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時事無斎雑話(6) エレバン放送から、歳末の詐欺被害防止についての呼びかけです

 今日は。エレバン放送第37日本支局から、時事無斎こと村正(むら ただし)がお送りします。
 年の瀬も迫る中、皆様いかがお過ごしでしょうか。2020年は世界的に何かと大変な年だったとはいえ、せめて年末年始は幾分華やいだ気分で迎えたいものです。
 一方で、歳末は犯罪にも気をつけねばならない時期です。特に今年のような年は、人心の動揺につけ込んで、詐欺や脅迫などの犯罪が増えることも予想されますので、どうかご用心下さい。
 と思っていたら、つい先日どこかの方が私宛に下記のようなメールを送って下さいました。わざわざのネタ提供ありがとうございます。以下に私からのコメントを交えながら全文を掲載します。引用部分は特に断りのない限り基本的に原文のままです。

ご覧いただけますように、このメールはあなたご自身のアカウントから送信されています。

時事無斎(以下Z):自分で自分自身にメールを送って、しかもそれを忘れてしまったのではないかと一瞬心配しました。お教えいただきありがとうございます。

残念なお知らせですが、どうぞご安心ください。ご説明させていただきます。

Z:いや、安心できません。どうぞご説明下さい。

私はあなたのデバイスにアクセスし、すでに数か月に渡ってあなたの活動をモニターしています。

Z:ご苦労様です。残念ながら、見ていて非常に退屈だったのではないでしょうか。

どうしてそのようなことが起きたのでしょうか?あなたがハックされたウェブサイトを閲覧したことにより、そこに仕掛けられた私の個人的なマルウェアにあなたのデバイスが感染したのです。

Z:それは一大事です。一体どこの猫画像サイトでしょう。

これはとても複雑なソフトウェアであり、トロイの木馬のような働きをます(引用注:原文ママ)。また、個人的なマルウェアなため、アンチウィルスソフトが検知することが出来ないのです。キーボードの操作を監視・記録するキーロガーが仕掛けられており、これにより私は、あなたのデバイスにおけるカメラやマイクの操作、ファイルの転送、あなたのローカルネットワークへのアクセスを行うことができます。

Z:さぞかし作るのが大変だったろうとお察しします。その労力を考えれば、私などよりもっとカネを持っている相手に対して使うべきでした。

デバイスの情報にアクセスするのに少し時間がかかりましたが、現在、私はあなたの連絡先やテキストの全情報を入手しています。

Z:ということは、私がずっと昔に書いた中二病センス満載の小説なども読まれてしまったということでしょうか。私の黒歴史ですので、できれば公開しないようお願いします。

正直なところ、最初は悪いことはしたくないと思っていたので、遊びでやっていました。でも、COVIDで体調を崩してしまい、仕事を失ってしまいました。

Z:ご心中お察しします。それは決してあなたの責任ではありません。最大の責任は大企業の利益と目先の経済活動を優先して、医療を初めとする公共サービスを削減し、感染症対策と失業者への支援をおろそかにしてきた新自由主義の政治家と経済人たちにあります。

そこで思いついたのが、これを使ってお金をもらう方法です。

Z:残念ながらあまり良い考えとは思えません。もっとあなたのスキルを生かせる合法的な方法があるはずです。

あなたが性的な行為を行っていた間、私はビデオを作りました。あなたが映るのは分割画面の動画です。

Z:あなたがモニターしていたという過去数か月間に、動画を撮られて困るようないけない事を実際にしてみたかったな、と、つくづく思います。

自慢はできませんが、お金が必要なのです。

Z:私自身もお金が必要なので、あなたの苦労は大変よく分かります。

のは(引用注:原文ママ)、取引をしてみましょう。あなたは私が求めるものを私に支払います、そして私はあなたの友人や親戚にこのビデオを送りません。

Z:私は友人がほとんどいません。親戚とも疎遠です。メーリングリストは空で、送られてくるのは企業からの宣伝メールばかりです。その中でわざわざお便りをいただけたことは大変嬉しく思います。この場を借りてお礼を申し上げます。

あなたは、これは冗談ではないことを理解しなければなりません。

Z:私からの回答も、冗談のように見えますがほぼ冗談ではないことを補足しておきます。

私はあなたの電子メール、テキスト、さらにはソーシャルメディアを通してそれを送ることができます。レッツは、私は2日間あなたを与えるだろう、契約上の期限を置きます。あなたがこのメールを開いたときに私が表示されます。

Z:一番大事な部分にも拘わらず、日本語訳が変で意味が分からなくなっています。添削して差し上げますので英語の原文と連絡先をお送り下さい。報酬については後述のサポートの金額に含ませていただきます。なお、私はソーシャルメディアを利用しないNSN(ノー・ソーシャル・ネットワーク)派です。

これを防ぐには、0.07 Bitcoin(約1300ドル)を私のウォレットに送っていただかなくてはなりません ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■。(引用注:ウォレット番号黒塗り)

