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「壁にガムテープ」眠れぬ夜の奇妙なアンソロジー第32集

(例によって校正前です。至らない点が多くあるような気も致しますが、投票の締切が間も無い関係で、暫定的に記事を公開しております。お叱りお受け致しますので、お気づきの点はご指摘下さい。)

今年の正月は単なる三連休でしょ?と油断していたら、正月三日って休みの密度が普段と異なりますね。何をやっても免責。何を食べてもカロリーゼロ。世事諸々忘れてすっかり正月を満喫致しました!
ええ、アンソロジーの編集が遅れた事の言い訳でございます。読者アンケートの締切も間近ですがすみません…。

そして、この度もまとまりました眠れぬ夜の奇妙なアンソロジー第32集。テーマは「壁にガムテープ」で御座います。

「壁にガムテープ」なんてテーマに決まってもネムキ一派の人々は苦労しながら創作に励みそうな事を考えると愉快ですよね…と決定前に某様が言った通り、各々ご参加者様たちが苦心して「ガムテープ」芸術を模索した一ヶ月で御座いました。
大晦日の締切ラッシュは間に合って胸を撫で下ろした方もおり、間に合わず悲鳴を上げた方もおり。ドラマ溢れる狂詩曲となりました。

それでは当月もアンソロジー開幕でございます。よろしくお願い致します。

目次

01GIF 「悪魔召喚」y.
02音楽「サンディ」深夜の郵便配達員
03即興劇「壁にガムテープ」数理落語家 自然対数乃亭吟遊
04イラスト「数え歌」トノム
05小説「常闇六花、白陽六花」水浦詞葉
06エッセイ「ことりの夜の奇妙なアンソロジー」ことり隊長
07エッセイ「壁にガムテープ」磯貝剛
08小説「銀のチャームとガムテープ」海亀湾館長
09小説「Miharu a Barbora, třešně, tajné symboly  [ミハルとバルボラ、さくらんぼ、秘密の記号]」りりかる
10エッセイ「壁にガムテープ」平沢たゆ
11小説「ガムテープを貼る」くにん
12エッセイ「魔術とは」ことり隊長
13小説「あそこからでてくる」千本松由季
14小説「湯島地下」虎馬鹿子
15小説「Sipka3000」ムラサキ
16音楽「カーテンが揺れている」あこぎてつお

眠れぬ夜の奇妙なアンソロジーはこちらから。

解題

01GIF「悪魔召喚」y.

GIFの魔術師y.さんです。当初から「壁にガムテープ」のテーマを推していただけあっていつも以上に気合いが入っております。今回はとにかくギミックが多い!白衣のアルケミストが背後の壁にガムテープの六芒星を敷設すると召喚されるのは干支!丑!モーとばかりにハッビーニューイヤー!となるべく所をモナリザに阻止されて、明けぬ年末、明けぬ夜。永遠の大晦日、除夜の鐘。鳴っても鳴っても消えぬ煩悩。

煩悩とは執着。これを読み替えれば「夢」です。宝物の詰まったおもちゃ箱のようなものです。
永遠の夜に尽きぬ煩悩。結構な事じゃありませんか。

夢と煩悩でいっぱいの堂々巡りのドグラ・マグラが開幕しますよ。

02音楽「サンディ」深夜の郵便配達員

深夜の郵便配達員さんの最高に格好良いガレージロック。歌詞中のSundy(sandie)は女の子の名前です。サンディ繋がりでSundayについて雑感を少々。今の若い方は知らないでしょうが、昔は土曜日は半ドンだったので、正味一週間の休みといえば日曜日だけでした。私の人生の中で週休二日制になったのは何時の事だったか覚えておりませんが、隔週週休二日が導入されて、完全週休二日に移行になる、という話を聞いて夢のような話だなと思った記憶があります。そんなに休みが多くて、どうやって時間を潰すんだろうと。いま考えれば休日の時間の過ごし方が分からないとはすっかり学制の奴隷でしたね。
ある程度の年代から上は「Sunday」という言葉にはSaturdayにはない憧憬があるように思います。

03即興劇「壁にガムテープ」自然対数乃亭吟遊

自然対数乃亭吟遊さんとりょうちんさんによる即興劇。吟遊さんは今回初参加です。こんなnote辺境の零細企画をよく見付けましたね!ご参加ありがとうございます!
前回のアンソロジー「魔術」の時にMaybeCucumbersのエツさん、コセさん達によるリレー小説をご紹介致しましたが、今回の吟遊さんたちの即興劇も同種の楽しさがあります。パスを回しながら話が飛躍してボールが何処に転がるか分かりません。個と個が輻輳して糸を撚るような。無から有の生まれるような。自然の織り成した砂丘の風紋のような。即興劇は偶然から生まれる産物ですが、吟遊さんらの経験や技能が活きております。「壁にガムテープ」というフレーズから次第次第に物語が紡がれる。やり直しがきかない緊張があるように思いますが、吟遊さんたちはほのぼのと楽しんでおられるのがまた良いですね。

