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『アートに出会うショートトリップ』あさひの芸術祭 あさげー その1(刑部岬エリア) 

 千葉県の東の端の端。JR総武本線の旭駅から飯岡駅周辺をちょっと歩くと、あさひの芸術祭の旗が風にはためいている。ガイドブックを見ると、17ヵ所ある。
 町中にアートが点在するので、最初は歩こうかと思ったが、かなり健脚でなければ回れそうにないので、車で回ることにする。自転車が一番良いかもしれない。
 美術館で見るアートとは違って、神社、介護施設、駅前の展示スペース、元しょうゆ工場跡、ホテルの展示スペースなど様々なところに点在していて、場所によっては在廊しているアーティストに会える。

 最初に、どこかの会場でガイドブックを手に入れる。先日のオープニングの竜王祭は雨だったが、水をつかさどる竜神様が雨を呼んだのかもしれない。
 海風が気持ちよく、今日は旅日和だ。さて、どこから行こうかと地図とアートに出会える場所を確認する。

1.海津見神社

 漁港からほど近い、海津見神社の竜神様にご挨拶しながら、境内にひっそりと飾られている「ドガミシモ」という男女一対の小さなひな人形に出会う。これは、飯岡地区に古くから伝わる裃姿の土人形。2011年の震災で型が流されてしまい、一時は制作できない状況になったが、それを復刻したものだ。
 素朴な小さな人形が、緑に囲まれた小さな神社の風景に溶け込む。神社の入口にある小さなハニワたちがとてもかわいいが、これも魔除けの役割をしているのかもしれない。竜神様に一礼して、飯岡灯台を目指す。

海津見神社
飯岡土人形
神社入口にある埴輪たち

2.上永井公園&展望館 

 丘を登っていくと、刑部岬にたどり着く。天気が良いと、足元の飯岡からずっと続く九十九里浜を見渡すことができる。岬からは、遠く水平線が見えて、2011年の津波の様子が思い出される。この公園には、瀬島匠氏のジープギャラリーと、展望館でHappyといろ細田崇之氏の大きな作品「あさひで生きる」という強いメッセージの作品が待ち受ける。
 展望館2Fの窓から長く続く九十九里浜と、震災当時の様子の写真があり12年前の様子を知ることができる。無くしたもの、復興したもの、広い海の彼方から登る太陽のように、作品が心に迫る。

3.陶芸ギャラリー海音

 灯台を後にし、また町に降りて、狭い道をくねくねと町中を走ると、次の目的地の陶芸ギャラリー海音に到着。引き戸をガラガラと開けると、陶器のスピーカーが目に飛び込んでくる。しばらく店内を見ていると、道路の向こうからオーナーの近藤寧氏がやってきた。
 陶芸家であり、工業デザイナーである近藤氏の、地元粘土を原料とした屏風ヶ浦陶器スピーカーの音を聞かせてもらった。通常アンプと、真空管アンプとの音の聴き比べもできる。素晴らしく美しく流れ出る音を浴びながら、陶器作品を見せてもらう。欲しい気持ちをぐっと抑えて、ギャラリーをあとにする。

陶器のスピーカーの音と真空管アンプの組み合わせも

4.仮設住宅

 陶芸ギャラリー海音を出て、海岸線を走ると、右側に震災当時の仮設住宅がぽつんと見える。震災遺構として残されている建物だ。ここでは、あさひの芸術祭実行委員会代表でもあるモンゴルマン斉藤俊一氏の絵画を見ることができる。入口を入って、2DKの仮設住宅の当時の生活を想像しながら、モンゴルマン氏の力強いタッチの作品が目に飛び込んでくる。一瞬にして心を掴まれた、そんな感じがした。


仮設住宅で出会ったモンゴルマン氏の迫力のある絵画

5.潮騒ふれあい広場

 仮設住宅を出て、海岸に向かうと、潮騒ふれあい広場にたどり着く。
潮騒ふれあい広場の海岸防波堤には、「竜王絵巻」が描かれている。このあたりは、東日本大震災当時、甚大な津波被害を受けた地区。その後、防波堤が高くなったが、この海岸沿いに見えていた海や夕日が見えにくくなった。 
 すずきらな氏と市内の小学生100名で作成された、100mに及ぶ大きな作品。今にも飛び出して来そうな竜が、出迎えてくれる。竜を見に来ると、やはり雨を呼ぶのか、この日も雨だった。竜王の不思議な力を感じる。

堤防の後ろは海。今にも竜王が堤防から飛び出てきそうだ

6.いいおか潮騒ホテル

 潮騒ふれあい広場の駐車場には雨の中、サーファーの人々が早々に海から上がってきた。寒いだろうなと思いつつ、横断歩道を渡ると、いいおか潮騒ホテル。ここでは、あさげースタンプラリーのスタンプが3個獲得できる貴重な場所。4名のアーティストの作品を見ることができる。
 矢野華風氏の美しく繊細なアート書道と、飯泉あやめ氏の色彩豊かでダイナミックな、まるで色の爆発を感じるような絵画が目に飛び込んでくる。
 ホテルの大浴場の入口をやり過ごして、細い通路を奥にたどり着くと、スリット木画の大西忠氏の、まるでだまし絵のようなユニークな作品が並ぶ。スリットの幅によって、木画の雰囲気もずいぶん変わる。
 写真があれば、木画を作成してもらえるのかと聞くと、できますよ、と言う。もしかしたら妹が大切にしている老犬の木画をお願いする機会があるかもしれない。先生の連絡先をいただき、他の作品に目を移す。
 そして、取り囲むように阿部秀三郎氏の版画が並ぶ。滝や川、山、雄大な自然の風景に、またどこか旅に出かけたくなった。

岬に近いエリアをあとに、アートの旅は続く。(その2 海上エリアへ続く)

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