見出し画像

石畳とワインと笑いの函館の夜

函館には"カフェやまじょう"という店がある。店内は古いレコードやCD、映画のポスター、で埋め尽くされ、お世辞にもインスタ映えなどという言葉が1番似合わないような場所だ。その店と出会ったのは1年ほど前か、コロナが流行しだし、舞台を中心にやってる僕の仕事は全滅した。幸い、zoomでもライブができるから、全国どこに行ってもzoomでライブができる。

僕は北海道に行った。一人旅ってやつだ。そこで、函館に行くことにした、その理由は、函館にはとてもおいしい"枝豆のラビオリ"を食べさせてくれるイタリアン"コルツ"があると東京での仕事先の人に聞いたことがあるのでまずそこを目指して函館に行った。その枝豆のラビオリを出してくれるコルツに、その当時行き、そこの料理と、函館でワインを作ってる農楽蔵"のらくら"というワインに感動したことを覚えている。

その時は1週間ぐらいいただろうか、初めての函館の街は、なんというか、寂れた観光地ならではのダサさや、橋の方に行くと石畳の教会が立ち並ぶ、静かな、心地よい場所、いろんな顔に心を打たれる素敵な場所だった。その石畳の街を歩いていると、渋い店を見つけた。扉は開けっ放しで中は薄暗い、中を見るとテーブルには雑誌が山積みになっていて、埃っぽい、店はやってる感じでもなかったが、なんとなく、その雰囲気に惹かれ、僕はすいません、やってますか?というと、中から、おじさんが出てきて、おーやってるよ、と言った。その店がカフェやまじょうで、店の店主が"太田さん"だ。彼は函館の人たちのなかでは、有名なおじさんで、音楽と映画、函館を愛し、僕の好きな映画レニーブルースのことを、初めて会ったときに語り合ったことを覚えている。その店で以前、ライブをやらせてもらった。

店内には20人ほどしかはいるスペースはないんだけど、店のカウンターの端に、センターマイクをひとつおき、決して綺麗ではない店なんだけど、太田さんが照明を薄暗くしてくれて、オレンジ色の光をつけてくれたら、その場所は、すぐ外の夜の静かな石畳の道と相まって何か特別な場所に変わる。

やまじょうのワイングラスはとても汚れている、そこに、函館の還元ワインだ、これがうめぇんだ、と言って、安ワインだと思うんだけどそのグラスについてくれてそれを飲みながらしゃべる函館の夜は、なんとも幻想的な、僕の好きな映画の中のパリにも似たような空気を作る。僕は函館が好きだ、世界で1番美味しいパンを出すシェフもいる。フレンチのロワゾーマツナガという店だ。

函館には、もちろん、料理は全て美味しい、特にパンがおいしく、全てシェフが店で作っている。いつも函館に行く時はロワゾーマツナガで食事をさせてもらう。今回行われた独演会もロワゾーとコルツ、2つを予約しておいた。

しかし、僕がライブをする2日から北海道はまんえん防止が発令されると聞き、幸い、札幌だけになったんだけど函館の人たちを不安にさせたら申し訳ない、と、やまじょうさんもその街で、責められることになったら申し訳ないから、メールで「独演会やって大丈夫ですか?やめた方がいいですかね?」と言ったら太田さんから「おめえ、そのぐらいの覚悟なのか?お前がやりてえかどうかだ、もし万が一のことがあったら2人で責任取ったらいいだろ」と喝を入れられ、僕は、めちゃくちゃ笑わせに行きますよ、と、返事を返し、今回も函館に行った。二夜連続で函館独演会、二回とも人は、入っていた。

その中には見たような顔が。1日目はコルツのシェフが2日目はロワゾーマツナガのシェフが来てくれてて、2日目は、コルツの働いてらっしゃる方が、1日目シェフが行って絶対見た方がいいと言われてきました、と、お土産にとてもおいしいワインまで持ってきてくださってた。独演会もとても盛り上がった我ながらいい出来のいい夜だった。終わりでロワゾーのシェフたちと、カフェやまじょうの外の石畳の上にテーブルを置いて、街灯の下、ワインを飲みながら、彼のフランスでの修行時代の話を聞いた。

フランスに行ってよかったことは?と聞くと自分のやりたいことが明確にわかった。と言っていた。僕がアメリカに行く理由とリンクした。また心の中に忘れられない函館の夜の思い出がひとつできた。美味い飯とうまいワインと、人の匂いが街に染みついてる函館。いい笑い声が今夜も聞けた。また会いましょう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?