04 イラスト「数え歌」トノム


数多くの抽象画で人気を博すトノムさん。トノムさんの抽象画は暗喩的でありながら、何処かに牧歌を感じさせます。
この数え歌という作品も、ミロが描くサーカスのように黒から飛び出す色彩がダンスしています。
色彩が生み出される奈落の黒は深く何処までも続く闇。
華やぎと暗さが対比的で、それが今回のテーマの持つ「光と影」に似合っております。

05小説「常闇六花、白陽六花」水浦詞葉

水浦さんの本作品は運河を渡るゴンドリエーレの物語。日々、水門によって姿を変える廃市の運河。さながら迷宮です。水上に暮らすことは優雅ですね。
ここにも光と影の対比があって11月の陽光は水面に照り返して光の花を咲かせ、その水底には同じ形をした影の花を咲かせます。
美しい光景です。

06エッセイ「ことりの夜の奇妙なアンソロジー」ことり隊長

真打の登場で御座います。
「壁にガムテープ」の代名詞、ことり隊長です。本アンソロジーをご覧になる方には説明は不要かと思いますが、まずは簡単にことり隊長のプロフィールを僭越ながら説明したいと思います。
ことり隊長は名古屋大須にあるアクセサリー・セレクトショップ「Sipka」のオーナー、店長様で御座います。
「Sipka」は全国各地の美術家と提携し、ビザールな作品を取り扱う事でnoteやTwitter闇属性の住人たちから熱烈な指示を受ける知る人ぞ知る名店。
そのオーナーたることり隊長は仕事量膨大で店内に寝泊まりする事もしばしば。暗黒美術ひしめく店内の床の上に転がって眠る、寝転びながらおもちゃで遊ぶとファニーな奇行、或いは多忙の中で産み落とされる数多くのファニーなキャラクター(自身のアバターである「ことり隊長」、「ネコちゃん」など)も本人のコケティッシュな魅力として多くのユーザーから愛される要素となっております。
今回のアンソロジーテーマ「壁にガムテープ」は言わばことり隊長の代名詞。アンソロジーの大半がことり隊長、Sipkaへのオマージュ回になるという奇天烈な状況を生んでおります。
そのことり隊長が本アンソロジーのテーマ決定に寄せた思いが「壁ガム」の歴史と共に記事になりました。「壁ガム」に馴染みの無い方は本記事からご覧になることをオススメ致します。

07エッセイ「壁にガムテープ」磯貝剛

磯貝さんの先年のヒット小説「箱」は、其れを愛するnoteuserたちによる派生作品が生み出されております。konekoさんの英訳版。りりかるさんの朗読版。りりかるさんの朗読版をkonekoさんが動画化したYouTube版。既にnoteの枠を越えて世界に向けて拡散の最中で御座います。
と、冒頭で「箱」派生について触れた本記事はことり隊長の実生活上の友人でもある磯貝さんからことり隊長への激励文、またはラブレターとも位置付けられる記事となっております。
美術作家でもある磯貝さんは美術界への造詣も深く、今回語られたのは2019年12月にマイアミで開催された美術展覧会「アートバーゼル」で起こったバナナ事件。本事件については私もこの記事で初めて知りましたが、嘘のような本当の話。「壁にガムテープ」のテーマにピッタリの含蓄深い記事となっております。ことり隊長とは無縁に思える事例を引用しながらことり隊長への愛に満ちるのはお二人のご関係の深さが成せる御業といえます。

08小説「銀のチャームとガムテープ」海亀湾館長

バーに訪れた見知らぬ客。人懐こく魅力的な御仁が起こすミニマルな物語。まさか、こんな展開になるとは。と読んだ方が不思議な読後感に浸ること請け合いです。このような作品は私が野暮な解説をするよりも読んだ方が良いですね。ディケンズのクリスマスカロルのように、或いは冬の夜に飲むホットウイスキーのように心に暖かな灯の点るお話です。

09小説「Miharu a Barbora, třešně, tajné symboly  [ミハルとバルボラ、さくらんぼ、秘密の記号]」りりかる

磯貝さんの「箱」を朗読中のりりかるさんが、今回書いたのは壁にガムテープを貼りながら「名古屋大須にアクセサリー・セレクトショップを開店準備している青年」と「その開店を手伝っている友人の美術作家」によるボーイズラブ。おや、このお二人は何処かで耳にしたような。
でも冒頭に実在の人物とは関係ない、とあるので屹度、気の所為ですね。ことり隊長、磯貝さんは皆様から愛されておいでです。

