ディズニーランドの真実 3/2 スカイウェイでの宙づり
スマホで撮影された動画がニュースで流されるのが当たり前の現在であれば、上空をヘリコプターが飛び、オリエンタルランドの社長が「頭を下げる」ことになっていたでしょう。
スカイウェイ三五分間の宙づり
ある日のこと、「スカイウェイ」の緊急停止装置が作動し、アトラクションは停止しました。当然ゲストは乗車したままです。
信頼性の高い機械装置であり、過去に長時間停止することはありませんでしたが、この日は復旧に時間を要しました。宙づり状態が一五分を過ぎ、二〇分を超える頃になり、スーパーバイザーにも緊張感が増してきます。
「まずいな、エバキュエーションの可能性もあるかもしれない」
私は、同エリア担当のスーパーバイザーと協議しました。
「スカイウェイ」では年に一度、実際に救出訓練を行ってきました。多くの関連する部署が参加した、大掛かりな実地訓練になります。メンテナンス担当者が高所作業車を用い、宙づりにされたゴンドラからゲスト役のキャストを実際に救出します。
一方でこの訓練は、私たちスーパーバイザーが非常事態に遭遇した時、的確な指揮が執れるようにするための訓練の場にもなっていたのです。
停止後二五分が経過しても、運転は再開できませんでした。メンテナンス担当者は懸命に復旧作業に当たっています。メンテナンスの責任者の状況説明を受け、「長引く」と判断した場合、スーパーバイザーは次の場面を想定した行動に移ります。
第一に考えなくてはいけないことは「ゲストの気持ち」です。怒っているに違いありません。当日はたまたま風が弱かったので助かった面もありますが、ゴンドラの揺れによる気分不快を訴えるゲストも想定されます。
私たちは手分けをして以下の実行策を速やかに行うこととしました。
・再開後、速やかに乗車したゲストを一カ所に誘導する。セキュリティーオフィサーやアトラクションキャストを動員し、ゲストの誘導に当たる
・ファーストエイドのナースを待機させる
・場所はトゥモローランド・テラスとする。ゲストに飲食物を用意しておく
・復旧が不可能な場合、エバキュエーションを想定する
「スカイウェイ」が復旧したのはこの準備が整ってからすぐのことでした。フード担当のスーパーバイザーをはじめ、実に迅速に行動していただいたことを鮮明に覚えています。
私たちスーパーバイザーは、トゥモローランド・テラスの各テーブルを回り、一人ひとりのゲストに説明と謝罪をしました。正直、怒鳴られました。
「うちの女房は心臓に持病を持ってるんだ。これがキッカケで悪化したらどうしてくれるんだ」
メンテナンスの担当者にも説明に加わってもらいました。本来はゲストの前には出ないキャストです。スーパーバイザーのHさんでした。Hさんはオイルで真っ黒な手で、状況を知りたいゲストに丁寧に説明してくれたのです。
ゲストにはキャストの誠意が通じたのでしょう。このことにより事後に持ち越す苦情は一件も発生しませんでした。
手前みそになるかもしれませんが、高度に訓練されたスーパーバイザーたちの対応と、当日支援してくれた多くのキャストのチームワークが、「大事」に至らせなかった要因です。私は今でもそう確信しています。
携帯電話も普及し始めていた頃の出来事でした。翌朝「東京ディズニーランドで宙づり三五分の事故」というイメージダウンにつながる新聞記事が出るか、報道に発展させないことができるか。「故障」として扱われるか「事故」として扱われるか。それは東京ディズニーランドだけでなく、お客様に対応するすべての担当者の「手腕」にかかっているのです。そのことだけは間違いありません。
今から25年以上前の出来事です。オリエンタルランドは2パーク運営に対応するため、スーパーバイザー制度を廃止するとしていました。マスコミに報道されないよう、「大事」に至らせない指導・監督者教育が今でもしっかりと行われているのか、甚だ疑問です、
参考 テーマパークマネジメント職 | 職種紹介 | 株式会社オリエンタルランド 新卒採用 (olc.co.jp)
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