手紙【第十一話】

2016年 8月11日

東京〜地元

「お前何買う?」
「私はいいですよ、まだお腹空いてないし」
「いずれ減るよ。先に買っとけよ」
「いいですってば。お茶だけ買っときますよ」
「奢るぞ」
「じゃあこれの高いやつで」
「…」
 私は新杵屋の牛肉どまん中を手に取って、先輩に渡した。

 朝の6時半、名古屋経由の新幹線に乗る。夏季休暇とお盆前期間に入り、旅行や帰省らしき人がいるが、若干時期を外したおかげで混雑は避けることができた。
 私が通路側に座り先輩が窓際に座ると、真ん中の列からさらにその向こうの席までを一望できた。私の左側の真ん中の列に座る男性は、居間のテーブルの足元に溜まったホコリを掃き出す様に「反時代的考察」を執拗に眺めている。どこか悩みを抱えたような顔をしていた。だからこそ哲学に救いを求めているのかもしれない。
 更に向こう側にはカップルと思しき男女が座っている。病的な色のサングラスをかけた女は、つまらなさそうにスマートフォンを操作している。男の方も同じようにスマートフォンを操作している。会話はないが、会話をしないのなら二人で隣同士の席を取る必要性があったのか甚だ疑問だ。
 乗客が座るのを待っていたかのように、じっくりと新幹線は走り出す。窓からの景色は次第に細かい集中線となって霞んでいき、最後には滲んだA4用紙の景色の様な様相になり、私の周りの宇宙はとにかく加速していった。私の肉体を離れた魂の片割れを探しに行くのだ。
 流れる景色は私に瞑想の時間をくれる。私はゆったりとしたその時間に身を任せることにした。焦ろうがなんだろうが、時間は一定方向に同じ歩幅でしか進まないのだ。身を任すのはとても簡単だ。ただ生きていればいいのだから。だがそれでは生きているとは言えない。救いがあまりになさすぎる。今ではこんなにどんよりとした暑い曇り空の下で生きてはいるけれど、綾香という太陽さえあれば私は必ず輝けるはずなのだ。

 一眠りして岡山で新幹線から乗り換えをする。この間のGWでも思ったのだが、私の地元は田舎すぎるほどに田舎すぎた。新幹線も通っていないそんな田舎で人ひとり見つける事が出来ないという事実が重くのしかかるほどに田舎なのだ。だがそこは間違いなく私の生まれ育った場所で、事実を事実として飲み込むしかないのだ。特に地元に恨みはないし、地元だってそんな悪気を持って田舎なわけではないからだ。地元があまりに可哀想だ。
 途中で私達は駅弁を食べた。先輩に買わせた駅弁は美味しかった。彼は何故か安い駅弁を買ったのだが、それでも味にはなんの不満も無いようで、食べ終わったあとは満足そうに再び眠り始めた。幸せそうな寝顔を見るといつものギャップに、不覚にも少し可愛いと思ってしまう。まぁそんな事もあるだろうと、自分をたしなめた。
 地元に到着したのは東京から電車を乗り継ぎ約7時間後だった。改めて遠い田舎だと感じた。電車を降り改札を出て、しばらくぶりの地元の駅を出る頃には12時を過ぎ、私達は駅併設のレストラン街で食事を摂った。私はとっとといつもの様に決めたのだが、相変わらず女みたいに時間のかかる先輩に、海産物がおすすめですよと、半ば強引に海鮮丼を頼ませた。どうやら満足いく内容だったようだ。地元の物を褒められるのは、けして悪い気分じゃない。
「さて、まずは彼女が以前住んでいたところに行こうか」食後にコーヒーを飲みながら先輩は言った。「で、その前にホテルに一度チェックインしておくから、付いてきてくれ」
「え?先輩、ホテル予約してたんですか?」
「当たり前だろ。野宿させる気か?」
「じゃなくて家に泊まればいいじゃないですか。部屋は空いてますよ?」
