自立とは何か?
はじめに
私は数年前に経営大学院を修了しましたが、その後も教員の方のご好意で一部の授業に参加させていただいています。その中で、企業や経営者の経営史をまとめる機会をいただき、私は「ヤマト福祉財団」と「小倉昌男氏」を取り上げました。
本noteでは、その一部を紹介し、「自立」について考えるきっかけを提供します。
私がヤマト福祉財団と小倉昌男氏に注目したのは、「福祉を変える経営(小倉昌男 著:日経BP、2003)」を読んだことがきっかけでした。私は作業療法士として、過去に高次脳機能障害の方などの就労支援に15年以上携わってきました。しかし、私は医療機関に勤務しているということもあり、対象者が作業所(現在の就労継続支援事業所)に通えるようになってからの「自立」に直接携わる機会は、あまりありませんでした。そこに、“知っていますか? 障害者の賃金が月給一万円にも満たないことを。”という真っ直ぐなメッセージを私に突きつけたのが、書籍「福祉を変える経営」でした。
ヤマト福祉財団と小倉昌男氏
小倉昌男氏が現在のヤマト運輸株式会社の経営者として素晴らしい手腕を発揮されたことはあまりにも有名ですので割愛します。
ヤマト福祉財団は、小倉昌男氏がヤマト運輸の名誉会長就任中の1993年(69歳の時)に設立しました。また、1995年(71歳の時)にヤマト運輸名誉会長を退任して以降は、ヤマト福祉財団の理事長職に専念しています。ヤマト福祉財団は、小倉昌男氏が所有していた300万株のヤマト運輸株式のうちの200万株(時価総額約24億円)と、設立に賛同したヤマト運輸からの5億円を資金として設立されました。
金儲けは汚いことか
小倉昌男氏はヤマト福祉財団をつくった理由を問われた際に、「実ははっきりとした動機はありませんでした。ただ、ハンディキャップのある人たちに、何とか手を差し伸べたいという個人的気持ちからスタートしたのです。」と答えています。
ヤマト福祉財団設立後の1995年1月、阪神淡路大震災が発生しました。小倉昌男氏は被災した作業所を訪ね歩きます。その際に小倉昌男氏は、作業所に通う障害者の月給がわずか一万円であることを知り、さらに保護者から以下のような言葉を聞いたそうです。
「親が子よりも長く生きなければ子供が自立して生きていくことができない」という言葉を受け、小倉昌男氏は経営者として培ってきた経営のノウハウを作業所の事業責任者などに無料で伝授する事業などを展開します。
その際に伝授したのは、リサイクルによる作品作りではなく、一般の消費者が買いたくなる商品を作るというマーケティングの視点でした。ところが、当時の受講者の多くは、“金儲けは汚いことだ。目の前で話している小倉昌男という男も、宅急便という商売で儲けた。福祉に比べると金儲けという汚い仕事をやってきた人間に、なぜ私たちが教えを請わなければならないんだ ーと思っているのがありありと顔に出ていた”と言います。確かに、私も医療従事者と経営に係る話をした際に同じような経験をしたのでよくわかります。ただ、私も経営を学ぶ前は同じような感情を抱いていました。つまり、「経営や金儲けは汚いことだ」という感覚が、病院や作業所の経営、ひいては障害者を含む被雇用者の給料のボトルネックになっているのではないかと感じています。
障がい者の給与の現状とスワンベーカリー
下の図は、就労支援事業所の平均賃金(工賃)の推移を示しています。これを見ると、近年の就労継続支援事業所の賃金は増加トレンドとなっている様子がわかります。しかし、障害基礎年金(月額は1級で約8万円、2級で6万5千円)と合わせても、経済的に自立した生活を送るには十分ではない現状があります。
ヤマト福祉財団の関連団体の事業として、スワンベーカリー事業があります。これは、小倉昌男氏が障がい者に月給10万円の給料を支払うことを目指してはじめたもので、一般消費者が買いたくなるような美味しい焼きたてのパンのお店です。1998年の設立以降、翌年にはフランチャイズ展開をはじめ、2002年以降はカフェの併設もはじめました。現在では、直営5店、フランチャイズ店23店を軸として、350名以上の障がい者が経済的な自立と社会参加を果たしています。
おわりに
さて、自立とは何でしょうか? 私が病院で作業療法士として勤務している時は、日常生活活動や日常生活関連活動の自立を強くイメージしていました。しかし、経済的な自立という視点をもっと強くイメージする必要があったと感じています。
私の社会人としての歩みは、対象者の強みを活かし、豊かさを求める前向きな試行錯誤を生業とする作業療法士からはじまりました。その後の私は、経営やマネジメントを学び実践する機会に恵まれ、今に至ります。
私も小倉昌男氏と同じように、これまで培ってきた作業療法と経営とマネジメントの経験を活かして、多くの方々の自立を支援する立場で社会貢献したいと強く感じています。そのためのプランが、これからの私のキャリアプランとなるはずです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
最後までお読みいただき感謝致します。よろしければ、サポートいただけると嬉しく思います。いただいたサポートは、よりお役に立てる記事を書くための取材費に活用させていただきます。