ロイヤルミルクティー2『暖房いらず』

 いつもの楽屋の風景。

 部屋にはダージリンと、セイロンがいた。

 テーブルの方には、セイロンが椅子に座って本を読んでいる。

 ソファーにはダージリンが腰かけている。いつものように足を組んで――

 おや、彼女はいつもと違う姿勢を取っている。膝の先を揃えて、両肘を抱えるようにしている。

 どうやら寒がっているみたいだ。

「あ、あのさ。この部屋、寒くない?」とダージリンが尋ねた。

 すると、セイロンは顔色一つ変えずにこう言った。

「そうだね。寒いね」

「いやぁ、もう11月になると、こんなに冷え込むんだね……風も冷たいし」

「そうね」

「……あのさぁ、セイロンはぜんぜん寒がっているように見えないんだけど」

「私だって寒いよ」、彼女はけろりと言った。

「本当? 特殊な体温調節機能でも実装されてるんじゃないの、キミには? だってボクより薄着じゃない」

 確かにその通りだ。セイロンはいつもの黒いワンピースを着ているだけで、ほかには特に身に着けていない。一方、ダージリンの方は、お決まりのシルクハットに、燕尾服みたいな上着、スカートの下には黒のストッキングまで履いている。そんなダージリンが寒がっているのだから、部屋の温度はけっこう下がっているのだろう。

「そんなに寒ければ暖房つければ?」とセイロンはめんどくさそうに言った。

「うーん。なんかボクより薄着な人が平気そうなのに、暖房付けるのは敗北感を得てしまうんだよねぇ」、ダージリンがしみじみと言った。「11月って急に寒くなるよね。まだクリスマスまで一か月もあるのに。冬って感じが全然しない」

「温かい紅茶がおいしくなっていいじゃない」

 まだダージリンは寒がっているようだった。意地でも暖房をつけないらしい。変なところが負けず嫌いなのだ。体をがたがた震わせている。

「ぶるぶる……ここは北極だよ……」

「違うよ」

「じゃあ南極だよ……」

「いつもの楽屋」

「ねえ」

「何?」、セイロンはさすがにイライラしてきたようだ。

 ソファーの方に顔を向けると、ダージリンは両腕を差し出していた。そしてどこか欲しがるような表情を浮かべている。まるで甘える子供のように。

「来て!」とダージリンは言った。

 セイロンはちょっと顔をしかめた後、大きくため息をついた。

「本当に、あんたって人は……」

 結局、部屋にエアコンが作動することはなかった。

 二人の少女は、ソファーに腰かけて、抱き合っていた。いや、正確には、ダージリンがセイロンに抱き着いていた。セイロンの方は、背筋をぴんと伸ばして、じっとしていた。我慢強い猫のように。

「あったかい……」とダージリンは声を漏らした。「やっぱり、特殊な体温調節機能があったじゃない……」

「満足したら、離してよね。人に見られたらいやじゃない」

 セイロンの顔は少し赤くなっていた。それは暑いからか、それとも別の理由からかはわからない。

「平気だよ。ボクとセイロンの仲じゃない」

「ルフナに見られると面倒だよ」

「別にいいよ、あんな女狐。隅っこの方でほっとけばいいよ」

「馬鹿ね」、セイロンがあきれたように言った。「いい加減、仲良くしなよ」

「じゃあ、あいつが来たら、三人で抱き合おうよ」

 でも、結局のところ、三人が身を寄せ合うことはなかった。

 ルフナが来る前に、ADのヤマグチくんが来てしまったからだ。

 彼が来ると、二人は慌てて身を離した。

「お疲れーっす。――え? 何やってたんすか、二人とも?」

 ヤマグチくんはいつだってタイミングが悪い。

 これまでも、そしてこれからも。

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