10エッセイ「壁にガムテープ」平沢たゆ

建物というものは空洞を空洞で囲って出来ておりまして。壁の向こうは暗黒の空洞世界となっております。電気コードや水道管が走っております。
ですから壁と言われるものは単なる石膏ボード若しくは壁紙を貼ったベニヤ板。多くが壁とは名ばかりの偽壁です。

壁の強度を過信すると難なく穴が開きますので、まだ不測の壁穴の洗礼を受けていない方はご用心下さい。男子にとってはそんなお話ですが、たゆさんは「壁を破壊された」側のお立場。男女の違いはこんな所にも現れます。

11小説「ガムテープを貼る」くにん

世界の平和を守るのか、はたまたうっかり破滅に導くのか紙一重のガムテープ六巻衆。その一人「不動の守護神」くにんさんです。
真っ白な空隙に一本のガムテープ。それを足場に別れたる三人格。その協議。やがてその周囲に世界は作られて、出来上がったものは。
物語を作るという事はまっさらの白紙から始まって、白紙の上に世界が誕生します。どのような世界を描くのか、現実に近似するも乖離するも其れは全くの自由。物語を作ろうとする時はまずその白紙の無辺に圧倒されます。曰く創作とはなんて大変なんだ。

しかしながら無辺の空白に独り立ち、新たな世界を作ろうとする事は我々の「人生」そのものでもあります。私たちは惰性で生きておりますので、日頃は意識しませんが、実は一刻一秒を無限の選択肢に対峙しながら生きている。私たちの一寸先は白紙の無辺が広がっております。
ことり隊長をはじめnoteには独立起業をなさっている方が多くおりますが、皆様が行っている経営とは正に白紙の無辺に世界を作る行為であって、それこそが真の創作、真の芸術と呼ぶべきものであると私は思います。(私は平々凡々の万年サラリーマンでございますので、偏に眩しい世界です。)

12エッセイ「魔術とは」ことり隊長

先月のアンソロジー「魔術」のためにことり隊長が書き下ろした記事です。既にこの時には「次回アンソロジー」のテーマ候補にはことり隊長の冠である「壁にガムテープ」が示唆されており、本企画界隈では「もしか」と「まさか」の対流渦巻く世相でございました。その世相を反映して記事後半に「壁にガムテープ」のフレーズが連呼されます。波乱前夜の緊張感が現れた記事と言えましょう。前出のことり隊長の記事と併せてお楽しみ下さい。
記事の内容は名古屋の安寧はSipkaが鎮守しているかもしれない、という壮大なもの。一見して狂者の戯言ですが、「名古屋の暗黒」Sipkaなら本当に?とあながち虚言とも言いきれない何かを感じさせる内容です。もしかしたら大江戸魔法陣のような知られざるレイラインが名古屋にもあるのかも、と記事を読んだ後に地図アプリで名古屋のパワースポットを検索しながら大名古屋魔法陣探しがマイブームとなっておりました。

13小説「あそこからでてくる」千本松由季

BL偏重の千本松さんが、珍しくBLではない性愛を描いた作品で千本松さん曰く「男性に贈るエロい作品」とのこと。作中に膣から精液を零さないように内腿を閉じる、という描写があって昨今の千本松さんには無い価値観だなあと思いながら読みました。その他本作品にはこれまでにない新奇の特徴があるのですが、物語の中枢に触れる部分でもありますので、この場では割愛。千本松さんの新たな世界が拓けた作品であると思います。詳細は読後にコメント欄をご参照下さいませ。

14小説「湯島地下」虎馬鹿子

虎馬さんと云えば、本企画に参加された際には高確率で互選に入賞する梁山泊の一人でありますが、描かれた世界観は現実に近似しながらも危うげな歪みを孕んでおり、時に読者を困惑させるその歪曲、違和感こそが虎馬作品の魅力であると思われます。
湯島の坂道を登り下りし、着いた所は闇堕ちの地下バー。壁から湧いた温泉が足湯となっております。真っ暗な地下バーで足湯?如何ですかこの設定。この違和感。この魅力。自己同一性を揺さぶられませんか?
写真家ロラン・バルトはこの「魅力ある違和感」の事を「プンクトゥム」と呼びました。バルトは著書「明るい部屋」の中で芸術作品の美徳を模範的な美であるストゥディウムと慮外の美であるプンクトゥムに分けております。如何にも優等生で模範解答的なストゥディウムに魅力は感じない。バルト自身の追求する美は深遠なるプンクトゥムである、とそんな事が語られております。
(プンクトゥムの解説はネットの至る所でされておりますが端的に言うなれば幸福そうな花嫁の写真がストゥディウム的な美。無表情の花嫁写真がプンクトゥム的な美、と云った所でしょうか。幸福である筈の花嫁が何故無表情であるのか。如何なる物語が隠されているのか。グッと心臓に来ませんか?)
衒学を弄しつつ、虎馬作品にある不穏さはまさにこのプンクトゥムだなあ、と思った次第です。

