見出し画像

01号 自然体で生きるためのメソッド(3)

人間は探し求める耳である

森田 理恵(※1)

 このメソッドが日本に上陸したのが1993年、今では20年以上の月日が経ちました。
 私は縁あってこのメソッドに出会い、プログラムをご提供する立場となりましたが、折に触れて立ち戻るべくは、この「耳と声」のメソッドを通してトマティス博士が伝えたかったことは何だったろうか…ということでした。といっても眉間にしわを寄せていつも考えているわけでなく、その答えらしきものは、博士の言葉に触れた時、受講者の方とのやりとりの最中、あるいはこの冊子の編集についてメンバーと話し合いをしている時に、インスピレーションのごとく突然やってきたりもします。その答えがあっているかどうかは博士に聞かないとわかりませんが、そのいくつかの「答えらしきもの」は、私の中では、天体の星のように散りばめられていて、それらがある瞬間つながったり、あらたなものを導きだしたりすることがとても面白く、この答えを探る旅はいまだに続いています。そして、まさに今、この原稿を書きながら、また博士の言葉が思い出されました。
 —人間は探し求める耳である—と。
 人間は遠い昔に既に知っていて忘れてしまったことを、再び見つけ出していく生き物なのではないかと思う時があります。そのプロセスに意味があるのではないかと。それが「探し求める耳」ということなのか…。少なくとも私には今そう思えました。
 トマティスの発声コース(CAV)(※2)の目的は「本来の自分の声に出会う」ということの他に、「自分が何者であるかを知ることである」とフランスのインストラクターは言いました。CAVでは、声を出すということを、身体のレベルから分解して認識して再構築していきます。受講者はその過程において、自分が発する音(声)を通して自分の身体と心にコンタクトをとり、自己聴取の感覚を捉えていく・・・。
 「聴くこと」「発声する」ことのメカニズムを捉え直すことで、自分を知る、だなんて、なんて面白く、かつ深遠なことでしょう。この冊子を通してその面白さ、奥深さ、博士が伝えたかったことを、「探し求める耳」で多くの方と共有できたらと思います。

(※1)森田理恵
トマティスリスニングセンター東京及びNPOトマティス聴覚・心理・発声ケア協会両国センター代表。
トマティスメソッドカウンセラー。

(※2)CAV
トマティスの発声コースの名称で、フランス語のLe Cours Audio Vocalの略。トマティス聴覚トレーニングを受講した方を対象とし、聴覚トレーニングで調えた耳を使って、自分の本来の声に出会う4日間のコース。楽器となる身体をリラックスさせる体操から始まり、ナチュラルな発声の鍵となる響き(ハミング)を認識し、母音発声等を学ぶ。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?