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リミテッド専用セット『カルドハイム』

ウィザーズ・オブ・ザ・コーストが誇るTCG(トレーディングカードゲーム)、マジック:ザ・ギャザリングの最新セット『カルドハイム』が発売された。北欧神話をモチーフにしたこの拡張セットは、フレーバーはさることながら同じく北欧で人気の高いヘヴィメタル・ミュージック・カルチャーとも親和性が高い。あのMarty Friedmanとのコラボレーションには思わず膝を打った。

かっこいい。

セットの評価:リミテッド

では商品としての中身はどうか。結論から言うと、リミテッド専用セットである。いわゆるパックを開封して即興でデッキを組み上げるシールド、ドラフトといったフォーマットをやるには史上1、2位を争うレベルで面白いセットであると言えるだろう。これには、サブテーマである"氷雪"が貢献している。

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氷雪カードは、パックに1枚必ず封入されている氷雪土地か、一部の氷雪パーマネントから出る氷雪マナ、或いはそれ自体の総数を参照することでより強力な効果を発揮する。この"氷雪パーマネントを集める"のが従来のリミテッドには無い感覚で、氷雪カードをまともに機能させる最低限の枚数(7~8枚程度)を他の有用なカードと並行して集めるには、特にドラフトでは駆け引きが発生して面白い。もちろん氷雪以外にも各色に色々なテーマがあるので、いかに他人と被らずに必要なカードを集めるかが今作はより一層楽しめるというわけだ。

また、喜ばしいことではないが、加速したインフレもリミテッドを面白くしている一因だろう。通常、カードのデザインにはレアリティ毎に相応しい効果がある。

https://magic.wizards.com/ja/articles/archive/making-magic/20180312

コモンの特徴
・バニラまたはフレンチバニラ
・テキストが短く、シンプルなもの

アンコモンの特徴
・複雑で長めのテキスト
・色対策など限定的な効果

レアの特徴
・一目ではわからないレベルの複雑さ
・1枚でゲームを決める、いわゆるボムの存在
・マナレシオが高い

神話レアの特徴
・レアに比べ複雑さはない
・強すぎてリミテッドをつまらなくする

これらのルールを鑑みると、カルドハイムでは明らかにレベルデザインが一段階引き上げられているのがわかる。特にマルチカラーのアンコモンにそれは顕著だ。

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《悪戯の神の強奪》なんて、上の記事にあるレアの効果"パーマネントのコントロール変更"を堂々と破っているし、一時期はレアの代名詞だったロード能力の《背信の王、ナーフィ》も自己再生能力付きだ。《氷刻み、スヴェラ》は3/2/4の優秀なマナレシオにメリット能力が2つ。うち1つは"ライブラリーの一番上からカードをプレイする"どころじゃない踏み倒し能力だ。

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レアカードの能力を半永久的に使えてアンコモンだそうです。

《氷刻み、スヴェラ》は流石にレアだろうと5度見したが、これがカルドハイムのアンコモンの現状だ。これをインフレと言わず何と言うだろう。おそらくウィザーズにしてみれば、3ヶ月スパンで発売される新エキスパンションの中でバランスを取る意図的なパワーレベルの底上げなのだろうが、ことリミテッド目線で言えばレア枠が倍近く増えていることになるので、リミテッドの盛り上がりには一役買っていると言えるだろう。


セットの評価:スタンダード

ここまで評価点ばかりを挙げてきたが、冒頭でも述べた通り『カルドハイム』はリミテッド専用セットだ。構築目線での収録カードの的外れ感は目に余るものがある。


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『戦乱のゼンディカー』から『カルドハイム』発売直後まで、スタンダードを定義し続けてきたカードが《砕骨の巨人》だ。こいつのせいでタフネス2のクリーチャーは使用禁止になってしまった。テンポアドがとれる「1マナ」か「+αの能力持ち(《義賊》《漁る軟泥》)」以外のタフ2生物には人権がなくなった。《砕骨の巨人》のせいで速くも遅くもないミッドレンジが非常に組みにくくなっているのがスタンダードの現状だ。本社がシアトルにあって、人種差別やLGBT問題解消に取り組む企業とは思えない人権意識の低さだ。

では『カルドハイム』で、タフネス3の構築級クリーチャーは増えたのか。結果はぜひ、Wisdom Guildなりで調べてみてほしい。


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スタンダードを定義しているカードといえば、この2枚もまた忘れてはならないだろう。定義していると言えば聞こえはいいが、正直使われて嫌な思い出しか無いし、ここまで『エルドレインの王権』のカードばかりで気が重い。こうしたカードも、使いやすい対策カードがあればここまで言われることはなかった。それは例えば、《自然の要求》のようなカードだ。

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《エンバレスの宝剣》のような、出てすぐ仕事をするカードには、できるだけ軽い対策が求められる。今スタンダードでガッカリしているのは、インスタントの1マナのアーティファクト対策が無いことだ。一応《萎れ》や《自然への回帰》等はあるものの、そうそう赤相手に2マナを構え続けられるだろうか?

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使ってて思うけど"重い"ッスわ


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極めつけは、《風化したルーン石》だ。これは明らかに禁止前の《創造の座、オムナス》デッキや《自然の怒りのタイタン、ウーロ》へのメタカードとしての収録だ。収録スケジュールは約1年前に決まるため、ほとんど変更ができないのは仕方がないにしても、ウィザーズはここまで対策カードの作り方が下手くそだっただろうか?どうしてもっと、ドローをつけたりアドバンテージを失いにくい何かをつけたり、汎用性の高い性能にできなかったのだろうか?

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こいつを見て、元から対策カード作るの下手糞なのを思い出した。


セットの評価:モダンとレガシー


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まとめ

以上が、『カルドハイム』をリミテッド専用セットと評した理由だ。インフレが全て悪ではないし、今回のようにリミテッド目線では必ずしもマイナスに作用するわけでもない。一部が極端に強い『エルドレインの王権』に比べたら、バランスの面で言えば成功したインフレだろう。

https://mtg-jp.com/reading/pd/0033449/

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今作のインフレの象徴


リミテッドが優れたセットということは、単体で完結したセットと言えるだろう。しかし他のセットと混ぜて遊ぶことを考えると、ここ数年のセットの中では失敗と言える。"予顕"の構築での使い勝手は微妙だし、氷雪デュアルランドはもう少し使い勝手が欲しかった。何より《アーカムの天測儀》にまみれた下環境民の、氷雪ヘイトカードへの期待を裏切った代償は大きい。『カルドハイム』は、メカニズムを継続できない、1セットを1ブロックとして販売するやり方の限界を示した見本市だ。


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結論:デザインチームはレガシーをやれ



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