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福田宏先生の「ロックは淑女の嗜みでして」第1巻レビュー「第3話迄はなんとか面白いが…ソレ以降は落第。10か月経っても初版がはけねえ訳である。」

本作の主人公鈴ノ宮りりさは
小・中・高の一貫教育のお嬢様学校「桜心女学園高等部」
1年に在籍していて所作も学力も申し分ないが
本人は学校一のお嬢様の称号
「高潔な乙女(ノーブル・メイデン)」の獲得に腐心している。
と言うのも彼女の母親は「本当の夫」を失ったのち,
鈴ノ宮家の御曹司のもとに嫁ぎ,
一族の者達から白眼視されており,
「実の娘」としては歯噛みする日々が続いており,
せめて猛勉強して懸命に所作を身に付けて称号を獲得して
「親族」からの母親への風当たりを少しでも弱めたいというもの。

しかし…彼女は他界した「本当の父親」からロックを学んでおり
熱い熱い熱いロック魂が従順に生きる事を良しとさせない。
本当はね。
「ノーブル・メイデン」の称号獲得だって望んでやってる事じゃない。
「自分らしく生きたい」って生きとし生ける者全ての望みを
彼女もまた胸の奥に煮え滾られているのだ。

そんなある日,彼女は使われなくなった旧校舎の音楽室から
ドラムを叩く音がするのを感じる。
音楽室では同じ1年の黒鉄音羽(くろがねおとは)が
汗だくになってドラムを叩いている。

お嬢様がロックのドラムを…?

鈴ノ宮の姿に気付いた黒鉄は彼女の指のギターダコを見て取って
「私とセッションしませんか?」
と申し出て来る。
「私はロックもギターもやりません」
「ソレはお嬢様になるのに不要なものです」
と黒鉄の申し出を拒絶すると
「『ワタシはヘタクソでセッションなんか出来ませえん』」
「…って最初から正直に仰ればいいのに…」
と黒鉄が挑発して来る。
「本当の父親」譲りの鉄火の血が炸裂し
煽り耐性ゼロの鈴ノ宮は黒鉄とのセッションに応じるのであった…。

僕は推薦入試で文系が非常に強い大学の理工学部数学科に進学しました。
帰国子女が非常に多く
英語・ドイツ語・フランス語…外国語ペラペラ何てのは当たり前で
「源氏物語」全文暗唱など基本中の基本。
そんな中,数学しか出来ない僕などは肩身が狭く
もう本当に「住む世界が違う」のです。

ですから本作の「お嬢様」観に非常に違和感を覚えました。

厳かで歴史のある建物は
最先端の管理システムが駆使され
小鳥たちは今日も
将来の不安を感ずることなく
大人達の飾った鳥籠で
華やかにさえずっている
何の刺激もない毎日を…

現在NHKの大河ドラマで「光る君へ」を放送しておりますが
「教養」が一族の将来・自分の将来へと直結する世界が
「何の刺激もない毎日」なのでしょうか。
寧ろ「薄氷を踏む思いの毎日」
「抜きん出る為に必死に教養を身に付ける毎日」
である様に感じられるのです。

大体例えば『「源氏物語」全文暗唱』が一朝一夕に出来る訳ないでしょう。
ところがこの鈴ノ宮のやり方は所作も教養も全てが一夜漬け。
「お嬢様」「学問」「礼儀作法」の全てを舐めているのです。
真剣に「学問」に取り組む者から見れば
「一夜漬け」など悪手中の悪手なのです。
この女がノーブル・メイデンとか
「女学校の海賊王にオレはなる!」って粋がられてもね。
そんなもの…なってどうするんだよ!

鈴ノ宮の「本当にやりたい事」はロックバンドのギター担当で
だったら最初からその目的を掲げてメンバーを集めればいいだけの話で,
たまったまドラム担当の黒鉄がお嬢様で
「お嬢様にドラムなんて出来んのかよ?」
って鈴ノ宮が煽って
「私は…ドラムを叩いている時が…」
「1番夢中になれるんです…」
「お嬢様とか一般人とか」
「男とか女とか」
「サラリーマンとか自営業とか」
「金持ちとか貧乏人とか」
「関係無いですよねえ?」
「「スキ」以外に!」
「ドラムやる理由があるなら教えて下さい!」
って黒鉄が鈴ノ宮を煽り返す本編に繋げて一体何の問題があるんですか?

「ロックやるのに「やりたいから」以外の理由は要らない」

って言うのに遠回りし過ぎなんですよ。
ロックをやりたいと言うのなら!

「「お嬢様」関係無いですよねえ!?(黒鉄談)」

本作の価値は!
黒鉄が鈴ノ宮を煽り返す一連の言葉にあるのであって!
鈴ノ宮が「偽装お嬢様の海賊王になる」展開にこれっぽっちも魅力はないッ!

本作が面白いのは第3話迄の
鈴ノ宮と黒鉄がロックバンドを始めるに至る経緯であって
第4話以降はてんで面白くない。
何故なら!
ロックバンドを組みました。
では「次」に何をしましょうか?
って「将来の展望」がゼロだからである。

もっと「先」のコトを考えて漫画を描けよ!

本作は昨年(2023年)5月1日に第1巻の初版が刊行されている。
僕が第1巻を購入したのは2024年2月29日。
奥付を参照したら初版のままだった。
つまり!
10か月もの間1度も重版がかかってないのである。

本巻を読んで,その「理由」がよおく分かったよ。
1.「お嬢様」「学問」「礼儀作法」の全てを
一夜漬けで何とかしようとする思慮の浅さ。
2.ドラム担当が加入してから
どうするのかって将来の展望への見通しの甘さ。

読者は作者の「思慮の浅さ」に呆れ果てて
本作を第1巻で見切り
「本作はダメだ」って判定は
たちまち漫画好きの間に広まったから売れねえのである。


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