でもお前独身だろうが
夏の日、小学二年生。うだるような蒸し暑さをまだ夏の風物として楽しむことができていた子供時代。家庭の事情で愛知県から岐阜県に引っ越した俺は以前とかけ離れたその田舎暮らしに目を輝かせていた。田舎っぽい寂れた建築を見つける度に「これがあのシラカワゴウか〜!!」って叫んでた気がする。大人たちブチ切れてただろうな。
昔から第一印象だけは異常に良かったので一言も発してないのにいつのまにか友達ができていたし一言も発していないのに女に避けられていた。ここから既に俺の"人生"始まってたんだな。超清々しい夏の青い空に非モテのコントラスト。これが青春だったのね。
この話に殊更夏を取り上げている理由は夏の間しか岐阜県にいなかったから。お母さんすぐに男と問題起こしちゃうんだもん。殺される前に雲隠れしないとね。
どこまでも青い空、真っ白な陽の差す夏の昼間に全ては起こり完結した。だから俺は夏の晴れがめちゃくちゃ嫌いなのよ。
昔から俺は"ガチ"だった。もちろん発達的な意味ですが。たしかに昔からガチで女狙ってたしガチでギリギリ笑える下ネタを追求してたけど今回は発達的な意味で。センシティブなので"ガチ"。
俺は当時教師に媚びを売るという行為を知らなかった。友達が先生に話しかけてるのを見て目の前で「え〜つまんねーことしてないでサッカーしようよ!!!」って言ったことある。ハイここ"ガチ"ポイント。友達はノッてくれたけど問題は先生よ。教師としてのプライドをたかがハナタレの小学二年生にズタズタにされてんだもん。怒るのも無理はないネ。俺が先生だったら帰りの時間にやる「今日1番偉かったで賞」に加えて「今日俺を1番キレさせたで賞」作って毎日入賞させてやるもん。あの先生はまだ優しかった。
ぶっちゃけ先生をキレさせてる自覚はバリバリにありましたけど。モンペママに鍛えられた感情を読む能力のおかげでキレてる奴は後ろにいてもわかる。殺意を感じる能力、俺ジャンプのクール系メガネキャラかもしれない。メガネかけたらオジサンだけど。
転入生でイキってはいけないってわかってるのに当時はマジの"ガチ"だったので「キレさせてる俺、かっけ〜」とか思ってそのまま舐めたノリを続けてた。
数週間たつとさすがにガチ特有の忘れ物多すぎる現象がバレた。友達にはなんも言われなかったけど。岐阜県民全員聖人。消しゴム毎日貸してくれた瀬尾君のおかげでお前らの株爆上がりだから。感謝しとけよ。
でも先生はめちゃくちゃキレてた。こんなキレることある?ってくらいキレてた。
でもお前独身だろうがって思った。からめちゃくちゃ高圧的に毎回「忘れました!!!!ねぇ!!忘れた!!!」って言ってたらかなりキレちゃったので今度は「忘れました……」って泣きそうに言ってみたけど結局キレたままだった。いやまず忘れ物をするなって話なんだけど。やっぱガチなのよ。努力の方向性の違いというか。バンドの解散理由。根本の解決は絶対にしない。これが日本式。
であまりにも忘れ物が多かったからある日先生がいきなり
「ぎョエ〜〜!!!!なんでそんな忘れ物するの!!!!もういい!!会議!!!会議する!!!!みんなー!!!会議!!ムラマツくんが忘れ物しないようにどうすればいいか会議するよ!!!!」
って。復讐、きちゃったか〜。いやマジでビックリしたけど。たしかに数年後の気持ちわりぃオタク俺は「西洋を見本にディベートはガキの頃からやらせろ!」と啓蒙したが。俺が犠牲になってもいいとは一言も言ってないからな。功利主義をここで実践するなや。最大多数の最大幸福(マジョリティ:マイノリティ=29:1)。これがお前らの望んだ民主主義。
みんなめちゃくちゃ真面目にディベートするの。十字架に磔にされた俺をまじまじと凝視して欠点を1人1つずつ述べてくの。これ小学二年生、夏の日、快晴の記憶。こんなん夏が嫌いになるに決まってる。俺の夏の汗は暑いからじゃなくてトラウマの冷や汗なのよ。
残念ながら俺はキリストじゃなくて将来新興宗教を始めようと企むインチキ小学二年生なので十字架に磔にされてから復活することはありませんでした。ママがベストタイミングで男とやらかして逃げなければいけなくなったのでそれがマジの救いでしたね。ありがとうビッチ。
空気を読むことは覚えたけれど、今日も俺は生まれつきの"ガチ"のせいでデカい声で陽キャをディスって居場所をなくしている。生きているんだなぁ。
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