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VIP席に座らせてくれてありがとうございますと言われた日




僕がテレビに出るのは1年間でたった5分。フジテレビのTHEMANZAIという漫才番組だ。その5分の中で言いたいことを言う。しかしたった5分だ。おれが普段独演会は45分から90分、長いときは120分しゃべる。テレビはそれを5分にする。おれはよくそれを船に例える。120分の大船ならばいろんなやつを載せてる、でも5分は小さな小さな小舟、ここに載せる人数は、限られている。選ぶ基準は今年の自分の面白いと思った、プラス、どうしても言いたいこと、の二つ。

今年は"朝鮮学校"のネタをやる予定はなかった。おれには他にも言いたいネタがたくさんあるからだ。でも収録の1ヶ月前ぐらいだったか、急遽、朝鮮学校を船に乗せることを決めた。

きっかけは神戸の朝鮮学校だ。おれは朝鮮学校が好きなわけでも在日朝鮮人が好きなわけでもない。嫌いでもなければ、好きでもない。ならなぜ行くのか、それはおれが旅をし、その街で酒を飲み、一緒に飲んで話して、ああこの人は優しくて好きだな、と思った人がたまたま在日朝鮮人でその人が困ってるからまあ力になれたらって感じだ。

在日朝鮮人のことを漫才にいれてテレビでネタにすると全国の朝鮮人の人たちからすごく感謝され一部の日本人からめちゃくちゃ嫌われる。よく在日朝鮮人の人たちが「私たちに関わるとめちゃくちゃ嫌われるのに、いつもありがとう」と言われる。「いやいやいや」とは言うけど心の中では「あなたたちに関わる前から私は嫌われてますけども」と呟いてるんだけど。。

よく「朝鮮学校に来てください」と連絡がある。いつもそれにはたまに腹が立つ時がある。交通費は?宿泊費は?なんなら、しゃべるんであれば、おれのギャラは!?と。おれは写真撮ること自体も嫌いだ、おれの仕事は舞台の上で、ファンサービスというものがあるなら、ネタを長くやることしかサービスはない。いままで朝鮮学校に行ってたのは、好きになった在日朝鮮人の人が喜ぶからだ。だから、知らない在日朝鮮人に、来てくれと言われても断る。おれはあなたを知らないし、あなたは来てきてばかりでおれのライブにこない。だから無料訪問は友達になった人以外は嫌だけどでも、ライブだったら行くよ、という。

チケット代払ってくれて、笑いを見たいならおれはどこでもいく。ある時神戸の朝鮮学校の卒業生からうちの学校に来てくれ、というので「ライブならいきますよ」と伝えた。そしたら「ライブしてください」と言われたので、神戸の朝鮮学校にライブしに行く計画を立てた。

彼は「100人は集まります」と言ってたので、おれはクレジットカードの支払いがこれでできると思って喜んでた。すると、ライブの二日前ぐらいに神戸の独演会を主催する在日朝鮮人の人から「中止にできますか?」と連絡が、理由を聞けば、学校の先生が亡くなったそうだ、それで学校がバタバタしてる、と。するとその在日朝鮮人の彼は「申し訳ないから、せめて、いくらかのお金は払う」と言ってくれた。

おれは何もしてないのに金をもらうことは罪悪感だった。その時、その罪悪感を薄める方法が見つかった。その時、おれはライブで和歌山にいた、和歌山にも朝鮮学校があるみたいで数日前からおれが和歌山にいることを知った在日朝鮮人の人たちが「和歌山の朝鮮学校に来てくれ」と言われていた。その時は、めんどくさいから断ってた。これを聞いて、えー、最低ーって思う人もいるだろうが、正直、めちゃくちゃエネルギーを使う。おれが言ったら写真撮られまくるし、子供の相手せなあかんし、知らない大人に気を遣わないといけないし、めんどくさくて断ってた。

でも神戸の在日朝鮮人の人が払ってくれるギャラの罪悪感は、彼らと同じ和歌山の在日朝鮮人の人たちを喜ばしたら、ちょっとは罪悪感も無くなるのかなと思い、和歌山の朝鮮学校に行くことにした。小さな学校だった、おれが言ったら、みんな拍手で歓迎してくれて、子供達から花束をもらったりした。コミュニケーションが苦手な僕は子供にも気を遣って人見知りを発揮する、相方のパラダイスに当時言われた、こんな子供慣れしてないやつ初めてやわ、と。そらそうだ、自分に子供もいないし、普通に友達も少ない、マイクの前で一方的に話すしかできない人間だ。それが大人やら、子供やらに囲まれて、ちやほやされる。すごく疲れるんだ、それってのは。しかも、なんか、授業とかも見学してくれと言われ、なんなら、体育の授業のドッジボールにも参加させられた。おれのお気に入りのかっこいいマルニのパンツや、誕生日に買ったプラダの皮靴は砂まみれになり、汗だくになった。そしてその学校の子供たちはおれが車で帰る最後まで、走って追いかけてきてくれて、いつも在日朝鮮人を想ってくれてありがとうーーって言われた。

そこから、東京に戻り、ザマンザイのネタ選びをしてるときにあの子供の顔がチラつくようになった。この船にのせてあげたら喜ぶんだろうな、とは思ったけど、いやおれだって、いろんな悩みとかほかにも疑問があって、今年は毎年話してる沖縄の基地の話とか、そんなのも、船に乗せ切らなかった、だから君たちだけ、特別に船に乗せるわけには行かないんだよ、と、情では乗せられない、なぜなら僕は芸人だから、そこは申し訳ないけど関係がない。面白いネタになるならいいけど、例年のように、正論をただいうだけなら、もうこの船には乗せれない。

おれがネタになるもので最高に自分が笑えるものしか乗せたくない。でも、和歌山の日から在日朝鮮人のドッジボールをしたあの子供たちを意識して、その意識はそれをネタにしてしまった。しかもなかなかいいネタになった。まあいい笑いを起こせる種になったってことだ。

だからあっという間に、彼らは船に乗船できる資格を得てしまった。そして僕はフジテレビのザマンザイでその小さな小船を出港させた。

朝鮮学校は本当に貧乏だ。無償化の対象ではないから、学校は老朽化し維持するのにすごくお金がかかるらしく、先生の給料もちゃんと払えない、おれの知ってる朝鮮学校の校長先生も、給料がほぼない。

でも校長の彼は僕の月額千円のシークレットコメディというラジオの会員になってくれてる。金がないのに。その校長から、ザマンザイ終わりにメールが来た。「VIP席に乗せてくれてありがとうございます」と。なんのことですか?というと、彼は船の話をした。おれがラジオで「船に乗せる人数決まってるから誰乗せるか、考えてるんですよ」というのを聞いていたんだろう。

その彼が「VIP席に乗せてくれてありがとうございます」と。オンエアされて、また知らない在日朝鮮人たちからありがとうと沢山のコメントがきた。お礼ならば神戸の朝鮮学校でライブを開こうとしたけど中止になったのにギャラを支払ってくれた彼と、不覚にも可愛いと思わせたあの和歌山の朝鮮学校に通ってるドッジボールをした子供たちと、街宣車やスポンサーにクレームがくるからもしれないリスキーなネタなのにオンエアしてくれたザマンザイを作ってるスタッフと、何も言わずに好きなネタをやらせてくれてるおれの相方に言ってくれ。

そしてよかったら90分のライブを3月6日東京の読売ホールでやる、日本でやるとりあえずは最後の大きい会場のライブだ。大きな船に乗ってる他のネタも笑えるから見に来てくれたら嬉しい。

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