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千秋万古の牢獄より/『霜夜ゆく』プレイ感想

かわいい~~~~~。


 今回語りたいゲームはその名も「霜夜ゆく」、カテゴリ名をSF方程式ローグライトアドベンチャーという。

 基礎的なゲーム紹介は↑のツイートと公式の解説で完成されているので、ここでは文量を割かない。未プレイでティンと来たのならとっとと120円を出してDLし、この宇宙が絶対零度よりも暖かいことを証明しよう。
 ADVのご多分に漏れず、ネタバレがこのゲームの楽しみを損なう可能性は高い。証明し終わったらまたこの記事に帰ってきて欲しい。

 しかし、事前にこれだけは言っておきたいのだが……このゲーム、相当難しい
 「霜夜ゆく」の本質は非常にシビアなノンフィールドRPGである。前半パートでの時間に追われながらのアイテムの取捨選択、後半パートでのギリギリのリソース管理、そしてADV特有のエンディングへのフラグ探索……ゲームを進めていく過程の一つ一つ、その全てが一筋縄ではいかない。
 アイテムのデータを頑張ってメモり、数値を管理し、ひたすらやり直しながら長い時間頭を悩ませるという手順を踏まなければ真エンドには辿り着けない。
 普段からその手のコアなゲームをプレイしている人なら大丈夫だろうが、そうでなければ覚悟が要る。「ADVのサブでついているゲームパート」みたいな先入観は捨てるべきだ。ネタバレなしでアドバイスできることがあるとすれば「MEMOを隅から隅までちゃんと読め」ぐらいか。

 そんなこともつゆ知らずかわいくて語彙がちょっと下品でめちゃ強い獣耳女の子に釣られた俺は、一向にストーリーを進められずパイロットと少女を死なせ続ける過程で頭がおかしくなり、無事限りない時間の螺旋に囚われ人間性が摩耗してしまったループもの主人公みたいになった。
 だがしかし、そんな状況でそういうキャラを前に進ませてくれるのもヒロインである。

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 さっきも言ったが、女の子が可愛い。
 めちゃくちゃ強くて、口が悪くて……それでいて、健気で哀しい。たとえ人間とは比べ物にならない強さを持っていても、「方程式もの」の密航者には避けられぬ死の影がつきまとうのだ。
 こういう時、画面の前の俺がやるべきことは一つしかない───死ぬ気でゲームをクリアして、トゥルーなエンドを手に入れるのだ。

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 君のその笑顔!!!守りたいのさ!!!になった俺は迷いなく悲しみのない時間のループへと飲み込まれ、「霜夜ゆく」のとりこになり睡眠時間を削られるのであった。

以下ネタバレ&既プレイ者向け。このゲームはネタバレしないとまともに語れないので……













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 マジでふざけんなよ???
 「手が足りない」をその用法で使っていいのは魔女の家だけだろ。

 とまあこんな感じで、このゲームのテキストのセンスはかなり好き。ゲーム全編にわたってものすごい文章量で殴ってくる、というタイプではないが、雰囲気作りがとにかく上手い。
 少しでもヌルい行動をしたなら容赦なくBADENDに叩き込まれるゲームのシビアさに地の文の無機質さが合わさって、冷たい光を放つ刃物のような空気が根底に流れているが、要所要所で挟み込まれる少女の愛嬌たっぷりの台詞やMEMOの文章の小ボケが温かみのあるアクセントとして効いてくる。「絶対零度には3度足りない」を体現したようなテキストをもっと読みたいという気持ちが、難しいゲームパートを進めるためのモチベーションになった。

 個人的に好きなテキストはMEMOの「宇宙天気が航行や投棄などに~」。ミスリード狙いなのかそれとも「こんなあからさまな書き方してんだからフレーバーテキストな訳ないだろ察しろや」というアレなのかは分からないが、俺はこれを読んだ結果ものの見事に宇宙天気を眼中から外してしまい、ナイフを回収する条件を見つけるまでにかなりの手間を要した。
 その後トゥルーエンドのために試行錯誤している最中、よく見たらMEMOの写真にColdpointのマークが描かれていたのを発見した時は愕然とした。「霜夜ゆく」ではゲームを進めるために必要なことは最初から全部書いてある。


 これに関連して語っておきたいのは、俺にしては珍しく自力でクリアしたことがとても良いゲーム体験に繋がった、ということだ。
 俺はゲームが下手な部類で、大体のゲームで攻略情報にお世話になっている。それでプレイの楽しみを奪われていると感じた経験はほとんどないと自負しているのだが、今回は自分の力でクリアしてよかったなと思っている。他プレイヤーからの情報を参考にしたりはしたので完全ノーヒントというわけではないけど。

 試行錯誤の過程そのものはnoobには正直辛かったけれど、試行錯誤をするために必要な情報の多くがMEMOや台詞でちゃんと開示されており「何の条件を達成できればよいか」、要するに向かうべき方向が分かっていたおかげでギリギリ何とかなった。

