多目的トイレ不倫から気付くこと

アンジャッシュ渡部さんの多目的トイレ不倫に対して「芸人ならネタにすればいい」とか「渡部は前からそんなやつと知っていた」とか「女も気持ちいい思いしたんだから女も悪い」とか「女をトイレで1万円でチャチャっと帰らせるなんて最低だ」とか「佐々木希が嫁なのに」とかワイドショーのコメンテーターもSNSの意見もそんなんばっかりで、おれはあんたたちずっと「誰かを無視してないか?」と思ってた。それは「多目的トイレが必要な人たち」だ。

選びたくても選べない、選ばせてもらえない人たちがいる。例えば、前に山手線の満員電車に乗っていたらドアのすぐ横に車椅子の男性がいた。彼はおそらく、電車を降りる時に、中まで入っていると降りれないのでドアの真隣にいたんだと思う。

山手線の駅は3から5分間隔ぐらいで各駅に到着する、彼はだいぶ先の駅で降りる予定だったのか、駅に着くたびに降りる人に向かってずっと「すいませんすいません」と申し訳なさそうに謝っていた。その話を友達にしたら彼は子供がいてそのお母さんはベビーカーだと電車に乗った時に舌打ちをされたり、いろんな人の迷惑になったりするから少しの距離ならタクシーを使うと言っていた。

なんか違うくない??と僕は思う。なぜ不自由のない自由な人たちがより便利になり、なぜ、不便な人が便利な乗り物に遠慮しないといけないんだろうか、不便だからこそ便利が必要なのに。

前に車椅子の女の子と知り合って、彼女と話したらすごく面白かったので、次のライブ前説やるか?と聞いたら、ぜひ、と答えてくれた。会社にそれを伝えたら、だめだ。と断られた。

その会場の入り口は長い階段になっていて彼女の車椅子をスタッフで運んで万が一のことがあったらこっちが責任を取らないといけないと言われた。僕はなんの疑いもなく「確かに」と思いそのことを彼女に伝えると、車椅子のなにを知ってるんですか?運んだことあるんですか?わたしの車椅子はすごく軽いですと言われた。

おれはその時にこっちの責任になるから、とすぐに返したが彼女が悲しんでるのは、なぜまずどうやったらいいかのやり方を一緒に考えようとしないのか、なぜすぐに迷惑をかけるかもだから無理と断るのか、と言われた。そういや、たしか、何年か前に、目が聞こえない人たちが居酒屋かなんかを予約したら断られたってニュースをみた。

それも店の方からすると、対応できるスタッフがいないので、万が一のことがあったらこっちが責任を取らないといけない、ということだった。未就学児お断りの店もある、他のお客さんの迷惑になるから、といって断られる。

僕は思った。選べる選択肢が多い人と選べる選択肢が少ない人たちがいる。例えばコンビニの駐車場で車椅子のマークがあるところは2台ほどしかない。例えば目が見えない人の点字ブロックもそうだ。あれは日本人が発明したらしいがいまだに点字ブロックの話をするとそれを日本人はすごいと自慢ぽく言ってくるやつがいるけど、不満があって初めてそれらはさらにリニューアルをされる。日本人が発明した、すごいと言ってるようでは彼らはずっとボコボコの点字の上を歩かないといけない。僕らはいつのまにか動く歩道など、便利がより便利になっていくのに。それはそれを「気にかける人たちが少ないから」なのだろう。

だから多目的トイレはまさにそれだ。あの場所はトイレにだいたいひとつしかない。男トイレも女トイレも中にはたくさん、排泄する場所はえる。だけど多目的トイレはひとつだ。それを必要としてる人はたくさんいる。性的少数者と言われる人たち、授乳する赤ちゃん連れのお母さん、車椅子の人etc。

彼らは普段、トイレの選択肢が少ない人たちだ。だからなにが問題かって、佐々木希がいるのに不倫より、1万円あげてトイレでサクッとセックスより、一番人間としてだめなのは、「多くの選択肢を持つ人間がわずかな選択肢しか持たない人間から選択肢を奪ったこと」が渡部さんの問題だと思う。それが体調が悪くて、とかではなく、そこに1万円でサクッと佐々木希がいるのにセックスしていたこと、が、追加の悪でついてくる。そして、今後、その選択肢が少ない彼らがトイレから介助者と二人で、でてきたら、渡部さんの報道から、もしかして彼らもそうなのか、と「そういう目で見られる」危険性まで増やした。

今回の多目的トイレ不倫で渡部さんを語る時にそういった選択肢の少ない人たちのわずかな選択肢を奪ったことが、なかなかワイドショーのコメンテーター達からも世間のコメントからも出てこない。彼らの選択肢を奪ったということが、世間に広まれば、選択肢の少なさに注目が行き、それが、改善されるきっかけになるかもしれないのに。わかったことは渡部さんが飯は場所選ぶけどセックスはトイレで済ましちゃうセックスモンスターだったということと、芸能人コメンテーターも視聴者も、誰かを透明人間にして、この件を語ってるというのと。


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