「お前、実家に男連れて帰るつもりか?誤解されたら嫌だとか前に言ってたのはお前じゃないか」
「大丈夫ですよ。母も父も私のことよく分かってますから」
「両親は知ってるのか?」
「えぇ、隠せませんから、打ち明けてます」
 先輩は一言、そうか、と言った。でも既に一泊分は予約しているため、今日はホテルへ泊まるしかなかった。明日以降は家に来る予定とした。
 先輩とホテルへ行きチェックインから荷物を部屋に入れて戻ってくるまでの間、私はロビーで待つ事にした。ホテルに泊まった事がない私は、格安のビジネスホテルでも落ち着かなくてソワソワした。こんな調子で帝国ホテルにでも行けば、ロビーに入った瞬間に失神するだろう。気を紛らわすために、とりあえずスマホを構う事にした。
 駅前は車の通りも人通りも少なく、東京とはまるで違った。顔ぶれは一緒なのに、どこか遠い世界の様な気がした。綾香もこの同じ世界にから本当にいるのだろうか。考えれば考えるほど、それは不透明に濁っていく。私は的を得た行動を取れているだろうか。本当は全くの見当外れの事をしていて、正解とは真反対に向かっているのではないのかという不安もある。太平洋の真ん中で遭難して、西から登ったお日様が、の間違った知識を当てにしてしまい、見当外れに進んでいたらどうしようと不安にならない訳にはいかなかった。
「待たせた。さあ行こうか」
「バスで行きましょう」私は立ち上がった。
「なぁ、大丈夫か?」先輩は私の方に手を置いて真剣な目で質問した。「体調悪そうに見えるけど」
「大丈夫ですよ。長い移動で疲れただけです。今日はとりあえず、綾香の家に行ってみましょう」
「無理するなよ」
 先輩の声を背中越しに聞いた。

 市営の循環バスに乗り街の北側へ進んでいく。あの橋を通る。先輩に、よく通った橋なんです、と伝えると、そうか、と一言だけ返って来たっきり外を眺めていた。
 街を進むと次第に見慣れた風景になっていく。そしてそのまま街を少しずつ離れて住宅街へ入り、バス停を降りる。バスが行ってしまうと、昼間でもほとんど喧騒の聞こえない場所だった。単純に人がいないのだ。急にその場の空間に私と先輩は取り残されたように佇んだ。空には律儀そうな雲が私達の様に佇んでいる。青の下地に白い雲はポッカリと違和感なく浮いていた。
 目的地はバス停から歩いてしばらくの場所だが、次第に思い出した様な暑さが襲った。背中はじっとりと汗を流し、頭からも汗がこめかみを伝い顎まで一筋の線を描いている。セミの声は次第に耳障りな程に空間を支配し、余計に暑さを助長していた。
 ある家の角を曲がると、直線の先にかつて綾香とお母さんが2人で住んでいたアパートが見えた。遠くから見るとそれは、カサついた老婆の肌の様に見えたし、まるで時に忘れ去られた過去の思い出の様にも見えた。
 近くで見るとそれは、よりその様に見えた。アパートの壁面は痛々しく剥がれ、2階への階段はサビが宿命的に張り付いて古臭さを演出している。今にも踏み抜けてしまいそうな階段だった。
「何号室だ?」先輩は汗を拭いながら言った。
「2階の7号室です」
 軋む階段を上がり、【7号】と書かれた部屋の前まで来た。GWの時に来た時と同じく、ドアポストにはガムテープが目張りされ、誰も住んでいない事を暗示している。ドアからは悲しげな死を感じた。人が入って初めて部屋は部屋として機能するのだ。人のいない部屋は、部屋とは言えない。
「誰も住んでないみたいだな。もちろん前回来た時もだよな?」
「そうですね。変わりなく」
「と言うことは入居者に中を見せてもらうことは出来ない、ということか。なら仕方ない」
 そう言うと先輩はスボンのポケットから針金と安全ピンを出した。まさかと思って見ていると、鍵穴に差し込んだ。
