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ジョージ・A・ロメロ監督の「ナイトライダーズ」スティングレイDVDレビュー「「孤高の王」の心」。

ジョージ・A・ロメロ監督と言えば「何たら・オブ・ザ・デッド」を
代表とするホラー映画監督と思われがちだが勿論違う。

その例外のひとつが本作品(1981年)である。
本作品は「ゾンビ」(1978年)の3年後,
「死霊のえじき」(1985年)の4年前に制作された作品である。
恐らくロメロ監督がその長い映画人生の中で
最高に気力体力が充実した時期に制作された作品であると思う。

本作品は日本では劇場公開されなかった。
というのは本作品は日本ユナイト映画が配給予定だったのだが
前年(1980年)ユナイト映画配給の
マイケル・チミノ監督作品「天国の門」(1980年)が大コケし
多額の負債を背負い日本ユナイト映画が倒産・消滅してしまったのだ。

その「とばっちり」を受け本作品はお蔵入りとなった。
お蔵入りとなってから10年後の1992年10月に
日本衛星放送(WOWOW)にて本作品が初めて日本でテレビ放映された。
その11年後の2003年11月深夜映画枠でテレビ朝日で
地上波初放送となるも25分もカットされた不完全版であった。

故に本作品は「幻の作品」として不当な扱いを受けてきたが
2013年1月スティングレイ社より日本国内正規品のDVDがリリースされ
ようやく「幻の作品」という不本意な肩書が取れた次第。

やあ長い前置きとなったが,ようやく作品内容に触れることが出来る。

本作品は現代における馬をバイクに置きかえた
「騎士道」探求の物語である。
各地を転々と移動しながら、バイクによる曲乗りを披露し、様々な手作りグッズを販売している集団。

傍から見れば旅芸人やサーカスの「興行」そのものなのだが
「王」であるビリー(エド・ハリス)はそう考えてはおらず
求道者として「騎士道」を極め,
人々の心から忘れ去られた「騎士道精神」を人々に知らしめるために
より危険な,より命懸けのバイクアクションを追求している。
カネの問題など二の次,三の次なのだ。

しかし「騎士団」やスタッフたちから見れば
ビリーの行為は狂気としか思えない。

興行が終わってビリーに少年が雑誌へのサインを求める。
ビリーがその雑誌を見るとバイクの曲芸雑誌。
途端にビリーはつむじを曲げ,サインを曲芸雑誌に書く事を拒絶する。
そこにトム・サヴィーニが割って入り
「俺のサインの方が将来値打ちが出るぜ!」
とにこやかにサインする。
周囲の人々の
「また始まった…」
ってウンザリした表情をじっくりと映す。

そんなときビリーたちの「興行」が,
とあるテレビ局のプロデューサーの目に留まり
自分たちと専属契約を結べば
いい暮らしと相応の報酬が得られると持ちかけてきた。

最近のビリーの態度に不満を持っていた一団は
ビリーから離反し「騎士団」の結束に亀裂が生じ始める。

ビリーは最近悪夢に魘されている。
彼の王位を脅かす「カラス」の夢。
そして霧の中からビリーの前に
双頭のカラスの紋章を鎧に刻んだ挑戦者が現れるのであった…。

本作品の最大の見所はエド・ハリスの鬼気迫る演技である。
スターとなる人間には,ただ立っているだけで「オーラ」が生じるものだが
彼の全身から眩いばかりのオーラが発生して何者をも寄せ付けない。
「王」としての求道者しての役割を
自分なりに咀嚼して演技を超えた演技を堪能できる。

本作品の第2の見所は「ロメロ・ファミリー」総出演の「顔ぶれ」だ。
トム・サヴィーニ(ゾンビ(略奪者)),ケン・フォリー(ゾンビ(ピーター)),
スコット・H・ライニガー(ゾンビ(ロジャー)),
ジェームズ・A・バフィコ(ゾンビ(ウーリー)),
ハロルド・ウェイン・ジョーンズ(ザ・クレイジーズ(クランク)),
クリスティーン・フォレスト(当時のロメロ夫人),
スティーヴン・キング(作家兼ロメロ監督の盟友),
タバサ・キング(キング夫人)
等々,枚挙に暇がない。

本作品の第3の見所は「マスター・オブ・ホラー」と呼ばれた
ロメロ監督の当時の心境が本作品に色濃く反映されている点だ。

「ゾンビ」(1978年)の世界的大ヒットで
本人が望めば幾らでもメジャーを目指せるのに
決して「それ」を目指さない反骨精神と求道者ぶりが
ビリーという「孤高の王」を生んだのだ。

そのロメロ監督の「言葉にならない声」をエド・ハリスは敏感に感じ取り100点満点の試験で200点取る演技力を発揮するという離れ業を見せたのだ。

音声解説の
「エド…彼は本当にいいよね…」
とサヴィーニに向かって嘆息する
監督の真情がもうね…堪らないのである。

本作品には実に多くの歌が登場するが一番印象に残る歌の歌詞を書いて
本レビューの「締め」としたい。
「孤高の王」(=ロメロ監督=ビリー)の心情を
最もよく現わしてるからである。

「ハリケーンの中で死んでもいい…嵐を知らずに死ぬよりも」

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