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大好きなサンさん

ニューヨーク、朝6時。スマホの着信音で目が覚めた。いつも熊本でライブをやってるカフェの店主の飯田さんだ。

嫌な予感がした。僕のとっても大好きでとっても尊敬する大切な人が交通事故で亡くなった知らせだった。

僕が日本にいた時、全国をライブでまわる中で、熊本でライブをするのがとても楽しみだった。いつも僕のライブのオープニングアクトでバイオリンを弾いてくれる"サン村田"というおじいちゃんがいる。サンさんは83歳。彼に会うのが熊本にいく楽しみだった。彼はいつもかっこいいベレー帽をかぶり、バイオリンを弾く。僕が、そのベレー帽かっこいいですね、と言うと「おれハゲなんだよ、髪が3本しかなくて3000円の理容室だから俺の髪、1本、1000円なんだよー」と言ってくる。

いつも前説で、バイオリンを弾き終わったら客席に座り、俺のネタ見ては大笑いしてくれる。だけどライブの時間が長すぎるとぐったりしてる笑

僕のネタの中で"アルツハイマー"の話がある。それが鉄板なのでライブでよくやるんだけど、サンさんは毎回おれのライブ見てくれるから彼にはオチがバレてる。だからライブ中に目の前にいる彼に「サンさん、このネタのオチ知ってるでしょ!なんかやりにくいわ笑」って言ったら「大丈夫だよ、おれアルツハイマーだから毎回忘れてるよ」と返して客席の笑いを全部かっさらっていった。

東京の読売ホールで1000人の前で独演会をやった時、前説でバイオリンを弾いてもらおうと熊本から来てもらった。一言話したいって言うからなんだろうと思ったら「若者は恋に溺れ老人は風呂で溺れる」って1000人の前で漫談をやり出した。「あなたみてたら俺もやりたくなったんだよ」だって。おれが女の子に振られた時、村田さんに相談したら「わかるよ、不思議だよな、振った女の子のことはすぐに忘れるのに、振られた女の子のことはずっと引きずるよな、俺もそうだよ」って。あの時は救われたな。サンさんはいつも「日本は権威主義すぎるよーどこどこで働いてるとかどこの大学でたとか、どうだっていいじゃないか」と言う。でも俺に誰かを紹介する時は「村本さん、彼ね、ハーバード卒なんだよすごい人なんだ」と言ってくる。サンさんは品があってユーモアがあってどこかヤンチャな匂いもしてて、けどツッコミどころもたくさんあって、なんだから居心地がいい。

僕がサンさんの好きなところ。それはよく会話の中で彼は「僕の将来の夢はねー」って言う。

冗談ではなく本気で。83歳が将来の夢を語る。サンさんには彼女がいる。彼は若い時に日本が嫌でアメリカに飛び出して、そこからずっとカナダのトロントで暮らしていた。ここ何年か前に、たまたま旅で立ち寄ったこの熊本でこの彼女に一目惚れし、恋に落ち、熊本に移り住んだ。いつもライブ終わりの帰りにサンさんが彼女の小出さんの手を強くギュッと握って「いいじゃない、一緒に帰ろうよ」と自分のところに強引に彼女を寄せる。いつもそんな二人の帰っていく姿をみるのが好きだった。

83歳の彼は夜中0時過ぎても僕たちと一緒にワインを飲み、自分より40以上年下の人たちに一切、偉ぶらず、何かを無理やり教えようともせず、みんなの話を真剣に聞き、否定もせず、いつも自由でいいんだよ、あなたは素晴らしいよって、言葉をくれて、みんなの心を楽にしてくれた。会計の時だって、僕が奢ろうとしても絶対断って、友達でいるためにちゃんと割ろうよ、と対等でいさせてくれる。サンさんが言ってた「手と心は繋がってる、手を使って仕事をする人の作品にはその人の心が出てる」と教えてくれた。だから彼の絵も、彼のバイオリンの音もとても優しい。彼そのものだ。しかし彼女の手を握る時はとても強いけど笑

サンさんはもういない。もうライブが始まる前、熊本のライブをしてたカフェTsukimiの階段を上がる時に店の中から聴こえてくるあのバイオリンの音は聴こえない。日本に帰った時に楽しみにしてたんだ、階段の下から聞こえてくるバイオリンの音。

サンさんは、黒田征太郎さんというアーティストと本を出版する予定だったらしく帯を書かせてもらっていた。

「僕は日本の政治家をみて歳をとることの醜さを知りサン村田、黒田征太郎のような芸術家をみて歳をとることの美しさを知った」と書いた、歳をとったものが権力にしがみ続けてる。高齢者が深夜までタクシー運転手として、工事現場や、コンビニで、働かされ続け、それはその人が頑張ってこなかったからと冷たい言葉を放たれる、歳をとれば何かするたびに老害だ、と言葉を浴びせられる。若い人だって悪いことしてるのに。

僕らは子供の頃にかっこいい大人を見て俺もこんな大人になりたい、早く大人になりたいと言う。でも大人になった後、そこから年老いていて高齢者になることは不安しかないこの日本で、僕はあなたを見てると僕も早く歳をとってあなたのような品や知性があってユーモアがあって優しい人になりたいって思えるんだ。

彼はいつもバイオリンを弾く、美しい絵を描く、恋をしてのめり込む。孫ほどの歳の離れた人たちと夜中までワインを飲む。彼は自由に暮らす、彼の魂は生き続ける、彼は人間らしくてかっこいい。歳をとることに希望をくれた僕のヒーロー、アーティスト、サン村田さん。ありがとう。

熊本での最後のライブ

彼は渡米を控えた僕に言った。

「海外行って成功しないといけないとかそんなの関係ないよ、失敗していいと思う、好きなように生きるのがいいと思う、そして自然に、なんとなく、そうなってくるよ」

安らかに サンさん。ありがとう


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