「ちょ…、何してるんですか!こんなの見つかったら…」
「うるさいな、お前の大声で見つかるだろ。黙って周りを見張っとけ」
 私が静止しようとするが、先輩は止まらない。これはいわゆるピッキングだ。どうしようか、止めるべきかと考えている余裕もなく、鍵は開いてしまった。ものの1分程の所有時間だ。これは紛れもなくプロの犯行だった。
「ほら、入るぞ」
「ちょ、ちょっと待って」
 考えている間に、先輩はドアを開けて入ってしまった。どのみち犯罪なので、それなら入ってしまって内側から鍵をかけてしまうしかない。もたもたしていたらそれこそ見つかって警察沙汰だ。私は先輩の後に続いて侵入し、ドアを静かに閉めた後に鍵を締めた。
「すごい暑さだな。でもバレたくないんで窓は開けれない。我慢しろ」
「はぁ…。それよりなんでそんな技術を持ってるんですか。まさか私の部屋にも勝手に入っていないでしょうね」
「…」
「答えてくださいよ」
 先輩は私の声を無視して、捜索に取り掛かった。
 空っぽの部屋だが、どこにどんな家具が配置されていたかしっかり覚えている。テレビがあり、タンスがあり、そして遊びに来た時、2人で寄り添ったベランダ側の机の位置まで。それは私の頭のフィルムにしっかりと焼け付いてる。
「ここ、まだちゃんと退去後の掃除がされてないな。汚れが残ってる。もし荷物の残しとかあれば、何も手がかりのないもの以外は、入居者のもとか関係者のもとに送られるだろうな。ということはまだ探す余地があるぞ」
 先輩は完全に一人で盛り上がっていた。この状況で盛り上がれるのは、おそらくプロだ。気をつけよう。
 押入れの上の段に上がり、おそらく屋根裏のパネルを外して頭を突っ込んでいる。
「先輩。壊さないでくださいよ。足がつきますよ」
「そんなヘマはしないよ」
 私はその押し入れの下の段を探した。暑い部屋の更に暑いところへ頭を突っ込むと、サウナよりひどい熱気だった。全身の毛穴が開いて、滝のように汗が吹き出す。しかも日の当たりが悪くてよく見えない。スマートフォンのライトをつけて中を探してみたが、めぼしいものは無かった。ささくれだった床の板張りや堆積したホコリが、この部屋の歴史を物語っている。
 私が諦めて出ようとした時、押し入れのふすまの裏に、それは少しのセロハンテープで止めてあった。それを外して暑い押し入れから出た。
「先輩。こんなのが」
 先輩に声をかけると、汗だくになって押し入れから降りてきた。封筒を二人で見てみると、封筒の裏には、どこかの住所が書いてあった。
「どこの住所だ?東京?」
「これ、私が住んでる東京のアパートの住所です」
「本当か?」先輩は驚いて私の顔を見た。「と言うことは、これを清掃員に見つけさせて、お前のもとに送ろうとしたって事なのかな」
 私は手が震えた。住所の筆跡は間違いなく綾香の字だったからだ。綾香の住んでいたところに、綾香の痕跡が残っていたのだ。

 夜の帳が降りた。街はささやかなイルミネーションをまとい、川沿いには柔らかな灯火が延々と遠くまで続いている。人々の営みがそこにあるという証拠だ。車のヘッドライトと赤いテールランプは規則的な移動を繰り返す。時が同じ歩幅で歩んでいるという証拠でもある。
 時は戻せない。逆周りの時計は存在しないのだ。私が見つけたあの手紙は、本当に私宛で、私が見つけていいものだったのだろうか。先にその答えさえわかっていれば、時を戻してあのふすまの裏に戻したいところだ。それほどまでに私はあの手紙を見つけたことを後悔していた。
 重いのだ。内容がなんであれ。
「おい。腹減ってないか?」
「大丈夫です」
「…元気ないな?」
「そりゃ、ね」
