインバウンド観光政策として新たに注目されてるのが「高付加価値旅行」です。これまでのインバウンド観光政策は、とにかくまずは日本に来てもらおうという数の呼び込みに力点が置かれていました。そのため高付加価値旅行者が取り込めていないという現状の課題意識があります。そこで価値と質を高め、しっかりと価値に見合う価格設定されたインバウンド観光商品開発を行い、特に地方の観光産業において価格の底上げをし、“良いものが安くなんでも手に入る日本”というイメージのプライシングを変えていくことを意識しています。

そのために、観光庁は「地方における高付加価値なインバウンド観光地づくり検討委員会」を設置し、2022年5月に「地方における高付加価値なインバウンド観光地づくりに向けたアクションプラン」を策定しており、各地での高付加価値な旅行開発への機運を醸成しようとしています。

・観光庁 地方における高付加価値なインバウンド観光地づくり検討委員会
https://www.mlit.go.jp/kankocho/joushitsu.html

・地方における高付加価値なインバウンド観光地づくりに向けたアクションプラン(令和4年5月)
https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/001483862.pdf

そこで高付加価値なインバウンド観光地づくりというのは、いったいどんなものを目指そうとしているのか、を観光庁が設置した「地方における高付加価値なインバウンド観光地づくり検討委員会」から公表されたアクションプランを参照しながら何回かに分けてみていきます。

今回は「高付加価値旅行」といっても、その旅行者の実態は現状どのような状況なのか、高付加価値旅行者の現状について「地方における高付加価値なインバウンド観光地づくりに向けたアクションプラン」にある参考資料データからピックアップしてみていきます。

そもそも世界で富裕層と言われる人がどのくらいいるのかというと、保有資産100万US$以上の人数は世界全体で、約5,295万人いると推計されているそう。この数は今後も増加が見込まれ、2025年には約6,819万人にまで達すると予測されています。

その分布状況ですが、地域別でみると、北米が約2,129万人(40.2%)、欧州が約1,534万人(29.0%)、アジアが約1,207万人(22.8%)となっています。国別でみると、米国が約2,017万人、中国が約720万人、ドイツが約297万人、フランスが約256万人、英国が約243万人となっています。

1回あたりの1人あたりの総消費額100万円以上の旅行者を高付加価値旅行者と定義した上で、その人数と消費額の2019年時点の割合についてみると、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、オーストラリア、中国の6カ国から約28.7万人と推計されています。2019年の訪日外国人旅行者数の全体が3,188万人でしたから、高付加価値旅行者の比率はわずか0.9%となります。

高付加価値旅行者はいったいどのくらいお金を使ってくれているかというと、同じく2019年時点の数値で、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、オーストラリア、中国の6カ国で約5,523億円と推計されています。2019年の訪日外国人旅行消費額の全体が約4兆8,135億円でしたから、高付加価値旅行者の比率は約11.5%となります。

コロナ禍前の2019年時点の状況では、高付加価値旅行者は、訪日外国人旅行者全体の約1%に過ぎないものの、消費額では約11.5%を占めています。

もう1点、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、オーストラリアの5ヶ国の高付加価値旅行者の海外旅行消費額に占める日本の順位についても出ています。アメリカは13位、イギリスは36位、ドイツとフランスは23位、オーストラリアは11位、と日本の高付加価値旅行者獲得シェアは、まだ低い状況にあり、そのため改善次第では伸びしろの余地があると見込まれています。

2019年の訪日外国人旅行者のカード決済による利用金額データを分析した資料をみると、300万円以上消費している富裕旅行者Tier1のエリア別分布状況は、東京都が67.2%と圧倒的に高いシェアを獲得しており、次に大阪府が18.1%となっています。100万円未満消費の一般層についても、東京都と大阪府がそれぞれ1位と2位になっており、利用金額は富裕層、一般層ともに東京都と大阪府に集中している状況です。

高付加価値旅行者だけでなく一般層も同じく、インバウンド消費は大都市での消費に偏在しており、地方での消費がほとんど行われていないというのが現状です。

ちなみに、こうしたインバウンド消費が大都市だけに偏在している状況を改善すべく、観光庁では今年3月に地方でインバウンドに向けた高付加価値な観光地モデル事業づくりを行うべく、以下の11地域が選定し今年度から動きが出てくるはずです。

・観光庁 高付加価値旅行者の誘客に向けて集中的な支援等を行うモデル観光地11地域を選定しました~地方における高付加価値なインバウンド観光地づくり事業~
https://www.mlit.go.jp/kankocho/news03_000235.html

(出所)https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/001599031.pdf

(次回に続く)

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