Z:むしろ、この記事に対するサポートを1,400,000円(約13,000ドル)ほどお願いできますでしょうか。画面下の「気に入ったらサポート」アイコンからから支払画面に入れます。なお、この記事の売り上げの半分は、国際的な難民支援と児童の福祉・教育のためUNHCR、UNICEF、及びUNESCOに寄付する予定です。

Bitcoinの使用方法をご存じない場合は、「Bitcoinの購入」をbingやgoogleで検索してください。

Z:お心遣いありがとうございます。おそらく私のようなIT音痴がたくさんいることへのご配慮かと思います。ただ、検索して読んでみたものの理解できませんでした。ブロックチェーンとは何でしょう? ITに疎く英語も得意とは言いがたい中年男でも理解できる、日本語の初心者向けサイトを紹介いただければ幸いです。

私がこの金額を受け取り次第、あなたのデバイスから入手した動画を削除いたします。また、あなたのデバイスから私のマルウェアを削除し、あなたにご連絡を差し上げることは二度とありません。

Z:当方は、上記の金額の入金が確認されるまで、この記事を掲載し続けます。

P.S. これを警察に報告しようとしないでください。私はTORを使用しており、ビットコインを追跡できません。あなたは愚かな何かをする場合、私はビデオを配布します。

Z:残念ながらここ数日だけでも、愚かで恥多いことをあれこれとやらかしてしまったため、おそらくすでにビデオを配布されたことと拝察します。お手数をかけて申し訳ありませんでした。

 以上、一部ギャグを交えつつ逐次引用しましたが、ここから少しまじめな話になります。
 この種のメールや電話・手紙などを受け取り、パニックになって言われるままお金を振り込んでしまう人は少なくないようです。私自身、最初にこのメールを目にした時は、正直、多少動揺しました。しかし、まずはいったん気を落ち着けて「この話は本当なのか」と考えてみましょう。パニックになって良いことなど何一つありませんし、この場合、たった数十秒の思案をしている間に状況が一気に悪化するようなこともあり得ません。
 相手に考える余裕を与えず、パニックになっている間に金を払い込ませて素早く逃げるのがこの種の犯罪の常道です。逆にこうした犯罪の標的とされてしまった時は、少し気を落ち着けて考えてみるだけでも、おそらくずいぶん違ってくるはずです。
 冷静になって考えてみると、このメールの内容はおかしなことだらけです。過去数ヶ月にもわたって私の行動をモニターしていたにしては、あまりにも私自身に対する知識が乏しすぎます。送信者の方が動画に撮ったというような行為とはここしばらくご無沙汰(別に枯れているわけでも涸れているわけでもありませんが)であることは別としても、私がSNSのアカウントを持っていないことも知らず、私の名前すらどこにも入っていませんでした(他にも何点かあるものの、敢えて伏せておきます)。
 メール文にあった通り送信者のアドレスは私自身のものになっていましたが、その程度の小細工であれば別に私のPCをハッキングしなくても可能のはずです。実際、私のメーラーの送信記録には、このメールについての情報は何一つ残っていませんでした。おそらく私のメールアドレスのみをどこかで知って、送信者のアドレスだけを私のものに書き換えて送ってきたのでしょう。
 というわけで「実際には送信者は私の情報などメールアドレス以外何一つ知らない。感染させたというマルウェアもおそらく存在しない。当然、無視しても何の害もない」というのが結論です。あとから知った話では同時期に同じようなメールを送りつけられた人が他にもいたようですので、おそらく流出したどこかのメーリングリストか顧客情報あたりから私のものを含むメールアドレスを手に入れ、手当たり次第にメールを送りつけたものではないかと思います。
 気をつけていただきたいのは、こうしたメールや手紙を受け取った場合、覚えがあるからといって(覚えがなければむろんのこと)、カネで済ませようとして言われるままお金を振り込んでしまったりしないことです。メール文には金を受け取れば画像とマルウェア(そんなものが本当にあれば、ですが)を削除するとありましたが、もちろんそれが実行される保証などどこにもありません。犯人にしても、要求に応じるかどうかも分からず通報される危険もある不特定多数の相手に闇雲にメールを送りつけるより、脅しのききそうなカモを一人捕まえて徹底的に搾り取る方が安全で確実と考えるでしょう。実際、そうやってずるずると要求に応じてしまい、巨額のカネを騙し取られた人のニュースをよく目にします。
 以上が、私自身に届いた詐欺メールとそれに対する対処の顛末です。参考にしていただければ幸いです。メールを晒されて怒った送信者の方が何かのリアクションを起こしてくるかもしれませんので、それに備えて、あらかじめ素人なりにいくつかトラップは仕掛けておきました。今後何か動きがありましたら、改めて報告したいと思います。
 それでは皆さん、犯罪に気をつけて良いお年を。また、メールの送り主の方も、犯罪などに手を染めずに平穏な年越しができるよう願って止みません。
 以上、エレバン放送第37日本支局からお送りしました。

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