 最適解が分からない状態で繰り返しプレイしたことで、少女やパイロットへの思い入れは一層深まったと思う。苦戦しすぎて両手じゃ数えられないくらい彼らは死ぬことになったが……
 トゥルーエンド(エンジェルランプ)へ行く手段を探している最中、パイロット生存で周回するには血清を捨てるのが効率がいいのだが、俺はそれに気づかず開幕で銃から弾丸を抜いた後、その周でやることが終わったら少女を銃殺して周回するというループのしすぎで守るべきものを見失った人そのもののムーブをしていた。状況を想像するとめちゃくちゃ最悪である。
 ナイフを拾う時、パイロットは彼自身が最初に棄てた少女───もしかすれば他の周回のドギーの少女も───のことを文字通り死ぬほど悔いていたが、そこのシーンで俺にも流れ弾が入った。俺も片腕いっといた方がいいかな?

 睡眠時間を削ってプレイして、アイテムの合成を調べ、アイテムのデータを調べて取捨選択をし……ということを繰り返し、ようやく真エンドに辿り着いた時の喜びといったらそりゃあもうね。集合住宅住みでなかったら幼少期のビルゲイツくらいの勢いで大騒ぎしたかった。

 個人的にはナイフを採用してクリアできたのが良かった。俺はああいう「超重要なフレーバーを持ち、なおかつゲーム上の性能も高い」装備が大好きなので。
 最初の少女が持っていたナイフはパイロットの罪の象徴だが、「禊」のあとは軽量・高耐久・多機能の3拍子揃った有能アイテムとして活躍する。辻褄を合わせる因果応報のその先でパイロットを救いうるという点において、ナイフは冷たい方程式の打開を目指す「霜夜ゆく」を象徴するアイテムである……と俺は勝手に思い入れている。


 俺はこのゲームの影響で原作?である「冷たい方程式」をAmazonで買って読んだのだが、おそろしくドライな印象を受けたし、これを何とかするために「方程式もの」がたくさん出たというのも分かるなあ、と思った。「方程式もの」自体は履修済みだったが、原作を読むと分かることはやっぱり多い。

 「霜夜ゆく」では①密航者の分の重さと同じだけ他のものを捨てる②搭乗者の身体の一部を切り落として捨てる の二つが解法として採用されているが、特に②の方に単純に重さの辻褄を合わせるというだけでなく、縛られた役割からの解放という意味が乗っているのがアツくて好きだ。
 真ルートでは少女は髪と飾られた服を切り落として奴隷という立場からの脱却を、パイロットは「禊」で片腕を切り落とすことで罪を清算し、最終緊急艇の備品としての運命からの脱却を果たす。ゲーム内で情報がほとんど開示されないので分からないが、船のAIも「わたしも彼(パイロット)と似たような立場」と言っていたので、彼女?もまた一部を破壊されたことでパイロット同様繰り返しから解放されるのかもしれない。

 もう一つ重要だと思っているのが、「一人による自己犠牲」の否定だ。

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 俺はコーティー・キャスのガチ恋なのでフィクションにおける自己犠牲にはわりと肯定的な立場なのだが、↑のシーンでこのゲームに必要なのは『たった一つの冴えたやり方』ではないんだな、というのが分かった。

 「禊」のとき、少女が言う「包帯やロープのようなもの」がないとパイロットはそのまま死んでしまうが……これに該当するSTRING属性は少女にハサミを入れた時に出てくる「髪」や「服」およびそれを合成したアイテムにしかついていない(はず)。つまり、少女とパイロット、その両方が自らの身を切ることがトゥルーエンドに辿り着く条件ということだろう。
 一人に犠牲を押し付けるのではなく、お互いに負担をして誰も死なずに状況を突破するのが本当の意味での「冷たい方程式」からの解放ということなのかもしれない。

 

 トゥルーエンドまで読んで、やっぱり少女とパイロットが二人とも生き残ってよかったな、と思った。少女を守護りてえ……と思ってプレイしていたのは勿論だが、パイロットにハッピーエンドを与えられたのも結構うれしい。
 「冷たい方程式」のパイロットには特別な設定は無かったけれど、「霜夜ゆく」のパイロットは密航者と同じ「多数の幸福のために切り捨てられる存在」だし、そうであるからにはなんとか助かる道があってほしいとプレイ中に感じた。

 トゥルーエンド後の彼らを取り巻く状況は色々複雑そうだが、まあ彼らなら何とかなるだろ、と思う。
 実験用の被検体としてではなく、永遠の牢獄で死ぬまで使い潰される備品としてでもなく……一人のひととしてその一生を終える時、彼らは椅子に座って、ちょっとドヤ顔で、この旅を語るのだろう。


 とまあこんな感じで感情入りまくっちゃうくらいプレイしていて楽しかったです。やっぱり面白いADVに入れ込むと気持ちがいい。
 あと後日談ください。何でもしますから。料理も縫い物も、その他いろいろ、看護だってすこしは……

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