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細野不二彦先生の「1978年のまんが虫」レビュー「サイノ青年に仮託した細野先生の「まんが道」の序章ですね。」

高校生の頃から「スタジオぬえ」に出入りして松崎健一氏に直接漫画の指導を受ける程の才気を発しながら, 御本人はと言えば大学生でありながらプロデビューし週刊少年サンデーで連載を開始した 「うる星やつら」高橋留美子先生との才気の彼我絶対差に打ちひしがれる内向的な大学生・細納不二雄(サイノ・フジオ)に仮託した漫画家・細野不二彦先生の「まんが道」…の序章。サイノ・フジオって名前が如何にも「まんが道」的です。

高橋留美子先生への鬱屈した感情を
「だいたいコレ,オンナの描くマンガか?」
のたった一言で言い表し,型にハマった「オンナが描く(べき)マンガ」に囚われてる自身の矮小さと時代の制約をも表現してる。

かつては尊敬していた父がアルコールに溺れ,入退院を繰り返す「飲んだくれ」に成り下がった事に対する鬱屈, 内職で家計を支える母,ダウン症の弟…。
父に何かあったら長男の自分の双肩に全てがのしかかってくる重圧から逃れる様に漫画に打ち込む, ちっとも綺羅綺羅しくない青春。

本作はサイノが大学生で「スタジオぬえ」の社員となり 非常に強い個性を持つ小説家・高千穂遙社長の推薦で「クラッシャージョウ」のコミカライズでプロデビューし,鬱屈した思いを抱えていた父と死別し, 新人漫画家として,長男として,さあこれから「どうする細納」って所で幕なのである。
本書のタイトルが「1978年のまんが虫」なのは彼にとって長い1978年が終わり, 1979年の晩秋に「恋のプリズナー」を小学館に持ち込む所が最後のコマだから。
僕は「クラッシャージョウ」のコミカライズの時の様に「恋のプリズナー」の完成原稿を小学館に持ち込む「結果」ではなく原稿執筆の「過程」が読みたかったのだ。
もう本当に,父親が他界してからは駆け足でパタパタっと終わってしまってね。
身内が他界するとバタバタ慌ただしく時が流れるじゃないですか。
その主観的な時間感覚を見事に漫画化されてます。

とは言え,これじゃまるで打ち切り漫画だ。
何としても「続き」が読みたいのである。

自伝漫画でありながらキャラが一番立っているのが高千穂遙先生!
次席はスタジオぬえ所属となった漫画家の瑞原芽理先生!
この頃「スタジオぬえ」は漫画にも力を入れようとして細野先生や瑞原先生に参加して貰ったそうです。

無粋な解説をすると瑞原芽里先生は「ダーティペア」のケイのモデルで瑞原先生と同級生で「スタジオぬえ」の経理や瑞原先生の漫画描きの手伝いをされた方がユリのモデルなのですが,この方は「堅気」なので中田百合子という架空の名前で登場してます(勿論本名じゃありません)。
また本書の巻末にコラムを寄稿されている美樹本晴彦先生は細野先生と高校生の頃からの知り合いなのですが高校生の頃は「堅気」なので本書では斎藤明彦って名前で登場してます(勿論本名じゃありません)。
細野先生は「「プロ」とはこうあるべき」って意識が非常に高く「プロ」は実名で登場させますが「堅気(アマチュア)」は架空の名前で登場させる程,意識が徹底してるのです。
当然細野先生から見てサイノは「プロ」とは程遠いので「サイノ」であって決して「ホソノ」ではないのです。
他人に厳しい細野先生は,それ以上に自分に厳しい事が伝わって来ます。

僕が本作で一番好きなのはサイノ,瑞原芽理,中田百合子の3氏が弓月光先生の作品の話をするところ。
女子は「弓月光好きの男子」をこう見てるのかあって…何故か気恥ずかしくなる場面ですね。

「本書が高過ぎる」とのAmazonレビューが掲載されましたが,そのレビューが掲載されてから2度完売増刷したよ。
つまり皆買ってる訳で高いと思ってない。
「良い本は売れる」って当たり前の話にアホが因縁付けてるだけ。
大体!本を買う金も無いのかよ。
本は!例え食事を抜いてでも買って読むべきだろ!

そうそう本書のカバー下も是非読んでみて下さい。

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