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『鎌倉殿の13人』第23回「狩りと獲物」(2022年6月12日放送 NHK BSP 18:00-18:45 総合20:00-20:45)

今回は1193(建久4)年の富士の巻狩りと「曽我事件」。曽我の仇討ちと言わずに「曽我事件」である。

頼朝(大泉洋)が征夷大将軍に任じられたことを契機に富士の裾野での巻狩り(=軍事大演習)がおこなわれることとなり、義時(小栗旬)はその裏方として差配をしている。「和田殿(横田栄司)と梶原殿(中村獅童)は仲が悪いので離しておきましょう」とか御家人たちの配置にも気を配る。それに感心することしきりの五郎時連(のちの時房、瀬戸康史)。のちに泰時(坂口健太郎)が執権職に就くと連署として泰時政権を支えた大政治家もまだまだ空気が読めないところもある駆け出しである(当時18歳)。そんな五郎を下がらせた義時は、父・時政(坂東彌十郎)が曽我兄弟の敵討ちを装った謀反の企みに関与しているのかを直接確かめる。案の定、時政はまったく気がついていない。しかし、もし本当に謀反ということになれば、曽我五郎(田中俊介)の烏帽子親で敵討ちに兵を貸した北条の責任も問われかねない。義時の頭はどう北条を救うかの1点に集中していく……。

富士の巻狩りシーンはオールロケでの撮影とのこと。やはりここは見せ場に違いない。トップに掲げた画像は、毎年富士山女子駅伝のスタート地点となる富士山本宮浅間大社境内からの富士山の画像。頼朝が巻狩りの際に流鏑馬を奉納したと伝わることは、番組最後の「紀行」でも紹介されていた。

巻狩りの主役である万寿(のちの頼家、金子大地25歳)は当時11歳、金剛は10歳(坂口は30歳)。坂口健太郎演じる金剛登場カットでの「成長著しい金剛」という注が入る。三谷さんらしい遊び心である。一方、宿舎の準備に大わらわの時政のところに畠山重忠(中川大志)がやってきて「巻狩りを中止にできないのならば、守りを固めるだけ」と頼もしい言葉。時政もよろしく頼むという。

巻狩り初日が終わり、頼朝を囲んでの宴会。いつの間にやら頼朝に腰巾着になっている工藤祐経(坪倉由幸)が時政に「万寿様が獲物をあげられなければお主の手落ちだぞ」と嫌味を言う。そこに比奈(堀田真由)が比企能員(佐藤二朗)に連れられて登場。頼朝は相好を崩して、酌をさせる。その比奈は義時に話しかけてきて、その流れで鹿の集まりそうなところに出かけて行く2人。もちろん2人きりになった時点で義時にもその気があるのであろう。で、お約束的に2人には猪が襲ってくるという危機に遭遇。仲が急速に近づいていくというシーンに続く(どのくらい仲良くなったのかは、あとの頼朝が忍んで来るシーンで察しがつくという形)。

巻狩り二日目。相変わらず弓が当たらない万寿。万寿に「討ってみて」と弓を渡された金剛が放った矢は鳥に命中というオチ。繰り返すが、11歳と10歳なので金剛の空気の読めなさ加減は致し方ない。万寿に何とか獲物をあげさせようとする大人たちは、「動かぬ鹿」をセットすることを図る。こうした鎌倉殿と御家人たちの関係の中に現代日本社会の原型を見いだすのが、先日読んだ野口実『源氏の血脈』の主張であった。

巻狩り三日目。手はずを整え、金剛がはじめて射止めた記念の(?)鹿をその「動かぬ鹿」にしたのは八田知家(市原隼人)。とうとう鹿を仕留めさせられた万寿。しかし、大人たちの忖度に気がつかないほどバカではない万寿は「いつかは弓の名人になってみせる」と金剛に告げ、闇雲に放った矢は比企能員の足に命中するのであった。そして、武家の男子がはじめて獲物を仕留めたことをお祝いする「矢口祝い」のシーン。三色餅を山の神に供えてまた宴会シーンであるが、ここもすでにセッティングされていたことが重要。万寿様が一堂の前で次の鎌倉殿であると見せつけるデモンストレーションなのだから。一方、鎌倉に戻って政子、大姫(南沙良)、道(堀内敬子)らに巻狩りの成果を報告する比企能員に対して政子は「大したことではありません」と涼しい顔をしてみせるのであった。

さて、いよいよ曽我事件が勃発する。頼朝は老臣・安達盛長(野添義弘)の制止を無視し、寝所を抜け出して比奈の居所を訪ねるのだがそこにはすでに義時がいる。「お前とおなごのことで争う気はない」という捨て台詞を残して去って行く頼朝。頼朝は己のスケベ心のおかげで九死に一生を得た形となった。逆に頼朝の身代わりとして寝床に入っていた工藤祐経は曽我五郎に討ち果たされてしまう。頼朝遭難の報は、ただちに義時や金剛、万寿らにも届く。そこでの万寿の振る舞いはさすがであった。

「混乱の中、襲撃の第一報が鎌倉に届けられる」(長澤まさみ)。動転する政子に対して「鎌倉は私がお守りします」と述べた範頼(迫田孝也)のこの言葉が謀反の証拠となったと言われているが、ドラマでは範頼を押し立てるしかないという比企能員と道の策略という面が強く出ていた。逆に、実衣(宮澤エマ)と阿野全成(新納慎也)は千幡以外に次の鎌倉殿はいないという。今まで狂言回し的な立ち位置であった実衣(阿波局)がダークサイドに落ちた瞬間は身震いがした。

大江広元(栗原英雄)、三善康信(小林隆)らが範頼を囲んで善後策を協議。広元は頼朝の生死がはっきりしないうちに動くべきではないと言うが、康信は範頼の肩を持つ。康信と範頼は特別な関係があったはずだが、ちょっと今思い出せない……(追記するかも)。

再び富士の裾野。義時は北条氏を守るため、今回の事件が敵討ちを装った謀反ではなく、謀反に装った敵討ちとして処理するのが最善であると頼朝に進言。頼朝もそれに同意。かくして曾我兄弟の敵討ちが末代まで語り告がれていく伝説として誕生するという筋。あまりに見事な義時の筋書きに時政も言葉がない。

巻狩りの場で頼朝と義時の二人が今回の一件について話している。頼朝に「鎌倉殿は天に守られています」というが、頼朝は今回は天の声が聞こえなかった、「小四郎、わしがなすべきことはもうこの世には残っていないのか」と返すのであった。

その夜、比奈を訪ねる義時。「私はあなたが思っているよりずっと汚い」と比奈に告げるが、比奈はそれでも「私の方を向いてくれとは言いません。私が小四郎殿を見ていればそれで良いのです」という。

しかし、「事はそれで終わりではなかった」(長澤まさみ)。範頼謀反の疑いありと告げる広元の言葉に激怒する頼朝。再び鎌倉に嵐が……。





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