川島のりかず先生の「フランケンシュタインの男」レビュー「「俺は何時だって原点を見失ってない」と言う川島先生の自負心に感激しました」。
鉄の様な雄(オス)になる様,願いを込めて名付けられた鉄雄少年は,
その名に反してチビで瘦せっぽちで,
いじめっ子3人組にいつも殴られて家に帰れば,両親から
「強くあれ,逞しくあれ,この弱虫が!」
と発破をかけられている。
そんなある日彼は海岸で体が弱く杖の補助なしでは
歩くこともままならない社長令嬢綺理子と出会う。
彼は彼女の体の弱さに挫けない強い心に惹かれ,
彼女が憎い相手を次々と殺す
フランケンシュタインの怪物に熱狂しているのを知るや,
3日かけて怪物の仮面を作り,彼女の気を引こうとする。
彼女は彼が「鉄雄」を捨てて
彼女の命令に従う「怪物」となる事を望み,彼は了承する。
とは言え例え恐ろしい怪物の仮面を被っていても,
中身は弱虫のままなので公園の砂場で遊ぶ幼児達を
脅かして泣かす事しか出来ない体たらくで,
いじめっ子と対峙するとからきし意気地がない。
彼女はいじめっ子の父親が
彼女の父親が経営する会社に勤めている事をタテに脅し,
仮面を被った彼に彼女が普段縋っている杖で何度も打擲させ,
彼に声援を送り,遂にふたりでいじめっ子を撃退するのであった。
彼は自分が
「フランケンシュタインの少年」から「フランケンシュタインの男」へと,
両親が望む雄(オス)へと「変身」を遂げたように感じ,
甘美と歓喜の世界に陶酔する。
だから彼女に他の友達が出来て「フランケンごっこ」をやらなくなると,
途端に元のひ弱な少年に戻された様な焦燥を感じるのであった。
その焦燥が彼女との蜜月の終わりの始まりだったのである…。
両親は彼に強く逞しくあれと望んだが,
彼が「男」に「変身」するには強い女からの励ましの声が必要で,
それは彼が大人になっても変わらず,
強いカリスマ性を持った女社長に綺理子の姿を重ね,
(女社長と綺理子には顔の同じ位置にホクロがある!)
入社以来10年間女社長が死ぬまで依存し続ける羽目となる。
女社長が死んでからは酒浸りの日々を送り,
「男」でも何でもない「のっぺらぼう」と化し,
遂には綺理子の幻に突き動かされ,
独りで「フランケンごっこ」を再開する件は圧巻である。
鉄雄の母も妻も彼を子供扱いし,馬鹿にしてる描写が,
いい年こいて昔のヒーロー特撮にハマっている僕の心に突き刺さって痛む。
でもね。彼が残業して夜遅く帰ると妻は独りで寿司の出前を取って食べて,
さっさと寝ている描写に,心が痛まない男性諸氏はいないと思うんだ…。
結局彼は「少年」のまま成長出来ず「男」になれなかったと思う。
そんな彼がフランケンシュタインの怪物の仮面を被って
「ごっこ遊び」をしてる間だけ,綺理子や群衆の幻が
「フランケン!フランケン!!」
と彼にエールを送り,その瞬間だけ彼は
「フランケンシュタインの少年」から「フランケンシュタインの男」に
なれるって描写が,
彼の魂は少年時代のあの夏の日から1ミリも前進しておらず,
微塵も成長してない描写が,
「俺は何時だってガキの頃からやり直せる」
「俺は何時だって原点を見失ってない」
と言う川島のりかず氏の自負心・自画像の様に思えるのだ。
SNSに綺理子や少年のファンアートが並ぶのも現代の書評ならでは。
もっともっと多くの方に読んで欲しい漫画だ。
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