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渡辺電機(株)「父娘(おやこ)ぐらし」レビュー「大人を信じない先生が大人になった」。

本書は平成30年3月に大阪在住の2人の娘さんを抱える16歳年下の女性と入籍され,お互い仕事を持っていて直ちに同居は難しく4月からのクラス替えを控えた長女アユ(当時8歳)との同居を先行して開始された漫画家の渡辺電機(株)先生(当時55歳)の子育て日記ですね。

表紙の先生が着用されているTシャツに
”Don't trust over 55"(55歳以上を信じるな)
ってプリントされてるのは
元ネタは
”Don't trust over 30"(30歳以上を信じるな)
って言葉でどういう意味かと言うと
昔は30歳にもなれば
大人の分別が身に付くだろうと言われれて,
30歳になったら,ハンパは止めて,
いい加減女みたいな長い髪を切って髭を剃って
ネクタイ締めて
社会の構成員としての責任を果たす大人になるべき
って考えがあって
要するに「大人になる年齢」が30歳って言われてて
「そんな社会通念に従いはしないぞ」って粋がる台詞が
「30歳以上は信じるな」って言葉なのですよ。
渡辺先生もかつては「30歳以上は信じるな」って叫ぶ
若者側だった筈なのだけれど結婚したい相手が出来て,
その相手に連れ子が2人いて連れ子を「育てる」必要が発生した際,
先生は激しく葛藤されます。そんなの当たり前だよね。
御自分の年齢の事,自分の「残り時間」の事,「他人の子」を育てる事…。

「えーい悩む事はねえ」「誰の為でもねえ」
「俺が結婚したいから結婚するんだ」

先生は決断され結果,「大人」になられた。
「55歳以上を信じるな」
は自分が
「(かつて自分が信じられないと揶揄した)大人になった」って決意表明だと僕は思ってます。
もうひとつは
「こんな俺を無条件に信じないでくれアユ」
って戸惑いもあるのかしら。
「大人になった」結果,アユちゃんの通う小学校のお母さん方から声を掛けられ「ママ友」の仲間に入れて貰えて子育ての情報を共有出来るようになったといいます。
「渡辺とか言う近所の不審者」が「真人間になった渡辺さん」になり
「アユちゃんのお父さん」になり「肩書」が変わるにつれて信用が増して行く。
大人の責任を果たすって事は周囲の信頼を得るって事なんです。

ホントを言うとね「竜二」って映画みたいに
一旦は「堅気」になった渡辺さんが
ヤクザな世界に戻って行くと思ってたのですが
そうはならなかった。
舐めててゴメン。

アユちゃんに買い与える食べ物が屋台のたこ焼き,売店のソフトクリーム,コンビニのランチパックと「買って直ぐ食べられるもの」ばかりで栄養バランスを無視してますし第一不経済です。
「料理を作る」のは奥様との合流を待たねばならんのでしょうが「お父さん」としては未だ未だ発展途上。
子供を育てるっていう事はお父さんとして成長する事でもあるんです。

現在渡辺さんは60歳。還暦ですね。
僕は母親が30歳の時の子供で「高齢の親」を持つ子供の気持ちって
「お母さんが死んじゃったら私どうなるんだろう」って不安しかないんです。
現在は奥様との間に御長男を設けられて
3児の父となられた渡辺さんを見る3人のお子さんが抱える不安って
「お父さんに何時までも長生きして欲しい」
の筈なんです。
どうかお子さんの希望を叶えてあげて下さい。

僕は結婚もせずにもう直ぐ還暦のジジイですが
「誰からも干渉されない」
のは自由でいいですが
既に3人の子供を育て上げ
今は旦那さんとラブラブで自適に暮らす妹を見ると
「思うところ」が何も無い訳ないんですが
渡辺先生の様に今から「大人になる」勇気が出ない臆病者なのです。
何よりも自由を愛し何者にも束縛されない事を追究した結果が
「無精髭に白い物の混じる近所の気難しい爺さん」が
「咳をしても一人」って
種田山頭火の心境に到達するとは
何とも言えない気分となりますね。



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