 先輩が泊まるビジネスホテルの一室で、私達はゆったり動く時間の中にいた。部屋に有線は流れず、規則的な時計の針の音だけが時間の証明をしている。時間は18時頃を指していた。昼の事を考えると、そろそろ空腹になる頃だが、熱中症かもしれない、食欲がわかなかった。
 私はとりあえずスポーツ飲料を飲み水分補給をする。体に染み渡る様な水の匂いがした。
「手紙、見ないのか?」
「…その勇気がありません。見てもいいんでしょうか、それがわからないんです」
「少なくとも」先輩は缶ビールを開けて、グラスに注いだ。「お前の住所が記載されてたんだ。遅かれ早かれ、お前の手元には届いてるさ。というよりも、やっと見付けた手がかりじゃないか、見ない理由がわからない」
 それだけ言うとビールを飲んだ。飲む音が聞こえてきそうな飲みっぷりだった。
 私はかばんから手紙の入った封筒を出した。確かにその通りなのだ。綾香が私に宛てたものであるのは間違いないし、少なくとも私に繋がる何かだ。これを開ける勇気が、私にあればいい。普通の白い封筒に入った紙は3枚折りだろうか。そんなに厚くはない。
「先輩。明日一緒に見てくれますか?」
「明日?まぁ、そうしたいならそうしよう。それはお前への手紙だろうし、お前が見たいときに見ればいいさ」
 先輩は2本目の缶ビールを開けたところで、今日は手紙を開けないと決めた。それは今日は新幹線移動に加え、住居不法侵入、更には熱中症の合わせ技のイベント目白押しで、記載内容をちゃんと把握できないような気がしたからだ。
 明日の朝、ホテルのロビーでの待ち合わせを約束して、今日は実家に帰ることにした。先輩に挨拶をして廊下へ出ると、そこは物音のしない忘れ去られた空間が広がっていた。
 エレベーターを降りロビーへ出ると、チェックインをするスーツ姿のサラリーマンが何人か、ロビーで受付の女性と話をしていた。彼らは一様にくたびれたネクタイとスーツを着ていた。夜になっても今だ蒸し暑い中でも、これだけかっちりとしなければいけないのだ。誰が見ているわけでもないのに、と思った。私はロビー入口にあるガラスに映る自分を見た。薄い半袖のシャツに黒いスキニーパンツとスニーカー。楽な格好だった。
 外へ出ると昼間よりは和らいだとはいえ、未だに湿度を保っていた。車は知らん顔して駅前通りを渋々進み、信号に引っかかると僅かに顔をしかめて停車した様に見えた。私は電話で実家に、今駅に着いたと連絡した。電話口で母が、来るならもっと早く電話しなさい、と言った。そしてタクシー代を出すから、それで帰ってきなさいと付け加える。私はラッキーだと思った。正直、けして多くないバスの本数を、この暑い中待つのは億劫だったからだ。
 退屈そうに待機している4台のタクシーは、暑さにうなだれながらそこに並んでいた。私が先頭にいるタクシーの助手席のドアをノックすると、後部座席が空いた。まだ乗るとは言ってないのに、忖度がとても上手だと思った。
「──まで、お願いできますか?」
 私の実家までは、タクシーで3メーター位はかかろう。でも運転手は喜んでもなさそうだったし、かと言って不機嫌でもなさそうだった。だから、私がタクシーに乗る際のモラルを守れているかはわからなかった。程よく効いたクーラーで眠気が来た頃に、実家へ到着した。3ヶ月ほど前に帰ったばかりなので、特に久しぶりに帰った、という感慨深さはなかった。
 インターホンを鳴らすと母が出てくる。おかえり、と言ったので、私は、ただいま、と言った。玄関を上がりリビングの前を通ると、既に父も帰宅していた。私が、ただいま、と言うと、父は、おかえり、と言った。
 今は空いている元自室のベッドに来客用の敷布団を敷いて、夕食までの間、横になる事にした。閑静な住宅街は、車の通りも少なければ人通りも少ない。ましてや19時過ぎだ、人は家に入り込んでしまっているだろう。
