見出し画像

小林まこと「青春少年マガジン1978~1983」レビュー

本作品は小林まこと青年が「格闘三兄弟」で新人賞に入選してから「1・2の三四郎」の連載を開始し,同連載が終了する迄を描いた漫画である。
同時に2人の新人漫画家大和田夏希・小野新二両氏との出会いと別れが描かれている。
小林氏の描く「修羅場」を紹介したい。
5日間で40頁原稿を描く必要が生じ,作業線表を引いてみると
睡眠時間ゼロ・食事時間ゼロ・5日間全くバテず全てが段取り通り進んだとしてギリギリ仕上がるという算出結果が出る。
この作業線表を実行した結果を小林氏は「事実その通りとなった」と淡々と語る。

だんだん日が暮れる
静かな夜が続く
そして夜が明ける
窓の外では普通の人達が学校や会社に出かけて行く
しばらくすると会社や学校から帰ってくる
そしてまた夜が明けると会社や学校に出て行く…

これを5回見た
こんな生活が半年続いた
この頃のオレの平均睡眠時間は週に8時間

当時の備忘録が残っていた
16日 1日中頭痛仕事にならず
17日 いかんまったくネームできず 今日2度吐いた
18日 もうだめだ
19日 空白
20日 空白
21日 空白

次頁をめくるのが怖かったのは本書のこの描写が初めてである。
こんな…こんな生き方続けてたら死んじまうよ…。

小林氏がマンションの上階から地面をじっと眺めて
ハッとして柵を掴んでしゃがみ
「いかんぞ…この手を離したらいかんぞ…」
と自分に言い聞かせる描写。
大和田夏希氏が風呂の底が抜けるのが怖いから浴槽のフチを掴み
「お…落ちる…掴まってないと…落ちる」
と自分に言い聞かせる描写。
小野新二氏がリウマチで親指と人差し指が動かなくなりガムテープで指とペンをグルグル巻きにして固定させて漫画を描く描写。

大和田夏希氏は仕事場で自殺。
その僅か1年後に
小野新二氏は自分で立てなくなってトイレに行くのにも奥さんに担がれる程体重が落ち,体力が無くなって飲酒の結果,肝臓が全滅して入院先の病院で他界。

「オレも一歩間違えばどうなってたかしれたもんじゃない」

小林氏の言葉が重い。

後書きで小林氏は本書を
故 大和田夏希
故 小野新二
二人の親友に捧げます
文句があったらあの世で聞きます
また三人でケンカしましょう
と結んでいる。

小林氏は「漫画家になって良かったことは?」と聴かれると「友達が出来たこと」と答えていると言う。

初めて出会う同年代の漫画家の友達。

巻末に新人賞を受賞した「格闘三兄弟」が掲載されている。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?