「自分」という光を手にするまでの物語 ー川上未映子『すべて真夜中の恋人たち』ー
「自分」のない主人公・入江冬子
物語の主人公は、フリーの校閲者として働く30代女性の入江冬子だ。小さな出版社で働いていた彼女は、会社の人間関係に馴染むことができず退社し、その後フリーとして仕事を始める。
そんな彼女の性格は、小説の中でこのように書かれている。
【・・・】わたしはいつもよくわからなかったのだ。何をどう楽しんでいいのか。断りたい仕事があっても、それをどんな風に断るのが正しいのか。考えれば考えるほど、最後にはいつも自分の気持ちのようなものがわか