15小説「Sipka3000」ムラサキ

私。
長いので最後に持ってきました。皇紀3000年の名古屋シティが舞台です。皇紀3000年は今から約300年後に当たります。
300年後の未来と人類の進化を考えた時に、人類が生身の脳髄に固辞する限り進化には限界がある筈だから、300年のうちに人類は生命倫理の壁を乗り越えて人体改造フリーのトランスヒューマン時代が来るに違いない。その時、人間に取り付けられる機械は自己修復力のある有機的構造で、人間に寄生して機能する肉であるに違いない。と肉科学が興隆するSF世界です。因みに肉科学時代の家電品は心臓があって生きているし、自分で餌を捕食します。壊れても二三日休めば治ります。電力で動かないのでエネルギー問題も解決しています。この時代の人間は脳髄の拡張デバイスが取り付けられるので、物忘れの心配もありません。

16音楽「カーテンが揺れている」あこぎてつお
クリエイターの一生には一度ならず奇跡が起こり、神業としか言えない名作が誕生したり致します。
てつおさんの本作品を聴いた時に私はそのような奇跡を感じました。こんな素晴らしい曲は事件とでも言うより他ない。
私の世代には懐かしいブルーハーツ的なパンクバラッド。歌詞の内容はとにかくカーテンが揺れている。てつおさんの解説にもありましたが、人間には膝を抱えて揺れるカーテンを眺める事しかできない虚無的な季節に陥る事があります。気詰まりの焦燥と苦悩。ぐう、格好良い。

ことり隊長さんがSipka開店当時の事を回顧した記事があって、終電を逃してSipkaで(いつものように)夜を明かすことになり、床に転がって天井を見ていた。とそんな記事がありました。人生に真摯に向き合おうとする時に人間が見るものは天井や揺れるカーテン、或いは壁に貼られたガムテープだったりするのでしょう。そこに自分の生きてきた今までと、これから生きる道程がぼんやりと見えるもの
なのかもしれません。不遇でも不幸でも、前に進もうとする人間は光り輝いて見えるもの。
今回のアンソロジーはことり隊長と共に完成せられるものとなりましたが、ことり隊長が多くの方から愛されるのは隊長に不撓不屈の輝きを感じるからかもしれません。

本アンソロジーの解題はこれで終了です。今回はいつものアンソロジーと趣を変えて、自薦作品中心にまとめています。
Sipkaとことり隊長様。それを取り巻く皆様に惜しみなく愛を。

アンソロジーはこちらから

読者アンケート

読者アンケートです!締切は間もないですけれど1月11日月曜日の18時です!私の自堕落で酒浸りな正月の皺寄せが此処に来ております。申し訳ございません。関係各位に陳謝致します。
ことり隊長の記事はふたつあるのでひとつにまとめてありますよ。

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次回テーマの投票

そして次回第33集のテーマ投票です。こちらも締切は1月11日です。

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#ことり隊長 #Sipka #名古屋 #眠れぬ夜の奇妙なアンソロジー #ネムキリスペクト

ところで。
冒頭y.さんの記事中にも言及されているように、私の敬愛して止まないウネリテンパ氏が大晦日まで本アンソロジー用の原稿を書いていた筈なのですが、(締切間際のTwitterが大変愉快です)元旦以降音沙汰が無くなっております。大変な力作が途中まで書かれていたと思うのですが。落ちましたね。
アンソロジーの事はともかく氏も愉快な正月を過ごしていれば良いのですが。

あと、流れ的にやはり敬愛する「エース」民話ブログ氏も本アンソロジー用の作品を書いていたような気も致しますが、最近はTwitterの更新も不穏な空気のまま途絶えており、やはり愉快な正月を過ごせていれば良いのですが。

私は正月中、呑んだり寝たり、寝たり呑んだりしておりましたが、氏や氏や皆様と呑むような楽しい夢想をしておりました。夢が繋がっていると良いですね。

あ。

あ。

落とすと云えば、同時進行で進んでいた筈の、年末年始企画がすっかり放置されておりました。

本当は年末締切でしたが、参加者様がもう少し集まって欲しいので、募集期間を延長します。