 枕元にある窓からは、街頭の光と月明かりが差し込んでいた。電気を点けずに過ごすのは苦ではない。むしろこの真っ暗闇は、私の友達でもある。内面を透かし自分語りをするにはとても好都合で、私は良くこうやって夜を過ごす。更に雨が降ればもっと良い。雨の二度と訪れないリズムは人を夢の世界に誘う。それは瞑想に入る直前に、気づかずに踏み込んだ落とし穴の様に突如として眠気をもたらす。
 私が夢うつつで横になっていると、母がドアの外から、先にお風呂へ入りなさい、と言った。実のところ面倒だったが、昼間に大量の汗をかいた事を思い出す。クーラーで汗は乾いていたが、顔を触ると鼻の頭にはうっすらとした塩が残っていた。かばんから下着を出して風呂場へ向かう。久しぶりの浴槽だった。いつもは水道代とガス代を気にして風呂自体に入る事はあまりない。肩までゆっくり浸かり、じっとしていた。
 浴室に立ち込める湯気は蜃気楼の様に、目と鼻の先にある壁をも幻想の様に歪める。
「幻想」と、私は口に出してみた。でもそれは実態を持たずに、湯気と混じってどこかへ消えた。朝起きて手紙を見た時、そもそも消え失せてたらどうしよう。でもきっとそんな事はない。私の手の中に収まるあの封筒は、間違いなくそこに存在していたのだから。
 頭と体を洗ってもう一度浸かり、十分程して浴室を出た。体と髪を乾かして服を着る。リビングには先ほどと寸分違わぬ姿で椅子に座りテレビを見る父と、夕食を配膳する母がいた。私もそれを手伝うと、母はどこかへ嬉しそうだった。そして私も少し嬉しくなった。
 ご飯に味噌汁、きゅうりの漬物にトマトの乗ったキャベツのサラダ、そしてハンバーグとエビフライが夕食だった。
「なんか私が帰ってくるって分かってたみたいだね」
「どうせお盆に帰ってくると思って、仕込んで冷凍しておいたのよ。すぐ作れるように」
 母は几帳面で、とてもよく気が回る人だ。父は小さく、いただきますを言うと、少しずつ食べ始めた。
「お父さん、ビールは飲まないの?」私がそう聞くと、うん、と一言小さく言った。
「違うわよ、あんなに注いでもらいたいのよ。ねぇ、あなた?恥ずかしくて言えないのよね?」
 母が意地悪っぽく言って瓶ビールとグラスを持ってくると、父は少し私を盗み見た。はっきり言えばいいのに、と私は思いながらも、恥ずかしがり屋で引っ込み思案な父の為に、私はグラスにビールを注いだ。父は少し嬉しそうにそれを飲んだ。
 食後に私は何か伝えないといけない事があるのを思い出した。そうだ、先輩のお泊りだ。私は今は使っていない姉の部屋を提案した。あそこはマットレスのベッドがそのまま残ってるし、来客用の布団を敷けばすぐ使える。
「あら、あんたも男の人を連れてくるようになったのね」
「違うよ、ただの先輩だよ。私の事知ってるくせに」
 それもそうね、と母は言った。「明日からお呼びしなさいよ。夕方には準備しておくから」
「うん、ありがとう」
 私達はそれ以降の食事を近況報告に使った。久々に血の通った料理と会話はとても心地よかった。(もちろんliberaは特別だ)
 21時頃になり、私は部屋に戻り布団に入った。今日は色々あった。不法侵入の時の熱中症の様な気持ち悪さもすっかり消え去っていたし、体もすっかり元気になっていた。でも、頭では覚醒をしていても体は疲れていた。
 明日こそは手紙を開けよう。私の名前と東京の住所が書いてある以上、何が書いてあるのかを知る義務と責務がある。
 次第に体の眠りに引き込まれる様に、頭も眠りへと入っていった。

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