容量1KBPCの備忘録 その26 次に降りるのは誰だ

先日、自動車関連で大きなニュースが2つほどあった。一つ目は旧FCAと旧PSAを核とするステランティスグループが22年度末を以て欧州自動車工業会(以下ACEA)から脱退する意向を表明した事。
もう一つはイタリアを中心とする欧州5カ国がICE搭載車の販売期限を35年から40年へと5年の延長を要求する文書をEUへ提出するというものだ。

いうまでもなくステランティス内旧FCAはフィアットやアルファロメオ、マセラティ、フェラーリといったイタリア系自動車メーカーと密接な関わり合いがある会社である。
今回の文書もそうした旧FCAグループ(更に憶測を深めるのならば、フェラーリの力ある顧客)の意向が反映されたものと見て間違いないだろう。

だがここで折り合いがつかない点がある。ACEAは現在の急進的とも言えるEUの電動化へのスタンスに対し明確な反対の立場をとっているというのだ。

フランスの新聞『フィガロ』は、2035年から内燃機関を搭載した新車の販売を禁止するという欧州委員会の提案が欧州議会で承認されたのに対し、ACEAが「合理的ではない」と強く反対し、ハイブリッド車を存続させるべきという意向を表明したと報じている。
webCG 6/27デイリーコラムより

つまり、端的に言えば旧FCAグループとACEAの主張は似通っている。仲間であるACEAから何故脱退する必要があるのか。

そこに関わってくるのがステランティスのもう一つの半身たる旧PSAグループだ。
旧PSAグループはプジョーとシトロエンと中核とするフランス系自動車メーカーだ。
当然その意向はフランスの意向と近しいものがある。
フランスは脱原発が進んだEU内に置いて数少ない親原発国であり国内電力の殆どを原発が賄っている。
発電時のカーボンを気にする必要がない為、ZEVが真の意味でゼロエミとなる訳だ。故にZEVの普及も進めやすい国と言える。
そしてPSAグループ内での電動化は順調に進んでいる。

このことから見えてくるものはシンプルだ。
つまり、ステランティスはお互いがお互いの主張を通すための行動をしたという事だ。
内燃機関を残したいFCAと電動化を進めたいPSA。相反する2つの主張を通す。その為にはACEA枠外に身を置き独自の戦略を取った方が良いと判断したのだろう。

そしてここから見えてくるものがもう少しある。
EUと欧州自動車メーカーは全く以て一枚岩ではないという事だ。今のところドイツはこれらの対して反応するような動きは無いが、ここにきてEVの販売目標に対して及び腰も取れる発言も聞こえてくる。またドイツメーカーと関係が深いボッシュもACEAに同調する動きを見せている。
また旧PSAグループはトヨタとの関係性もあり、現ステランティスと欧州関連で協力する可能性もあり得る。
そうなると政府VS民間の対立構造がはっきりとしてくるし、今までのEVシフトは民間主導ではなく、政府主導である事の裏付けにもなる。

紛いなりにも製造業のトップに立つ自動車メーカーを敵に回すのは余りにも得策ではない。故にイタリアは、恐らくFCAの意向を反映した文書を出したのだろう。

イタリアは一抜けした。さて次に降りるのは誰だ。

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